5月19日、福島原発事故当時、18歳以下だった子どもを対象に甲状腺検査を実施している福島県は、結果がまとまった28万7000人のうち、甲状腺癌、もしくは疑いがある子どもの数が90人にのぼったと発表した。うち51人はすでに甲状腺の摘出手術を済ませている。
福島復興再生特別措置法により、福島県は甲状腺検査を無料で実施し、手術が必要な場合の費用や服用する薬についても医療費支援を行なっている。しかし、当事者が19歳以上の場合は、検査を含む医療費は一般診療の枠組みとして扱われ、自己負担が発生する。例えば、事故当時18歳以下でも、19歳になった時点で手術が必要になった場合、手術費は自己負担となるのだ。
- 環境省、復興庁との交渉(冒頭に要請書提出)
- 厚労省との交渉(緊急作業従事者の疫学調査に限定)
- 交渉のまとめと今後について参加者の意見交換
4人家族、3人に甲状腺異常
原子力資料情報室、脱原発福島県民会議など8団体の呼びかけで、6月10日、院内集会と政府交渉が開かれ、福島県内のほか、近隣県からかけつけた自主避難者らが、19歳以上の甲状腺医療費の無料化を求め、国に陳情した。
冒頭、70団体と2000を超える市民の連名で要請書を提出。その際、福島県から訪れた男性が福島県須賀川市に住む知人からの訴えを代弁した。
4人家族であるSさんは、Sさん自身と2人の息子の甲状腺に異常が発覚した。次男については、今年の10月に19歳を迎えるため、年度明けの4月以降からは医療支援の対象外となり、個人負担が発生する。Sさん自身は、のう胞と結節がみつかっており、1回の検査は5千円から1万円。すでに3万円を支払った。 3人に甲状腺異常が見つかっていることから、病院からは、定期的な検査を受けるようにと指示されている。検査費用がかさむ上、もし、癌と診断された場合、手術代や薬代をどう工面すればいいのいか分からないという訴えだ。
「国が推進した原発事故で何も負うべき責任はないのに、事故さえなければ苦しみは経験する必要はなかった。被災者の家計を圧迫している。19歳以上の医療費も負担するのが当たり前ではないのか」
煮え切らない回答に苛立ち
交渉の場に出向いた環境省の職員らは、被災者からの切実な質問を受け意見を求められるも、「回答はできない」と答え、19歳以上の医療費支援の実施については、被災住民の健康のあり方を検討している専門家会議の結果をもって判断すると述べるに留まり、復興庁の担当者においても、曖昧な回答しか示すことができなかった。
19歳以上で、甲状腺の医療費を負担している被災者の人数も把握していないことについて追及されると、環境省の担当者は「聞かれるとも思わなかった」という趣旨の発言を返した。被災当事者の切実な訴えを前に、煮え切らない回答を繰り返す国に対して、交渉にあたった市民らは苛立ちを隠さなかった。
「もっと子どもを産みたかった」