【岩上安身のツイ録】現役経産官僚・藤和彦氏に聞く 「シェール革命」の真実とは 2014.10.31

記事公開日:2014.10.31 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

11月1日19時よりCh1で、藤和彦氏インタビューを再配信します。
メルマガ「IWJ特報 第170~174号『日露エネルギー同盟を締結せよ!』藤和彦氏インタビュー」も発行しました。ご覧になりたい方は、まぐまぐで購読できます。

※5月23日の連投ツイートを再掲します

岩上安身「藤さんの『シェール革命の正体』をウクライナ危機が起こってから読みました。藤さんは現役の経産省の官僚で、現在は世界平和研究所に出向されています。ウクライナ危機は、ユーラシア大陸を挟んだ欧州とロシアの対立になってきましたね」

藤和彦氏「日本は非常に多くを石油に依存しており、そのほとんどが中東からのものです。これではあまりに多様性がないと思います。歴史を振り返ると、世界の覇権はエネルギー資源の交代とリンクしています。20世紀は石油の世紀で、米国の覇権になりました。

 米国が石油を握れたのは、企業家精神が豊かだったからだと思います。1938年に米国の企業がサウジで石油を発見しました。それを機に、欧米のメジャーがサウジに入っていきました」

石油の時代から天然ガスの時代へ

岩上「これからは、石油に代わり天然ガスが有利になるとのことですが」

藤氏「石油に比べて、天然ガスはCo2排出量が少ない。石油は中東に集中していますが、天然ガスは比較的どこにでも保存されているんですね。東京にもあります。

 天然ガスの埋蔵量は、現在の消費量の400年ぶんは大丈夫だと言われています。しかし石油も、コストを度外視すればまだまだあります。ブラジルにもありますし、北極にもあります。ただ、やはり中東に集中しているので、地政学的にリスクが高いと言えます」

岩上「シェールガスという言葉はマスコミでもよく言われています。さらにはシェールオイルというものもありますね」

藤氏「『シェール』というのは、すずり石の中に入っていたガスのことです。水圧破砕という方法で、それが取り出せるようになりました。水圧破砕というのは、水を岩石にぶつけて、ぶち破っていくという方法です。これを米国のベンチャー企業が開発し、ほぼ独占状態にあります」

ウクライナ危機とエネルギー地政学

岩上「ウクライナ危機についてどのようにご覧になっていますか。25日には大統領選挙があります。候補は大富豪ばかり。ティモシェンコの総資産は兆単位だなどと言われています」

藤氏「必然性のない危機だという感じがします。ウクライナは現在、ロシアに対して35億ドルもガス代を滞納しています。ロシアは3年に1回くらい、ロシアは懲罰的にガスを止めています。ウクライナは、ロシアからEUに続くパイプラインから盗んだりもしています」

岩上「しかし、ロシアが悪者であるかのような報道ばかりされます」

藤氏「冷戦時代の思考が続いているんじゃないでしょうか。ウクライナはEUへのパイプをしめて、ロシアを困らせようなどということをしました」

岩上「米国はシェールを買え、と言っていますが」

藤氏「2011年から2013年にかけて、米国は天然ガスを掘らなくなっています。リーマン・ショックで天然ガスと石油はドンと価格が落ちたのですが、石油は回復してきています。そこで米国としては、シェールガスからシェールオイルへと移行しています。ところが、米国内では非常に品薄。穴埋めできるほど生産が追いついていないので、暴騰するのではないかと言われています。

 シェールガス・シェールオイルは、在来のものに比べて、かかるコストは実は3倍なのです。米国の安全保障の専門家は、エネルギーのことを何もしらないのではないでしょうか。

 米国が危機を演出しているように見えますが、パイプラインがそれを抑制しているのではないかと思います。米国はロシアのガスプロムはまだ制裁対象にしていません。これをやると、さすがにEUは黙っていないでしょう。

 ドイツのメルケル首相は、なんとか25日のウクライナ大統領選挙をうまくやろうと手を回したりしています。EUは、暴走している米国を、なんとかソフトランディングさせようとしているという構図だと思います」

