【第113-115号】岩上安身のIWJ特報!「特定秘密保護法は『ツワネ原則』にもとづき白紙撤回すべき! ~海渡雄一弁護士インタビュー」 2013.11.30

記事公開日:2013.11.30 テキスト独自
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(岩上安身)

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先日衆議院を通過した”稀代の悪法”特定秘密保護法案の危険性を徹底解説!

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 11月26日、衆議院特別委員会で強行採決が行われ、たった40時間、審議ともいえない形ばかりの審議を行っただけで、稀代の悪法・特定秘密保護法が衆院で可決されてしまった。

 その翌日からは、さっそく参議院で審議が開始された。政府・与党は、会期末である12月6日までに、同法案を成立させる構えである。

 この特定秘密保護法は、つい先日の11月27日に参議院で可決され、12月4日にも発足する見込みとなった、日本版NSC(国家安全保障会議)と一セットである。

 さらに、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認とあわせ、米国の引き起こす戦争に、地球の裏側であろうと、宇宙の彼方であろうと(安保法制懇座長代理・北岡伸一氏の発言【URL】http://on.wsj.com/1astlJ6)、自衛隊がつき従ってゆく体制ができ上がってしまうのである。

 前号の「IWJ特報~元内閣法制局長官・阪田雅裕氏インタビュー」でも明らかとなったように、日本の領土が侵されたり、日本の近海で起こった有事に関しては、憲法9条の現行解釈でも、個別的自衛権の発動によって対処することができる。

 集団的自衛権の行使容認論者は、中国や北朝鮮を念頭に、周辺諸国との安全保障環境の悪化をあげるが、いったん行使を容認すれば、自衛隊の人員や艦船が米国につき従って世界中に分散することになり、逆に日本周辺の防衛力は低下してしまう。矛盾もいいところである。

 なぜ、このような論理破綻もはなはだしい、集団的自衛権の行使容認、そして特定秘密保護法の制定を、安倍政権は急ぐのか。

 日本政府と日本国民の情報を献上させ、米国が今以上に日本という国を操れるようにする。そして米国と軍事的一体化をはかり、日本を米国の侵略に加担させ、その負担を肩代わりさせる「軍事的属国」に改造するためである。

 「IWJウィークリー」23号に掲載した「ニュースのトリセツ~特定秘密保護法案は”貧ぼっちゃまくん”!」でも指摘したように、特定秘密保護法案の第9条には、「外国の政府又は当該機関」に「特定秘密を提供することができる」という、驚くべき文言がある。

 つまり、国民には開示しない「特定秘密」を、「外国の政府」つまり米国には提供する、ということが堂々と明記されているのである。

 では、そのような法案を日本に強く要請する米国の真意とは何か。そもそも、この特定秘密保護法により、私たちの日常生活はどのように規制されるのか。そして、特定秘密保護法が完全に反しているとされる、安全保障と情報公開に関する国際指針「ツワネ原則」とは、いったい何か。

 これらの疑問に対し、日弁連で秘密保護法制対策本部副部長を務める弁護士の海渡雄一氏に、詳しく解説していただ いた。

 特定秘密保護法に対する参議院での審議が進むなか、必読のインタビューである。


◆インタビューのポイント◆

①元CIA職員のエドワード・スノーデン氏の暴露により、NSA(米国家安全保障局)が「PRISM」というプログラムで大手IT企業9社から網羅的にデータを収集していたことが明らかになった。その後も、ブラジルやメキシコ、さらにはドイツのメルケル大統領の携帯電話を盗聴していたことが発覚。日本も在米日本大使館がNSAに盗聴されっていたことが明らかとなったが、日本政府は他の国々と異なり、米国側にまったく抗議をしていない。

②「適正評価制度」(セキュリティクリアランス)を通過して「特定秘密」にアクセスできるのは、政府の中の一握りの人間だけ。各省庁の内部でも、「特定秘密」にアクセスできる官僚とできない官僚が分断され、省庁間の情報共有もできなくなる。したがって、日本の官僚機構は脳細胞の神経が切れたような状態となり、機能マヒに陥る可能性がある。

