「100ミリシーベルト以下での明らかな健康被害は確認されていないことから、放射線の健康影響があるとは考えにくい」 ~第12回福島県「県民健康管理調査」検討委員会 2013.8.20

記事公開日:2013.8.20取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 対象者25万6023人から、一次検査実施数21万6809人。そのうち1280人が二次検査の対象となり、結果は悪性が43例と良性1例(手術19例:乳頭ガン18例、男18例:女性26例、平均年齢16.6歳)だった――。

 2013年8月20日(火)13時30分より、福島県福島市にあるグランパークホテルエクセル福島恵比寿において、第12回福島県「県民健康管理調査」検討委員会が開催された。各担当者より、「(1) 基本調査について (2) 詳細調査について 1. 甲状腺検査 2. 健康診査 3. こころの健康度・生活習慣に関する調査 4. 妊産婦に関する調査 (3) その他」を報告した。記者会見では、特に小児甲状腺がんについて質問が集中した。

■第12回福島県「県民健康管理調査」検討委員会

■記者会見

  • 日時 2013年8月20日(火)
  • 場所 グランパークホテルエクセル福島恵比寿(福島県福島市)

 まず、基本調査について、福島県立医大の放射線医学県民健康管理センター副センター長の安村誠司氏が報告した。「2013年7月31日時点で、全県205万6994人のうち、48万3088人から回答があり、回答率は23.5%だった。今回までの実効線量の推計結果の状況を地域別に見ると、県北・県中地区では90%以上の人が2ミリシーベルト未満、県南では約91%、会津・南会津では99%以上の人が1ミリシーベルト未満、相双地区では約78%、いわき地区でも99%の人が1ミリシーベルト未満である」などと、調査結果を述べた。

 続けて、「これまでの疫学調査により、100ミリシーベルト以下での明らかな健康被害は確認されていないことから、放射線の健康影響があるとは考えにくい」とした。また、基本調査の回答率向上のための取り組み、問診票の簡易版について説明し、質疑応答に移った。

 双葉郡医師会顧問の伊坂委員は「100ミリシーベルト以下での健康影響がない」という表現への異議を述べた。また、内部被曝検査の管理への見解についても質問した。100ミリシーベルトの健康影響の表記については、他の委員からも多数の意見が寄せられた。

 次に、議題は詳細調査の「1. 甲状腺検査」に移り、福島県立医大の鈴木眞一教授が報告した。まず、23年度、24年度の検査実施の詳細(地区、年齢、県外対象者)を説明し、「23年度、24年度の総計では、7月31日時点で、対象者25万6023人から一次検査実施数21万6809人。そのうち1280人が二次検査対象者にあたり、悪性が43例と良性1例(手術19例:乳頭ガン18例、男18例:女性26例、平均年齢16.6歳)だった」と報告した。

 福島大学教授の清水修二委員が「チェルノブイリでは、原発事故から4~5年たって小児甲状腺がんが急増した。今回の発見数(44例)と原発事故との因果関係はないとすると、小児甲状腺がんは、潜在的に多くある病気だということになる。検査をすればするほど、見つかるものなのか。加齢で増えるはずの甲状腺がんが、今回の検査結果では子どもに発症例が多いのに、チェルノブイリとは違うという根拠はどこにあるのか」と質問。さらに、甲状腺がんの4~5年の潜伏期間の信憑性と、10年くらいでがんが現れるという言説についても訊ねた。

 鈴木教授は「甲状腺がんは、非常にゆっくりと育つ。また、年を取れば取るほど悪性度が増え、進行性の未分化がんになるが、若い人にはない。それで、5ミリ以下の腫瘍を探すのはやめる、というのが臨床のガイドライン。だから、今回の結果について検討はするが、2年前にできたものとは思えない」と答えた。続けて、「年齢別に見ると、チェルノブイリの時とは明らかに違い、被曝とは関係ないとも言える。また、甲状腺がんにかかわらず、外照射被曝での10年以降の疾病率増加は、5年説もあり、必ずしも正しいとは言えない」などと述べた。