日本のメタンハイドレード「非常に難しい」

岩上「1951年にロシアの学者が、『石油=非生物』学説を出して、独自技術を開発したと言われています」

藤氏「日本でも秋田や新潟で微量な石油が出ますよね。日本は有機の花崗岩ではないのに石油が出る。その理由が、この『石油=非生物』学説ですね。

 日本のメタンハイドレードについて。これは海底に天然ガスがシャーベット状になっているものです。これは技術的に非常に難しく、ブレイクスルーすることはないですね。技術的にもコスト的にも無理があります。石油が1バレル200ドルにならないとペイしない。

 シェールオイルのおかげで、米国は2015年に世界最大の産油国になると言われています。しかしシェールガスは、すでにバブルが崩壊。米国は2006年には原油輸入依存度が60%だったのが、35%にまで落ちてきました。

 米国は、南北アメリカ大陸だけで、2020年には原油は自給できるようになると思います。そこで、モンロー主義(孤立主義)が台頭してくる。シリア危機の時、オバマ大統領は『米国は既に世界の警察ではない』という声明を出しました」

中露の急接近をどう見るか

岩上「米国は、シリアにしろウクライナにしろ、言葉上は非常に強いタンカの切り方をしていますね」

藤氏「先日、サウジの外相がイランの外相を招聘しました。イランの問題は、米国は制裁解除の方向に進んでいくと思います。イスラエルにとっては悪夢ですが」

岩上「中国が世界最大の石油輸入量になり、焦っていると藤さんは見られていますね」

藤氏「中国は経済発展にともなうほど、資源が豊かではありません。大喜油田はすでに枯渇していると言われています」

岩上「先日、プーチン大統領が上海を訪れました。史上最大規模の合同軍事演習を行っている。ガス供給について、40兆円規模の契約に合意しました」

藤氏「20日の段階では、価格交渉で決裂か、と西側の報道では出ていました。今回の対中国への輸出は、ロシアの全体の10%です。対EUは70%なので、それほどの規模ではありません。なので、現在の米国の騒ぎ方は滑稽です。価格は、中国のほうがかなり譲ったと言われています。PM2.5もあり、中国はかなり焦ったのでは。

 ロシアは、東シベリア地区のガス田をほったらかしにしていたのですが、中国用のパイプラインを作るということになれば、当然、日本もその輸出先になると思います。北朝鮮を通して韓国に持ってくる、という案もあります。

 朴槿恵大統領はロシアからパイプラインを引くことにかなり前向きです。日本と大きく環境が違うんですね。サハリンから首都圏まで1500キロ、これはパイプラインが常識です。国境さえなければ国内の資源と言っていいと思います」

岩上「相互確証抑制効果とは何でしょうか?」

藤氏「相互確証破壊戦略のもじりです。パイプラインで供給する側とされる側とは対立しない、ということです。対立すると、両者とも困ってしまうんですね」

サウジアラビアの存在をどう見るか

岩上「サウジアラビアが米国の同盟国から離反し、原油輸入国になるとの指摘があります」

藤氏「サウジでは原油の自国消費が増えています。2030年代にはゼロかマイナスになるという見方もできます。これはアジアに大きな影響が出るでしょう」

岩上「サウジのウクライナへの関与についてはどうご覧になっていますか」

藤氏「シリアの反体制派がウクライナ東部に集結していると言われていますね。サウジ国内に過激派を置いておきたくないという背景があります。サウジはバンダル王子が失脚したので少しはまともになったと言えますが」

岩上「サウジと米国の関係、特に冷戦終結にはたした役割とは何だったのでしょうか」

藤氏「第2次オイルショックで1バレル40ドルになり、高値にするためサウジが供給量を減らしました」

岩上「中印は確執しているのでしょうか」

藤氏「インドは中国も嫌いですが、米国も嫌い。米国抜きの国際会議には、乗らないことはないでしょう。インドは国境を接していないので、ロシアとは友好的です」

岩上「中露が接近すると、インドはどう出るのでしょうか」

藤氏「ロシアは明らかに、中国よりインドの方にいい質の武器を売っています。ロシアはベトナムにも武器を売っている。中東、ホルムズ海峡、南シナ海も東シナ海も、米国が引くことで地政学的リスクが高くなります。米国の第7艦隊がいつまで守ってくれるのか。だから私はロシアしかないと思っています」

