「甲状腺検査で、悪性ないし悪性の疑いは合計75例」 〜第14回福島県「県民健康管理調査」検討委員会 2014.2.7

記事公開日:2014.2.7取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 床次眞司委員(弘前大学教授)は「実効線量は(セシウムの)外部被曝の数値だが、甲状腺がんは、放射性ヨウ素や内部被曝の相関なので、プルームの移動などと対照すれば、もっと被曝との因果関係を確かめられる」と指摘した。

 「単胎における先天奇形・異常の発生率は2.39%で、一般的な発生率(3~5%)とほぼ同様。先天奇形・異常の中でもっとも多かった疾患は、心臓奇形の発生率0.79%であったが、心臓奇形の自然発生率約1%と変わらなかった」との報告もあった。

 2014年2月7日、福島市内のホテルで、福島県による「第14回福島県『県民健康管理調査』検討委員会」が行われた。2013年12月末現在の甲状腺検査の結果が報告され、2次検査によって悪性ないし悪性疑いとされた子どもは計75人となり、前回2013年9月末の58人から16人増加した。これまでに34人の手術が行われて、33人の子どもが甲状腺がんと確定した。

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  • 日時 2014年2月7日(金)13:30~16:00/(記者会見)17:00~
  • 場所 グランパークホテルエクセル福島恵比寿(福島県福島市)

 まず、司会者が、委員会の進行上の注意点と、塚原太郎環境省環境保健部長の欠席を報告したのち、福島県医師会常任理事の星北斗座長の議事進行で、第14回福島県「県民健康管理調査」検討委員会が始まった。

 冒頭、県民健康管理センターのセンター長、阿部正文氏が、平成24年度県民健康管理調査「健康診査」で、血液検査の結果データの一部に転記ミスがあったことを報告、謝罪をした。続いて、福島医科大学教授の細矢光亮氏が、この誤りについて、「現在、データの再確認を実施中。白血球数の桁数9件、記入誤り4件などがあった」と述べ、その原因と確認状況、今後の対応などを話した。

 その件に対し、双葉郡医師会の井坂晶委員が、「以前から、検査体制の複雑化による、こういう事故を懸念していた。一元化、簡素化に向けて、見直すべきだ」と発言。県民健康管理センター副センター長の安村誠司氏が「市町村で独自でやっていた検診に上乗せしたので、その趣旨も理解してほしい」と述べたが、井坂委員は重ねて、「整理し直す必要がある」と主張した。

48台のホールボディカウンター、70万人を検査

 本題の県民健康管理調査に入り、まず、基本調査担当の石川徹夫氏(福島医科大学教授)が、「『基本調査』の実施状況について」「問診票(簡易版)」にかかる進捗状況、問診票の回答状況及び線量推計作業状況、実効線量推計結果の状況と評価、回答率の向上活動、ホールボディカウンターと個人線量計データの一元化などについて、要旨を述べた。

 その中で、石川氏は「対象者205万6994人のうち、51万5212人(25%)から問診票(簡易版)の回答があった」とし、「100ミリシーベルト以下での、明らかな健康への影響は確認されていないことから、放射線による健康影響があるとは考えにくい、と評価される」と報告した。

 また、ホールボディカウンター導入に関して、県民健康管理課の佐々恵一氏が「ホールボディカウンターは48台あり、県は17万5000件、市町村合計52万8000件(うち子供30万人)に実施した」と話した。

「悪性ないし悪性の疑い」75例

 本題に入る前に、福島医科大学教授の鈴木眞一氏が、福島医科大で甲状腺がんの遺伝子解析の研究を開始したことについて、「福島でなぜ、甲状腺がんが多発するかについて、原因を究明することが目的だ」と話した。清水一雄委員(日本医科大学大学院教授)が、その遺伝子解析の研究目的などを補足説明した。

 本題に戻り、鈴木氏は「『甲状腺検査』の実施状況について」の平成23~25年度の検査数値など、データを列挙した。「対象者33万3409人のうち、26万9354人が受診。甲状腺がんの悪性ないし悪性の疑いは、合計75例(手術34例、良性結節1例、乳頭癌32例、低分化癌疑い1例)、男性28例 女性47例、年齢は8~21歳、震災当時年齢6~18歳、と報告した。(数値は平成25年12月31日現在)

 質疑応答になり、専門的な質問がいくつか寄せられた。ある委員が「被曝実効線量と甲状腺がんとの因果関係がないことがわかった」と述べると、床次委員は「基本調査の実効線量は(セシウムの)外部被曝の数値だが、甲状腺がんは、放射性ヨウ素や内部被曝の相関なので、プルームの移動などと対照すれば、もっと被曝との因果関係を確かめられる」と指摘した。

 また、ある委員は「これまでの75例は、被曝の影響とは考えにくい。いまだ、疑うドクターもいるので、表現を明確にする必要がある」と意見を述べた。

女児は体重増加の傾向、生活改善が望まれる

 矢部博興氏(福島医科大学教授)が、「健康診査」の実施状況について報告した。「対象者21万3444 人(15歳以下:2万6474 人、16歳以上:18万6970 人)。0~15歳の子どもは、男女とも平成23年度より平成24年度が身長が高くなり、体重が減少傾向。つまり、運動量が増え、食習慣は改善したと推測できる。しかし、全国平均と比較して、平成24年度の女児は体重がやや多く、 より一層の生活環境の改善が望まれる」とした。

 続けて、県民健康管理課の小谷尚克氏が「既存健診対象外の県民に対する健康診査の実施状況について」を報告した。「19~39歳で、既存の健診を受けられない者を対象に、生活習慣病や疾病の早期予防、早期治療を目的に実施する」と目的を述べ、健診項目、方法、平成24年度実績の健診結果などを報告した。