 質疑応答の終了後、福島県医師会常任理事の星北斗座長が、「県民健康管理調査」検討委員会における甲状腺検査評価部会の設置案について説明した。「目的は、甲状腺検査の結果について、病理、臨床、疫学などの観点から専門的な議論をし、多角的な検証・評価を行い、その知見などを県民に広く周知すること」とし、その人選についても言及した。

 次に、福島医科大の藤森敬也教授から「2. 健康診査」についての報告が行われた。健康診査の年度別、年齢別実施数と受診率、実施状況、促進計画などを報告した。また、平成23、24年度の県民健康管理調査「健康診査」の結果(身長、体重など体格の変化)などを説明した。これに対し、福島県病院協会の前原和平委員は「震災前の平成22年度に、福島県は男女とも心筋梗塞死亡率が1位だった。前から肥満率が高かったが、震災後、屋外活動の抑制、ストレスの増大など生活習慣の変化で、悪化していることが読み取れる貴重なデータだ」と所感を語った。

 福島医科大の矢部博興教授が「3. こころの健康度・生活習慣に関する調査」について、「回答状況は6万6014件(31.2%)で、子どもの場合は情緒、トラウマ反応の両方で、年齢が高ければ高いほど、そして、女子の方がポイントは高かった。また、放射線の健康影響については、被曝での自分の健康被害への心配や次世代への影響の懸念は、前回調査より割合が減った」などと報告し、質疑応答に移った。委員から「東京、埼玉で暮らす、福島からの避難者にPTSDが50%以上あった、との報道があったが」と問われると、矢部教授は「PTSDとするには精神科医が診断する必要があるので、あの報道には大きな疑問がある」と答えた。

 藤森教授より「4. 妊産婦に関する調査」について、「1万4516件の質問票の配布に対し、回答数6913件(47.6%)。妊娠結果では、流産0.79%、奇形は2.32%で、心臓奇形が一番多く0.8%。母親のメンタルヘルスで、うつ傾向は相双地域の32.1%がもっとも高く、南会津地域が18.2%で一番低かった。次回も妊娠を期待する人は52.7%。また、放射線の影響が心配で妊娠を希望しない人の割合は14.9%だった」と報告し、委員会は終了した。

 委員会終了後の記者会見で、「100ミリシーベルト以下での健康への影響は確認されていない」の表記について、「誤解を招くのでは」と訊かれると、星座長は「少なくとも、この表現には問題があり、検討する」と答えた。他の委員が「リスクとしては小さすぎてわからない、ということでもある」と付け加えた。

 続けて、甲状腺がんについて「半年経過で、腫瘍の変化が見られないので、原発事故の影響ではないと判断しているが、発症18人全員にそれが当てはまるのか。また、変化がないというのは、どの程度の範囲か」との質問があった。それに対し、鈴木教授は「一次、二次検査と数回あるが、それらの結果がよくわからない。今のところ、急に大きくなった例は報告されていない」と答えた。別の記者が「今回、見つかった15~16ミリの腫瘍径は、常識的には2、3年での成長ではないというが、小さな腫瘍もあった。それは、放射能の影響ではないのか」と訊くと、鈴木教授は「いつ発症したかまでは、わからない。しかし、腫瘍の位置など複合的要因で、小さくても摘出する場合もある」とした。

 甲状腺がんの二次エコー検査の実施医院の指定について、「指定を受けるには、複数の研修や試験もあり、ハードルが高い。しかし、星座長の病院は、すぐに指定病院になっているが、なぜか」という質問が出ると、「福島県が、モデル病院として依頼した」と県の関係者が回答した。

 次の記者が「福島県立医大の放射線医学県民健康管理センターの阿倍正文センター長が、去年6月に『甲状腺検査で誤診は必ず起きる』と発言し、その後、福島県立医大が10億円の医療賠償保険に加入したが……」と問いかけると、委員会側が「今回の会議に関連した質問に限ってほしい」と質問の途中で制止した。会場はヤジなどが飛び交い、一時騒然となった。

 その後、健康診査での白血球検査、血小板などの検討比較について、公表しない理由を問われると、「比較検討できるデータが、まだ揃っていないため」と回答。星座長は44人の甲状腺がんについて、「現在の段階では、(原発事故との)影響があるとは思えない。ただ、決めつけることはできないので、検討部会を設置する」と述べた。

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