中国共産党の内部抗争

岩上「習近平の次のターゲットが李鵬一族ということですが、これは」

藤氏「習近平は今、権力闘争せざるを得ない状況にある。共産党の石油派閥のトップ・周永康らが失脚したと言われています。先日の新疆ウイグル自治区のテロも、あれだけの規模のものだと、少数民族だけでやっているとは思えません。かなり大きな力がバックアップしていると思います。共産党内部の権力闘争の一環ではないでしょうか。

 報道では、30年・40兆で合意ということしか出ていません。まだ単価は決まっていないのではないか。それから、中露の海上軍事演習、実は韓国の防空識別圏の内部でやっているんです。しかし、朴槿恵大統領は何も言っていません」

岩上「5月20日の朝日新聞が『中国がシェールガス商業開発に成功』と報じました」

藤氏「これは中国がよくやる手ですね。プーチンがくる前に、交渉を有利に進めようとして情報を出したんですね。もちろん、プーチンの側も分かっています」

集団的自衛権とNATO

岩上「地政学的に見ると、SCO(上海協力機構)は非常に広大な範囲に及びますね。これにモンゴルとインドが入ると、ユーラシア大陸をほぼ網羅するようなことになる。NATOと対峙するような関係になりますね。

 安倍総理が欧州を巡りましたが、集団的自衛権行使容認というのは、実は日本をNATOに入れようというものではないでしょうか。ブレジンスキーも、70年代からそういうことを言っています。ウクライナで戦争が始まれば、兵站を提供するのでは」

藤氏「ヨーロッパは中国に武器輸出をしたがっているんですね。安倍さんがNATOにコミットするのは、それを止めようということではないでしょうか今の米国は、ホワイトハウスと国務省は親中で国防総省は反中です」

岩上「米国の資本はかなり中国に入っていて、『チャイメリカ』という状態になっています。そこで中露接近となると、米国の資本はロシアと結んでいるのでは」。

藤氏「それはあると思います。中国が圧倒的に力をつけてくるなかで、日本はロシアと結んでオフショアバランサーとなることが重要です。2010年に、日本と中国とで名実ともにナンバー1の地位が入れ替わりました。両者が揉めることで米国は漁夫の利を得ると。

 エマニュエル・トッドが言うように、地政学的にロシアと日本は相性が良いはずなんです。極東では中国が力を持ってきているので、その後ろに日本がいてくれるのはロシアにとって都合がいいんですよね。

岩上「日本は原発を重要なベースロード電源であると位置づけました。なぜ日本は原発から天然ガスに切り替えようとしないのでしょうか」

藤氏「日本の電力は、LNGが電源構成上で増えてくることでまかなわれています。札幌に本社を持つ日本パイプライン会社が、2015年3月までにパイプライン建設に関する最終投資決定をしました。自民党のパイプライン議連が茂木経産相に答申し、前向きな回答を得ています。今回の中露の合意で、アジアのLNGが下がるのではないか、と言われています。アナウンスメント効果です。中国がガスを持つので、日本、韓国、インドが割をくう可能性があります」

岩上「最後に、日露協約について。日露戦争の後、山県有朋が方向転換をして、ロシアとの関係改善に向かいますね」

藤氏「日露戦争で満州の権益が確定したので、日露が呉越同舟になったということですね。日露協約が触媒となり、英露協商ができました。ロシア革命すらなければ、日ロの関係はまったく違ったものになったのではないでしょうか。旧ソ連と西欧は30年かけて網の目のようにパイプラインを作って、相互確証抑制効果を生み出しました。中国一強にならず、共存共栄でパイプライン網を作っていくことが重要だと思います」

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

「【岩上安身のツイ録】現役経産官僚・藤和彦氏に聞く 「シェール革命」の真実とは」への2件のフィードバック

  1. @yk7011さん(ツイッターのご意見より) より:

    「水圧破砕というのは、水を岩石にぶつけてぶち破っていくという方法。これを米国のベンチャー企業が開発し、ほぼ独占状態にあります」

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    (再掲) 【岩上安身のツイ録】現役経産官僚・藤和彦氏に聞く 「シェール革命」の真実とは http://iwj.co.jp/wj/open/archives/141682 … @iwakamiyasumi
    藤さんのインタビューは今夜19時から。予習復習も兼ねて、一読をお勧めします。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/528313795672674304

@yk7011さん(ツイッターのご意見より) にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です