3月18日夜に台湾の立法院(国会)が「サービス貿易協定」に反対する学生らに占拠されてから2週間が経過した。
行政院占拠に対する強制排除や、馬英九政権側の強硬姿勢から、国民世論の政府に対する反発は日に日に強まっている。
そんななか、台湾ヤクザの元幹部で中台統一派団体代表の呼びかけにより、「同協定の賛成」と、「占拠された立法院を奪還」を掲げたデモが、4月1日に行われた。参加したのは同団体のメンバーや、労働組合員ら。台湾ヤクザも入り込んでいるとの未確認情報や、前日の会見で「立法院に突入して占拠することも辞さない」などと表明していたことから、700名以上の警察官が警備にあたった。
立法院前では、突入を試みるデモ隊と警備の警官隊との小さな衝突が繰り返され、学生らを守るために集まった市民からの「ヤクザは帰れ!」などの声に対し、デモ隊も「立法院占拠している奴こそヤクザだ!」などと返す野次の応酬が続き、現場は一時騒然となった。立法院前に集結した市民は学生だけでなく、大人の姿も多く見られた。Facebook上では、母親たちが「学生を守ろう」と呼びかける投稿もあったという。一方でデモ隊側の参加者は、台湾メディアの報道によれば、ヤクザに一人500元で動員されていたという。
現地で原佑介記者が取材した、デモとそれに対する学生側のにらみ合いの模様を、以下、ドキュメントで掲載したい。
【原記者報告】労働組合側「立法院占拠は不法だ!」
【労働組合員らによる抗議の動画アーカイブはこちら】
主に与党・国民党を支持し、同協定によって利益を得られると主張する労働組合員などが1日午後1時半、監察院前に集合した。事前情報では2000人が集合するといわれていたが、実際に集まった数は500人前後だった。
労働組合側の主張は、「サービス貿易協定を推進せよ。学生らは立法院の占拠を今すぐやめろ」というものだ。
街宣車に立った男性は、「もっと多くの方から参加したいという連絡を受けたが、立法院は狭いから、このくらいの数で十分だ」と語った。数の少なさを補うため、しっかり整列するよう参加者に呼びかけ、なかなか行進はスタートしなかった。また、「旗はどこだ? 旗はどこにいった?」と慌てる様子も。段取りはあまりよくなかったようだ。
▲行進開始を待つ労働組合員たち
組合員らは、「サービス貿易は必要! 生存したい! 仕事が欲しい! 立法院を返せ!」などとシュプレヒコールをあげながら、200mほど離れた立法院に向けて行進した。
この抗議行動に参加した女性は、「学生たちの立法院占拠は、違法行為だ。一般民衆は半月もこの状態に我慢してきた。学生たちは主張もぶれていて、はっきりした目的もわからない」と怒りをあらわにした。
「サービス貿易協定は必要だ」という鉢巻を巻いた男性は、「立法院の中の学生たちの声は確かに大きいが、全員の意見を代弁しているとはいえない。法治社会でありたいならば、立法院の中の学生を排除するためにみんなが立ち上がるべきです」と話した。
馬英九総統を支持しているという労働組合員の男性は、「サービス貿易協定で仕事が増えるから、協定には賛成だ。(中小企業が潰れると言われているが)政府は、そのへんも考えてくれているはずだ」とインタビューに応えた。
▲警察に行く手を阻まれ、猛抗議する男性
労働組合員らは、立法院手前で、警察によって行く手を阻まれ、警察に猛抗議した。トラメガをもった男性は、「私たちも国民だ。なぜ、私たちは立法院に近づけない? なぜ、彼らは立法院に近づけるのに、何日も占拠しているのに、なぜ私たちは近づく事さえできない?」と詰め寄ったが、警察は「警備上の理由だ」として、労働組合の集団を立法院に近づけることはなかった。
その後、「白狼」と呼ばれる元大物ヤクザ・張安楽氏が街宣車に立ち、学生らに向けてスピーチした。
「立法院を返せ! 我々を中に入れろ! 行政院を包囲し、総統府を包囲する勇気がありながら、どうして俺たちを入れさせない? 隠れているんじゃない、恥知らずが。中国人はお前たちなんかいらない!」
さらに同協定について、「台湾にチャンスを与えてくれる。旅行業について話そう。台湾人は大陸に旅行会社を設立できる。13億の市場で自由に力を発揮できる。大陸人が台湾に来て旅行会社を立てても台湾の島の中だけ、台湾人の島の中だけでしか商売できない」と、そのメリットを主張。また、野党・民進党は金で票を買っていると述べ、「台湾の民主主義はお前たちに破壊された! 恥知らず!」と、学生側に罵声を浴びせた。