③特定秘密保護法は、2007年に日米で締結されたGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の延長線上に位置づけられる。米国は、GSOMIAによって日米間で共有した軍事・防衛上の機密が日本側から漏洩しないよう、特定秘密保護法の制定を急がせているのだと考えられる。

④さらにGSOMIAの締結後、日本の武器輸出を規制する「武器輸出三原則」の緩和が決定した他、宇宙航空開発機構(JAXA)の事業を「平和目的に限る」とする規定をなくし防衛利用を可能とする改正法が可決するなど、軍事技術の開発に道を開く措置が立て続けに決定している。そのことと、原子力基本法に「安全保障に資する」という文言が加えられたことをあわせて考えれば、特定秘密保護法と日本版NSC設置法の背景には、軍事機密の共有による日米での武器共同開発、さらには潜在的な核保有の欲望が存在する。

⑤特定秘密保護法は、国連関係者や、米州機構、欧州安全保障協力機構が策定に関わり、世界70ヶ国以上約500人の専門家が会議を重ねて今年6月に発表した国際指針「ツワネ原則」に多くの点で反している。例えば「ツワネ原則」では、政府が秘密を指定する場合には、政府に対し、合理的な説明を求めている。しかし、特定秘密保護法ではそのような規定はまったくなく、「特定秘密」の内容と指定された理由が明らかになることはない。


◆真の対立軸は何か◆

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▲岩上安身のインタビューに応じる海渡雄一弁護士

 岩上安身「ジャーナリストの岩上安身です。日本版NSC法案と特定秘密保護法案が秋の国会で上程されました。政府は12月初旬には可決させたいと考えているようです。NSC法案、特定秘密保護法案と、さらにこのあとに待ち受けていると言われている共謀罪があります。

 これらは、治安強化、あるいは戦争遂行のための準備と思われる法案です。これらの法案がどのような原則に違反しているのか。これについて、弁護士の海渡雄一先生にお話をうかがいます。

 大変問題をはらんだ法案が一挙に可決されるのではないかという危惧があります。最近になって急に非常に押取り刀で既存メディアでも反対の声が上がるようになりました。これによって、ひょっとしたら世論の声で廃案、もしくは抜本的な修正ができるかもしれないと思いますが、崖っぷちですよね」

海渡雄一氏(以下、敬称略)「そうですね。実は今日、国会で参考人の調べをやっているんですね(※1)。

今日の段階で、明日一日審議することが決まっているので、政府の考えでは来週ぐらいに衆議院採決に持ち込もうとしているのではないでしょうか(注:このインタビューが行われたのは11月13日)」

岩上「NSC法案にいたっては、もう衆議院はクリアしてしまいました。たいへん怖い問題がいっぱいあります。

 さて、まず最初のテーマは、『スノーデン事件から見えてきた監視国家アメリカ、そして日本ー秘密保全法制と盗聴法拡大・共謀罪とアメリカの影』です。『スノーデン事件から見えてきた』とありますが、スノーデンさんというのは、CIAの元職員で、アメリカのプリズムという盗聴プログラムの実態について暴露した方です。スノーデンさんが暴露したアメリカの盗聴システムの向こう側には、監視国家が見えます」

岩上「アメリカはものすごい勢いで変貌していて、たいへんな監視国家になっていて、全体主義国家になりつつあります。永続する警戒態勢と、永続する戦争体制を築き上げ、実行に移しつつあるわけですね。そこに日本は巻き込まれつつあります。NSC法案や特定秘密保護法案は、実は日米隷属関係抜きには語れないと思います」

海渡「去年の衆議院選挙、そして今年の参議院選挙で、自民党を勝たせてしまいました。そのあとにどういう未来が待ち受けるのか。それが今、我々の目前に迫ってきているような気がします。アベノミクスがいいのか悪いのか。今日はそれを議論する場ではないのですが、日本国民は騙されてしまったのではないかと思います。

 憲法は人権を保証するものであり、国家権力にくびきをかけていくものです。それを安倍さんは否定したがっているわけです。そして、アメリカと一緒に戦争ができる国家に日本を仕立て上げていきたいということがあり、そのために集団的自衛権を認めるよう進めています。

