【IWJブログ】原発推進にひた走る安倍政権と、「反原発」の声高まる台湾 2014.4.18

記事公開日:2014.4.18 テキスト
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(平山茂樹)

 2014年月13日午前、横浜市の本牧埠頭で、台湾に運ぶ小包を入れたコンテナから、国の基準(毎時5マイクロシーベルト)を上回る10マイクロシーベルトの放射線量が計測された。15日現在、コンテナの周囲はカラーコーンなどで規制され立ち入り禁止区域に設定されているものの、除染作業はいまだ行われていない。(朝日新聞 2014/4/14 コンテナから基準値超える放射線 横浜市の本牧埠頭)

 IWJが荷主である日本郵便に取材したところ、現在、小包の送り主に対し、一件ずつ開封の許可を取るための電話連絡を行っているところだという。しかし、日本郵便は放射性物質の扱いに関するノウハウを持ち合わせていないため、コンテナを開けるといった作業に取りかかれないのだという。

 日本郵便の要請を受け、原子力行政を管轄する原子力規制庁の職員2名が現場を訪れたが、コンテナが隔離されていることを目視で確認しただけで、依然として具体的な調査や作業は開始されていない。

 岩上安身は、4月15日に放送されたテレビ朝日の「モーニングバード」で、このニュースについてコメント。今回の問題は、行政の谷間によって生じたものであることを指摘した。人やモノに付着して全国に広まる可能性がある福島第一原発事故由来の放射性物質について、広範囲で線量を計測して除染する法的な仕組みは、現在のところ作られていない。

 原子力規制庁は、あくまで東京電力や関西電力といった原子力事業者を管轄する役所であり、一般事業者や国民に対して、放射性物質の取り扱いに関する権限を持っていない。今回のような放射性物質の拡散については、管轄外なのである。

安倍政権、エネルギー基本計画を閣議決定

 このように、いまだ福島第一原発事故からの収束がままならない状況であるにも関わらず、安倍政権は、原発の再稼働と輸出に対して、非常に前のめりな姿勢を見せている。

 4月11日、原発を「重要なベースロード電源とする」との文言を盛り込んだ、新しいエネルギー基本計画を閣議決定した。「2030年代に原発ゼロを目指す」とした民主党政権の脱原発路線から、大きく方向転換したことになる。また、いまだ運転の見通しがたたない高速増殖炉「もんじゅ」も「放射性廃棄物の低減のための国際研究拠点とする」などとして存続する方針を明確化し、それにともない核燃料サイクルを「推進」すると明記した。(産經新聞 4/12 エネルギー基本計画 要旨)

 4月4日には、トルコとUAE(アラブ首長国連邦)への原発輸出を可能にする原子力協定の承認案が衆議院本会議で可決され、今国会での承認が確実となった。安倍総理は昨年5月、「トップセールス」と称して中東各国を歴訪。トルコとUAEに対し、原子力協定を締結していた。

台湾で広がる「脱原発」の声

 このように、安倍政権は国内における原発の再稼働と海外への輸出に邁進しているが、実は日本が初めて輸出した原発は、今回、高い放射線が計測されたコンテナが向かうはずだった、台湾に存在する。台北市の東、新北市貢寮区にある、台湾電力「龍門発電所」がそれだ。

 龍門発電所は、原子炉を米国のゼネラル・エレクトリック社が設計し、日立製作所と東芝が製造した。1999年に建設が始まり、2011年の稼働を目指していたが、人為的なミスなどトラブルが相次ぎ、いまだ稼働には至っていない。

 台湾にはこの龍門発電所の他に、金山発電所、國聖発電所、馬鞍山発電所と、計4つの原発が存在する。龍門発電所以外の3基は、いずれも稼働中だ。

 しかし、2011年3月11日の福島第一原発事故をきっかけに、台湾でも市民による脱原発運動が広範な広がりを見せた。つい先日の3月9日には、台北市で、10万人を超える市民が大規模なデモを実施。台湾の著名な俳優イーサン・ルアン氏や、映画監督のニウ・チェンザー氏らも参加し、「台湾に原発はいらない」と声を上げた。

 台湾でこれほど脱原発が声高に叫ばれる背景には、台湾が日本と同様、地震多発地帯にあり、いずれの原発も、津波の被害を受けやすい沿岸部に位置しているということがあげられる。1999年に発生した台湾大地震はマグニチュード7.7を記録し、死者2413人を出す大惨事となった。他にも、1935年にマグニチュード7.1を記録した新竹・台中地震、マグニチュード7.0を記録した嘉義地震など、大地震が多発しているのである。

 しかも、台湾の場合、南部に位置する馬鞍山発電所を除き、3つの原発が台北市の周囲40キロ圏内に集中している。仮に台湾北部で大地震が起き、原発を大きな津波が襲って福島第一原発と同じような事故が発生した場合、台湾の行政機関や大企業が集中する台北は、その機能が完全にストップすることになってしまう。台湾にとって原発事故は、市民の生活に影響がでることはもちろん、台湾という共同体が存続するか否かが問われるような問題なのである。

 しかし、台湾の馬英九政権は、廃炉どころか、現在建設中の龍門発電所の稼働を急いでいる。馬総統は、「事故を起こした日本でさえ、原発は安全だとして再稼働させようとしている。どうして、台湾でやめる必要があるのか」と発言。まさに、再稼働に邁進する安倍政権の姿勢を逆手に取って、台湾での原発の稼働を肯定してみせた。

放射性廃棄施設がある島、蘭嶼島

 3月9日に行われた台北市内での10万人脱原発デモには、タウ族という台湾の原住民が参加していた。タウ族が生活する、台湾南部の離島、蘭嶼(らんしょ)島には、放射性廃棄物の貯蔵施設が存在する。現在、蘭嶼島には、低レベル放射性廃棄物が詰まった約10万本ものドラム缶が保管されている。

 桜美林大学、首都大学東京、琉球大学の合同研究チームが2012年9月に行った調査によると、この蘭嶼島で、放射線量の高い地域が確認されたという。島の北部の集落で、毎時67マイクロシーベルトを記録。過去に津波に襲われた可能性を示す痕跡もみつかったという。(共同通信 2012/9/28 台湾の島、高い放射線量 原発の廃棄物施設影響か 桜美林大、首都大学東京、琉球大調査)

 放射性廃棄物の貯蔵施設を都市部から距離がある離島に押し付けるという構図は、使用済み核燃料の再処理工場を青森県六ヶ所村に設置した日本の姿と相似形を描いている。地方が「周縁」へと追いやられ、「中心」としての都市の犠牲となる構図は、日本も台湾も同様なのである。

 4月9日(水)から、学生による立法院(国会)の占拠を取材するため台湾を訪れていた岩上安身は、この蘭嶼島出身のタウ族であるシャマン・ラポガン氏にインタビューを行った。

 作家であり漁師でもあるシャマン氏は、台湾本島で大学院まで進み、文化人類学を専攻。現在は、蘭嶼島に戻り、タウ族の文化・風習に則って、船を作り、漁をしながら、作家としても活動している。

 台北市内にある、シャマン氏行きつけのバーで行われたこのインタビュー。台湾の原住民が、学生による立法院の占拠をどう見ているのか、そして原発と放射性廃棄物についてどう考えているのか、ぜひ、ご覧いただきたい。

■イントロ(岩上安身による台湾先住民族の作家シャマン・ラポガン氏インタビュー )

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