【参議院本会議で法案成立】秘密保護法で解消されぬ「疑問」「矛盾」「問題点」続々明らかに 2013.12.6

記事公開日:2013.12.6 テキスト
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(IWJ・佐々木隼也、安斎さや香)

 政府・与党は20時頃から開会予定の参議院本会議で、「特定秘密保護法」の採決を行い、本日(12月6日)中にも成立させる構えだ。※23時23分参議院本会議にて総投票数212、白色票(賛成)130、 青色票(反対)82、の賛成多数で特定秘密保護法案は可決となりました。

 しかし、国会審議で野党が提示した様々な「問題点」「矛盾」について、与党は曖昧で不透明な答弁に終始し、現段階で、国民の不安や不信を払拭させたとは言いがたい。さらに、ここ数日内に次々に明らかになった「疑問点」についても、政府は十分な回答をしていない。また、昨日(12月6日)の参議院特別委員会での強行採決自体が、「採決と呼べるものだったのか」との声もあがっている。

 衆議院での採決が目前に迫るなか、それらを整理して掲載したい。

「議場騒然」「聴取不能」 5日の強行採決は「無効」?

 参議院規則第156条「会議録には、速記法によつて、すべての議事を記載しなければならない」

 12月5日、参議院の国家安全保障に関する特別委員会で、与党側が秘密保護法案を強行採決した。しかし、この採決をめぐり、与党による強行採決は「無効」であったとの声があがり、波紋を呼んでいる。

 冒頭に記した参議院規則第156条に沿って、会議録は作成されなければならない。ところが、議長が採決をとったとみられる場面について、同委員会の速記録にはこう記されている。

「石井浩郎君 ……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能)」

「委員長(中川雅治君)……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能)」

[委員長退席]

▲日本共産党の小池晃議員が撮影した速記録の画像

 速記録上、採決があった旨は記されていない。このため、野党側は、「聴取不能で、採決の体をなしていない」、「これは採決ではない」として、この採決そのものが「無効である」と主張している。

強行採決直前に重要資料を公開した政府・与党

 政府は、法案の問題点を審議する上で非常に重要な資料を、12月5日の午前、参議院特別委員会での強行採決直前になって開示した。

 2012年11月19日付の「特別秘密の保護に関する法律案【逐条解説】」と、内閣情報調査室が各省庁と協議した法令協議録の2011年11月分である。福島みずほ議員の強い要求によって、ようやく開示されたもの。

 いずれも法案の策定段階のものであり、各省庁とのやり取りは、今国会で持ち上がった様々な疑問点にも通じている。もしこの逐条解説が早期に公開されていれば、この法案の矛盾や疑問点、問題点がさらに数多く明らかになったと考えられる。

 12月5日の参議院特別員会で質疑に立った福島議員は、「なぜこの資料を出さなかったのか」と追及。これに対し森雅子担当大臣は、「請求があった場合は可能な限り対応してきたが、検討中の資料を出せないこともある」と答弁した。

【公開された資料は以下のHPより閲覧可能】秘密保全法に反対する愛知の会資料

国連人権高等弁務官の懸念表明「撤回」?

 12月2日、スイス・ジュネーブの国連オフィスで会見を行った、ナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官は、日経新聞、共同通信記者からの秘密保護法の質問に対し、「国家統治を損ねる」と懸念を表明した。

 ピレイ氏は、「何が秘密になるかについて十分に明確ではない。それによって、政府に不都合な情報を秘密と指定することを許してしまうことになりかねない」と述べ、「日本の憲法や国際人権法で保障された、情報へのアクセス権や表現の自由の権利のための適切なセーフガードを設置することなしに、拙速に法律を通すべきではない」と警鐘を鳴らした。

 国連の人権担当機関のトップが、一国の法案制定について強い懸念を表明するのは異例だ。

 これに対し、安倍総理は12月4日の参議院特別委員会で、ピレイ氏に状況を説明し、「この法案が憲法と整合性を持たせるべく修正が施され、国会がチェック機能の役割を果たしていることを評価する」との返答があったことを明らかにした。ただ、実際にピレイ氏がどのような説明を受け、どのような返答をしたかについて、国連や在ジュネーブ国際機関日本政府代表部のホームページでも確認が取れていない。IWJは引き続き取材を進めていきたい。

 このピレイ氏の懸念表明について、自民党からは苛立ちの声があがっている。6日付けの毎日新聞の記事によれば、12月5日朝、党本部で開かれた外交・国防合同部会で城内実外交部会長は、「なぜこのような事実誤認の発言をしたのか、調べて回答させるべきだ。場合によっては謝罪や罷免(要求)、分担金の凍結ぐらいやってもいい」などと発言。議員からは「そもそも内政干渉」「弁務官という立場は失格だ」などと強硬意見が相次いだという(毎日新聞記事12月6日 ※WEB記事削除)

「政府統一基準」「日米間の情報提供」「軍事機密漏洩への重罰」すでに十分整備されている日本の秘密保全体制

 森担当大臣は、衆議院や参議院の答弁で、「日本の秘密管理基準は省庁によってバラバラであり、統一基準が必要だ」と、この法案の意義を繰り返し答弁していた。

 しかし11月29日の参議院特別委員会で民主党の福山哲郎議員が、日本にはすでに平成21年に施行された「特別管理秘密に係る基準」という秘密管理基準があり、そこに「政府統一基準だ」と明記されていることを指摘。「虚偽答弁だ」と厳しく追及しました。

 森大臣は、「統一基準ではあるが、省庁によって管理責任者のランクがバラバラで、実態は統一されていない」と、統一基準がすでに存在することを認めた。福山議員は「(森大臣の)『政府がバラバラの基準で管理している』というのは、虚偽答弁ではないか。全くの嘘に基づいた法案提出だ」と糾弾した。

 しかし、日本にはすでに政府統一の秘密管理基準があるだけでなく、重罰を含めた秘密保全体制も十分整備されており、さらに言えば、推進派が掲げる「日米間の情報共有」もすでに十二分になされている。

 秘密保全に関する日本の法制度には、国家公務員法、自衛隊法、日米相互防衛援助協定(MDA協定)、日米刑事特別法などがある。特に日米相互防衛援助協定(MDA協定)、日米刑事特別法は、米国から提供された軍事情報をもらした場合、すでに10年以下の懲役という重い刑が課せられていることになってる。

 米国との間にはGSOMIA(軍事情報包括保護協定)が締結されており、それ以前からも、情報機関同士では毎日のようにやり取りが行われている。この法案の制定理由すべてが、すでに日本では十分整備されているのだ。

「過去にさかのぼって秘密指定可能」答弁で実質100年超えも

 11月29日の参議院特別委員会で森大臣は、外交文書について「過去の文書も要件を備えれば秘密指定できる」と述べた。自民、公明、維新、みんなの4党による修正案で「特定秘密」の有効期間の上限は「原則60年」と変更され、「ほぼ永久秘密ではないか」との批判があがっていた。

 しかしこの森大臣の答弁によって、これまで非公開だった過去の交渉記録なども新たに「特定秘密」に指定されることになり、実質「100年」を超えてまさしく永久秘密となってしまうことが明らかになった。

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