学生側「ヤクザは帰れ!」
▲「ヤクザは帰れ!」と抗議し返す学生側の支援者
一方、立法院前には、議場を占拠する学生らを守ろうと市民が集結し、「学生を守れ! 警察頑張れ! 学生を守れ! 信念を守れ!」と声をあげた。労働組合側のスピーチを聞いて笑う余裕さえ持っていた。
警察の警備を挟み、学生側と労働組合側の抗議の応酬は続いた。
学生側が「ヤクザは帰れ! ヤクザは帰れ!」と抗議の声を上げると、労働組合側は、「立法院占拠している奴こそ、ヤクザだろ!」と返し、労働組合が「林飛帆、陳為廷(学生リーダー)は出てこい! 林飛帆、陳為廷を逮捕しろ!」と怒号を上げると、学生側は「馬総統出てこい! 白狼を逮捕しろ!」と返した。
「学生と野党・民進党が連携している」と考えていると思われる労働組合側の女性が、マイクで「蔡英文(民進党前主席)出てこい」と叫ぶと、学生側は大爆笑し、「いるわけないだろ!」と野次を飛ばす場面もあった。
赤ずきんちゃんに扮した学生「狼がきた 怖くないぞ」
この日、立法院の前で座り込みに参加していた台湾大学大学院の学生は、「今日、労働組合やヤクザがくることは知っていたが、怖くはなかった。我々が正しい立場にいると考えているから、万が一、怪我をすることになっても、ここにこなければいけない」と、座り込みに参加した理由を述べた。
「立法院の占拠は違法だ」とする労働組合側の主張については、「先に違法行為をしたのは政府です。それで占拠に至ったが、未だに政府はまともな説明や対話をしないのです」と反論した。
▲白狼に対抗して「赤ずきんちゃん」を模倣する学生たち
学生の中には、襲撃してくる白狼を「狼」になぞらえ、自分たちを「赤ずきんちゃん」に例えて、赤いヘルメットをかぶって座り込むグループの姿もあった。「狼がきた 怖くないぞ」と書かれたプラカードを持ちながら、時おりカメラにピースサインを向けるなど、余裕をみせていた。
労働組合側は18時半頃に解散。デモは、警察と労働組合の小さな小競り合いはあったものの、立法院への突入や大きな混乱もなく、目立ったけが人も出すことなく終了した。(IWJ 原佑介)
ドキュメント次回へ続く。
IWJでは、IWJ台湾Chから、今も台湾全土で行われている抗議行動の模様を、現地市民の協力を得て報道し続けています。「持久戦」の様相を呈してきたこの事件。3月23日からは、原記者が現地に入り、生々しい抗議の模様や現地市民の声を体当たりで取材し、配信しています。この問題は、中国を米国に置き換え、ECFAをTPPに置き換えたら、非常によく似た構図となっています。IWJは苦しい財政状況ですが、可能な限り伝え続けたいと考えています。取材が持続できるよう、どうか緊急のご寄付、カンパのほど、そして会員登録をよろしくお願い致します。
非常によく取材されていると感心しますが、以下の点にひっかかります。
>この問題は、中国を米国に置き換え、ECFAをTPPに置き換えたら、非常によく似た構図となっています。
もし、こういった観点で取材を続けていくのであれば、運動の本質を見誤ると思います。
1.立法院占拠していることから,警察・軍は静観しているし,政府も強硬態度にでていない
2.学生の主張と行いは正しい,正しいとして今後何をめざすのか.政府の機能麻痺であろうか
3.政権打倒となると政府は強硬手段にでるであろう
4.反動的な動きに扇動されないのは感心するし,彼ら彼女らが未来の台湾を担うことに希望がある
5.学生は貿易企業や担当省庁に長期的に働きかける戦術に変換して政策論議に持ち込む手があると考えるがく
6.隣国の動きは他人ごとではない,つい先日まで台湾を持ち上げ日本との共通点をことあげしていたのである.反省したい.
7.構図と本質は字義的に全くことなるので読解を見誤ると考える.
1.非常によく似た構図は過去にもあったし現在もある.本質はことなる
2.学生はみずからを台湾国民に発信する支持メディアが必要である
3.国会議員、地方議員、市町村長、それとできれば軍や警察の支持をとりつけたい
4.現在はこう着状態から退潮状態への移行期である。強い反動にそなえるとともに大学と企業は学生を冷遇しないでほしい
どこの国にも思慮の足りない人はいますね、これも民主主義が成長する過程か。