2014年6月7日、京都市の鴨沂会館で「パレスチナ報告会 封鎖下のガザを訪ねて ナクバから66年目の〈パレスチナ〉が問うもの」が行われた。
封鎖の続くパレスチナ・ガザ地区の現状や背景にある問題について、3月にガザを訪問した京都大学教授の岡真理氏がマイクを握った。「ガザの問題を『人道問題』に収れんさせたら、イスラエル政府の思うツボ」と訴える岡氏は、「第2のイスラエル人」「第2のユダヤ人」との表現を使いつつ、諸悪の根源は「民族浄化」という不正義にある、と力を込めた
その入念なスピーチに、講演の後半、客席から「結論」を急がせる声が飛ぶ一幕もあったが、岡氏は「ガザの現状を知らない人たちがいる」と説明。自身のペースを維持して終始大熱弁を振るい、約3時間にわたって活気のある報告を続けた。
- 主催あいさつ 須田稔氏(京都AALA代表委員)
- 講演 岡真理氏(京都大学人間・環境学研究科教授)
「つぶさに実態を見ることができないのが、今のガザの状況だ」。岡氏は冒頭でこう強調し、「ガザに外国人が入ることは極めて難しい。完全封鎖状態にあるため、パレスチナ人の出入りすら原則不可能だ」と言葉を重ねた。そして、次のように述べた。
「2011年に『アラブの春』と呼ばれた一連の民主化運動があり、エジプトでは、長らく続いたムバーラク政権に終止符が打たれ、2012年にムスリム同胞団系のムルシー大統領が誕生した。親パレスチナである彼は、ガザが封鎖状態にある中で、エジプト側から、多数の地下トンネルを通じてガザに入ることを可能にした。フリーの外国人ジャーナリストらも、エジプト側からガザに入った」。
その地下トンネルは、イスラエル政府から経済制裁を受けているガザ地区が、各種生活必需品を獲得する「生命線」の役割を担っていた。だが、イスエル政府は、そのトンネルを通じて攻撃用ロケット弾の部品がガザ地区に密輸されている点に着目し、安全保障を理由に地下トンネルをたびたび空爆した。
岡氏は、地下トンネルを通じてロケット弾の部品がガザ地区に入った可能性を認めつつも、「現在、ガザには約180万人が住んでいる。彼ら彼女らにとって、トンネルが機能しなくなることは大問題である」と語った。
そして、昨年7月、ムルシー大統領がクーデターに極めて近い格好で追放され、大統領職を追われたことで、その大問題は現実化する。「ムバーラク時代に独裁政権を支えていた軍部の代表が、エジプトの新たな大統領に就任したのを受け、全部で千数百本ともいわれる地下トンネルのほぼすべてが、エジプト政府によって破壊されたのだ」。
地下トンネル破壊による「完全封鎖」
こうしてガザ地区は「完全封鎖」状態に陥ることになり、外国人がエジプト側からガザ地区へと入ることも、ほぼ不可能になった。今は、パレスチナ側のエレツ検問所から入るしかないのだが、イスラエルにプレス登録している大手メディアの特派員か、イスラエル、パレスチナ自治政府に団体登録済みの人道支援のためのNGO(非政府組織)のスタッフしか対象にならない。岡氏は、日本の「パレスチナ子どものキャンペーン」と「日本国際ボランティアセンター(JVC)」の2つのNGOがガザ地区にスタッフを派遣していることを知り、スタッフとして参加したい意向をアピールしたという。
その結果、JVCから「今年3月に、当NGOが派遣する、中東の文化・社会関連の専門家としてガザに入ってほしい」とのオファーが入ることとなった。
岡氏は会場のスクリーンに、2007年に撮影された、空爆される前のガザ地区中心部の画像を映し出した。それは、ビルが林立する都市の風情を伝えるもので、「ここ京都と同じような都会的生活が、そこにはあった」と述べた。
アラブ人排除で生まれたユダヤ国家
岡氏はその後、イスラエル建国の経緯に触れ、「今から66年前に、ユダヤ国家がパレスチナに作られた。その前年の1947年11月に、国連が総会でパレスチナを2つに分け、そのうちの1つを欧州で難民になっているユダヤ人のための国にすること(シオニズム)を決議したのだ」と話した。
「その結果、起きたのが『民族浄化』だった。パレスチナに暮らすイスラム教徒とキリスト教徒のパレスチナ人を、その信仰を理由に『お前たちはアラブ人だから、この地に住む権利はない』と告げて追放する。そうやって誕生したのがユダヤ人国家、イスラエルだったのだ。建国は1948年5月のことで、その前の同年4月には、エルサレム郊外にあるデイル・ヤシーン村で、100人以上の村人が集団殺戮されている」。
集団殺戮やレイプは、生き延びたパレスチナ人に「恐怖心」を植えつけ、国境越えを促した、と岡氏は解説する。「現在、シリアの難民キャンプが悲劇に襲われていることは周知の事実だが、そこには70年近く前に故郷を追われたパレスチナ難民が、数多く含まれている」。
66年前の「ナクバ」の影
「ガザの人口は、この66年間で約28万人から約180万人に膨らんだ。うち150万人ぐらいが難民とその子孫らだ」。岡氏は、70年近く経過した今も、一般の住宅に移り住むことができず、劣悪な住環境の難民キャンプに暮らさざるを得ない人たちが大勢いる、と訴える。「大阪市とほぼ同じ面積であるガザ地区に、約180万人が上手く散らばっていない点が問題だ。計8つある難民キャンプで最大のものでは、1キロ×1.4キロの面積に約11万人もの人が暮らしている」とし、「言ってみれば『都市のスラム』だ。おそらく1軒に10人ぐらいの家族が暮らしているに違いない」と述べた。
岡氏は言う。「66年前に行われたナクバと呼ばれる、ユダヤ国家建設に伴う『民族浄化』という歴史的不正義が、今のガザの難民キャンプにも暗い影を落としている」。
現在、パレスチナの総人口は約1000万人、そのうち国連への難民登録者の数が約500万人で、うち約150万人がガザ地区にいる。そして、そのガザ地区は2006年以降、封鎖の状況にある。「2006年には、パレスチナ評議会選挙があった。これにイスラム抵抗運動(ハマース)が勝利したが、米国やイスラエルはハマースをテロ組織と認定している」。
電気がない、水洗トイレの水がない
岡真理氏がヤコブ・ラブキン氏の「イスラエルとは何か」を引用していて興味を持ちましたが、すでにIWJでは2013年の10月に本人にインタビューしているのですね!見に行きます。
もともとイスラエル建国時のシオニズム運動とホロコーストから逃げてきたユダヤ人の間にこのような温度差があるのは知らなかった
「問題になっていることに沈黙するようになった時、我々の命は終わりに向かい始める」「どこにおける不正であってもあらゆるところの公正への脅威となる」マーティン・ルーサー・キング
ガザの問題を『人道問題』に収れんさせたら、イスラエル政府の思うツボ。諸悪の根源は「民族浄化」という不正義にある。
「ユダヤ国家建設『66年前の不正義』の影響が、今なお」