【岩上安身のツイ録】「想像の共同体」としての「台湾」 少数民族が主権を獲得することは可能か 2014.4.13

記事公開日:2014.4.13 テキスト
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※4月12日の岩上安身の連投ツイートを再掲します。

 台湾は独立国家としての資格を充分に備えている。にも関わらず、国際社会の中で国家として「承認」されない。米国はじめ日本もその他の多くの国々も、大陸中国を国家として承認し、台湾を国家として認めていないからである。「一つの中国」という建前が幅をきかせている。

 「一つの中国」を認めるとは、いつの日か、中台の統一が行われなくてはならない、という前提に立つ。台湾には、統一派も存在する。が、それは10%程度。現状維持派がもっとも多く、独立派も存在する。独立派は、国民党支持者=外省人中心というだけでなく、本省人中心の考えもあり、複雑。

 福建中心に古くから台湾にやってきた本省人も、国民党とともにニューカマーとしてやってきた外省人も、どちらも漢民族。それ以外に台湾には14の先住少数民族が存在する。それらを含めて多言語・多民族国家としての「台湾」というアイデンティティーが形成されていると呉先生は主張する。

 「想像の共同体」としての「台湾」。しかし一方で、ヘーゲルのいう、世界史に登場可能な「主権国家」をもつ「民族」としての台湾人というアイデアに猛烈に異議を唱える人もいる。昨夜、かなり遅い時間帯に会った少数民族タオ族の漁師にして作家、シャマン・ラポガンさん。

 台湾唯一の海洋民族であるタウ族は、かつて文化人類学者の鳥居龍蔵によってヤミ族と命名されたが、今はタウ族と呼ばれる。タウ族は自分で船を作れるようにならなくては一人前と認められない。

 シャマンさんは、本島で大学院まで進み、フランス語と文化人類学を学んだ知識人であるが、書斎派のインテリではなく、島に戻り、タウ族の文化・風習に則って、船を作り、漁をして、海とともに暮らしている。「海は生き物だ」と語るシャマンさんの小説は、日本語を含め、各国の言語に翻訳されている。そのシャマンさんは、主権国家台湾という考えには、批判的だ。

 彼からすると、閩南語を操る本省人も、北京語を押し付けてきた外省人も同じ漢民族、ということになる。彼の視座では、今回、学生たちが立法院を占拠して反対を訴えたサービス貿易協定は、漢民族が再び津波のように押し寄せるようなもので、抗い難い災厄ということになる。

 呉さんがヘーゲルの章句を引用して語った「世界史」という言葉を、シャマンさんは「文明史」という言葉で置き換え、その文明は、欧米の白人中心の「文明」に過ぎないと語った。「マゼランは、大航海時代にアジアの諸民族を『発見』したなどと言うが、それは白人中心の視点だ」と語る。

 シャマンさんも、呉さんと同じく、今回の学生の立法院占拠を支持した。立法院前に行き、支持表明のプラカードも掲げた。だが、津波のような漢民族の到来、巨大資本の洪水については、諦め顔でもある。

 台湾の漢民族は、主権を夢見ることができるかもしれない。しかし、少数民族が主権を持ち得ると考えるのは空想的だ。「私は知識人だ。しかし知識があるだけの人間ではない。私は実践をする人間だ」とシャマンさんは言葉少なに語った。60歳、海の男を感じさせるがっしりした体躯の持ち主だ。

 インタビューは唐突に、深夜、台北市内の、シャマンさん行きつけのバーで行われた。照明も暗く、シャマンさんが好きなブルースが流れて音も聞き取りにくいかもしれない。しかし、たまたま故郷の蘭嶼(ランユー)島から出てきていて、翌日はまた別の土地に出かけるというこの僥倖を逃すわけにはいかなかった。

 シャマンさんのタウ族の言葉は、タヒチやフィリピンなど南洋の国々に出かけて現地の海洋民族と話をすると、カタコトが今も通じたりするという。かつて、オーストロネシア語族の人々は、手製の船で南方から台湾の沿岸、沖縄や日本列島まで到達し、縄文人の祖となったのかもしれない。

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