 日本版NSC設置法を作り、そして戦争ムードを煽り立てるために、秘密保全法を制定しようとしているのではないかと思います。

 そして原発の問題があります。原発事故は汚染水の問題を見ても分かるように、収束してないのですが、そういう状況のなかで、次の事故を引き起こしかねないにも関わらず、再稼働して、原発を輸出していくということも言っています。ここに来て、小泉さんが、それはダメだと言い出して、ちょっと面白い状態になっていますね」

岩上「小泉さんは昨日、日本記者クラブで、講演と記者会見を行いました。小泉さんの発言についてはどう思われますか?」

海渡「彼自身が自民党の首相で原発を推進した側にいた人ですから、そのことを深く反省していただかなければいけないのですが、今おっしゃっていることはたいへんまっとうですよね。

 小泉さんは、いったん思い込んだら最後までやる人じゃないかと思います。郵政が良かったか悪かったかは別にしても。だから、脱原発はまっしぐらでやってほしいと思います」

岩上「なるほど。原発輸出や原発再稼働に歯止めをかけるかどうかという問題が、真の対立軸にあります。安倍政権になってから、何回も外遊をしていますが、それは原発を輸出するためのトップセールスをやるという目的です。この背景には何があるのでしょうか。

 なぜ、こんな大事故を起こした直後の日本が、これほど焦って財界と政界のトップが一体となって、世界一安全な技術を提供するなどと言いながら兵器を世界中に売りまくろうとしているのか。また、それを買おうとする国々があります。これはどういうことなのでしょうか?」

海渡「私の見るところでは、やはり安倍さんの周りには原子力ムラがビターっとくっついています。自民党の中ではバラつきがあると思いますが、そのなかでも一番コアになる原発推進派が安倍さんの周りを固めていると見るしかないと思います」

岩上「非常に強力な利権がまとわりついていて、安全や、エネルギーの転換や、将来的な原発維持の莫大なコスト、それらに目をつぶってしまっています」

海渡「小泉さんの発言を少し読んだのですが、一番いいことを言ってると思ったのは、これは首相の洞察力と決断力の問題だという部分です。なかなか名言ですね。だから、安倍さんが、洞察力と決断力のない人なのかなと」

岩上「2つの論点のひとつは、戦争遂行可能な国家を作るということ、そしてもうひとつは原発を維持するということです。原発に関しては、さらに拡大、輸出までやろうとしています。この2点は、実は、掛け算でも考えられるべきことで、国内に54基もの原発を抱えたまま戦争に突入してしまうという状況になりえます。

 日本が戦場になったとき、原発をそのままにしてどうするのかという、本当にリアルな問題が差し迫っています。そういうことを全然考えていないということなのです」


(※1)2013年11月13日、衆院国家安全保障特別委員会で秘密保護法案についての参考人質疑が行われた。田島泰彦上智大教授など4人の参考人が問題点を指摘した。(2013年11月13日毎日新聞「秘密保護法案:衆院委で参考人質疑 田島氏ら4教授が意見」【URL】http://bit.ly/1gHV1xT

田島氏は「国家の秘密は保護する必要があり、認めないということではないが、国家の安全であれ、十分アクセスする権利があり、かつそれを保障する情報公開という枠組みを担保されることが必要であることを前提に、必要最小限度に、保護される秘密をできるだけ限定し調和していくというのが現代の民主主義の在り方ではないかと言っている」と述べた(民主党のホームページに田島氏の回答の内容が詳しく記載されている【URL】http://bit.ly/1cbwMV7)。


記事目次

  • スノーデン事件が明らかにした監視国家アメリカ
  • 特定秘密保護法で到来する「密告社会」
  • 適正評価制度で日本の中枢は機能マヒに陥る
  • 特定秘密保護法の罰則「懲役10年」が意味するものとは
  • 特定秘密保護法によって私たちの生活はどうなるのか?
  • 変貌するアメリカ
  • 核保有に向かう動き
  • 外交は秘密にするべきか
  • 原発事故のときに隠されていたこと
  • 逮捕されたら、どうやって裁かれるのか
  • 共謀罪とはどういうものか
  • 「ツワネ原則」とは何か
  • 秘密保護法案がツワネ原則にいかに反しているか
  • 修正案に入れられた、報道の自由の保証とは?
  • 法案は白紙に戻すべき

(…サポート会員ページにつづく)

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