 委員からは、「子どもの運動量が増えた、食生活が改善したというが、その内容についての調査も必要だ」「健診結果だけではなく、その改善方法、普及の工夫も必要」との意見が発せられた。

子どもの不安のトップは地震・放射線、学校生活への影響

 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の実施状況について、前田正治氏(福島医科大学教授)が報告した。「子どもでは、電話支援(対象)者715人(男406 人、女 309人)。そのうち、電話支援を実施できた者は623人だった。その中に要フォロー者は27人いた。一般人の対象者は6074人(61.4%が女性)だった。電話支援の実施は5324人で、80.3%の対象者から『安心した』との回答を得た」。

 まとめとして、「平成24年度の子どもの支援対象者は1474人、一般の支援対象者は1万6242人。CAGE(アルコール依存尺度)の基準だけの該当者は2657人だ。また、子どもの不安は、地震・放射線への反応、学校生活への影響が多かった」。

 「一般対象者の不安は、身体の不調、睡眠の乱れ、日常生活習慣の変更、行政政策への不満、補償問題だった」と説明。最後に、平成25年度調査の実施状況について、概要を報告した。

 清水一雄委員は「とても大事な調査。チェルノブイリでも効果を発した」と評価し、清水修二座長代行からは「心のケアが必要なのは県外避難者、という声がある。支援対象者の1割が心療内科に通っているのは、かなり高い割合ではないか」との指摘がなされた。井坂委員は「仮設住宅で暮らす避難者たちのストレスは、とても大きい」とし、成井委員は「子どもが、親のストレスを受けることを懸念する。子どもと親の関連で考える必要がある」と発言した。

出産における奇形・異常の発生率は全国平均と同じ

 藤森敬也氏(福島医科大学教授)から、平成24年度「妊産婦に関する調査」の結果報告が行なわれた。この調査は、福島県内の妊産婦の現状、身体や心の健康度を把握し、不安の軽減と必要なケアを提供することなどを目的に実施された。調査対象者は1万4516 人 。集計方法、期間、集計結果と内容の説明が続いた。

 「早産5.74%は、前年より増えた。流産0.81%(昨年0.77%)、低出生体重児の割合は9.6%、単胎における先天奇形・異常の発生率2.39%。一般的な発生率(3~5%)とほぼ同様だ。先天奇形・異常の中でもっとも多かったのは、 心臓奇形の発生率0.79%であったが、心臓奇形の自然発生率の約1%と変わらなかった」。

 「母親のうつ傾向は25.5%で、前年よりは下がったが、相双地区では、32.1%と高い。避難中(仮設住宅含む)でも相双地区が一番高く61.3%。また、52.9%の人が、次の妊娠を希望すると答えた」などと述べた。

 質疑応答になり、成井香苗委員(福島県臨床心理士会)から、「この調査では、母子手帳を交付された人に一律に調査票が郵送されるが、その後、不幸にも死産となったケースもある。そういう人への配慮がほしい」との意見があった。

はじめに結論ありきの環境省事業

 続いて、福島医科大学の大平哲也教授から、配布資料の「県民健康管理調査データ管理システムについて」、佐々氏から「県民健康管理調査『甲状腺検査』の県内検査拠点について」の報告があった。

 そして、環境省放射線健康管理担当参事官の桐生康生氏が、「平成26年度環境省予算案について」、住民の個人被曝線量の把握事業、個人線量に基づく放射線健康不安対策事業(25年度補正)、県民健康管理調査支援のための人材育成事業、放射線の健康影響、被曝線量評価等に関する調査研究事業などの各要旨を説明した。

 それに対し、清水委員が「個人被曝の線量の把握事業の目的に、『被曝線量をより正確に把握させ、住民の不安を解消するとともに、帰還促進に資する』とある。環境省は『放射能には不安がない、問題がない』と、はじめに結論ありきの言い方だ。ならば、『政府がデータ化して、責任を持って確認する』と書き加えるべきだ」と意見を述べた。星座長は「個人に判断を丸投げするのではなくて、きめ細かさも必要だ」と付け加えた。

 最後に、事務局が「次回は、5月開催で予定中。甲状腺評価部会は、3月を予定している」と伝えて終了した。

甲状腺がんに質問が集中

 閉会後の記者会見では、新たな甲状腺がんの増加、検査で悪性と診断される患者が増えたことに質問が集中した。「実効線量と甲状腺がんと相関はないと、鈴木教授は言ったが、甲状腺がんはヨウ素や内部被曝に相関する。何かコメントはないのか」との問いには、星座長が「同感で、これをもって証拠にはならない。今後、必要な対応を考える」と答えた。

 「福島医科大の遺伝子検査で、被曝の影響かどうか、わかるのか」との質問には、鈴木教授が「遺伝子検査は、発がんの全体的なメカニズムを研究するのが目的だ」と応じた。

 「悪性、悪性疑い0.06%は多いのか。また、甲状腺がんはメジャーな病気なのか」という問いに対して、星座長は「現状で、多いか少ないかは断定できない。これから、もっと研究が必要」と述べ、清水委員は「がんセンターのデータからだと多いが、全員検査からの数値なので、比較できない」とした。

 また、鈴木教授は「今のところ、予後不良は聞いていない。今回、1順目検査(先行検査)が3月で終了。4月からは、2順目(本格検査)になる。1順目の検査結果をベースラインに、また、放射線の影響も含めて検査することが、本格検査と認識している」と話した。

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