【ドキュメント台湾国会占拠(9)】「協定は撤回せず」強硬姿勢崩さぬ馬政権に反発は数十万人規模に ~日本では「馬政権が歩み寄り」と対照的な報道も 2014.4.1

記事公開日:2014.4.1取材地: | テキスト動画
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(現地取材・文:原佑介・現地取材協力:林、邱崇偉、廣瀬光沙・取材:岩上安身、須原拓磨・記事構成:佐々木隼也)

 3月18日に学生らによって台湾の立法院(国会)が占拠されてから11日後の29日、馬英九総統は18時から記者会見を行い、学生らが撤廃を求めている「サービス貿易協定」について、政府としての今後の方針を明らかにした。馬総統はこの協定の「撤回」要求には応じず、同協定を国民がチェックする「監督(監視)機関(メカニズム)」の法制化には応じたものの、それが法制化されてからの再審議には応じないなど、従来通りの強硬な姿勢をあらためて示した。

 さらに同協定によって、台湾の中国大陸向け輸出は37%、総生産額は120億台湾元(約405億日本円)増え、就業者数も約1万2000人の増加が見込まれる、などのメリットを強調。「協定が立法院で批准されなければ、台湾のTPP・RCEPへの参加機会にも影響し、今後の台湾経済全体に損失をもたらす」と述べた。その上で、学生らに総統府での対話に応じるよう呼びかけた。

 また、多くの負傷者を出した23日の行政院占拠の強制排除については、「(行政院占拠は)非理性的で秩序を逸脱した行為」と批判。強制排除を決定した行政院長に落ち度はなく、辞任の必要はないとした。

※この政府の公式見解については、「台北駐日経済文化代表処」(駐日大使館の機能を持つ)のHPに日本語訳が掲載されている
「『両岸サービス貿易協議(協定)』反対運動に対する政府の説明要点」 (3月31日)

 台湾の文化や政治に詳しい広島大学の川口隆行准教授は、「(馬総統が唯一応じた)監督機関の法制化は、ほとんどアリバイ。まずは協定を通し、そのあと形式的な監督機関でもつくっておけ、ととられても仕方ない。実質的には予定通り進める、という宣言だ」と指摘する。

 一部「応じた」かのように見せて、実質は立法院占拠の学生や、抗議を続ける市民の要求にほとんど「応じない」意向を示した馬政権に、台湾ネット上では多くの批判の声が上がっている。自由時報は、「馬総統は記者会見で強硬な態度を示した」という見出しで報じている。立法院を占拠する学生らは、30日に予定している数十万人規模の協定撤廃を訴える大規模デモを、予定通り行う意向を示した。

 一方で、日本の大手メディアはこの馬総統の会見について、「学生らに歩み寄り・一部譲歩」「馬総統が対話を呼びかけたが学生らが拒否」などと、「理性的かつ柔軟に要求に応じる馬総統」と、「それでも強硬姿勢を崩さない学生ら」という構図で報じた。この日本の大手メディアの報道については、台湾メディアも「日本では馬総統が一部譲歩したというように報道された」と、驚きをもって報じている。

3月29日午後:同協定「支持」のデモが

 馬政権の強硬姿勢に呼応するかのように、29日には「サービス貿易協定の支持」や「立法院占拠の学生に反対」を掲げる抗議集会が行われた。降りしきる雨の中、原記者と現地協力者がその模様を取材した。

 集会で登壇した清華大学経済学部の周嗣文助教は、「言論の自由」と「弱者の保護」が必要であると説き、スピーチした。

 「学生らが立法院を占拠してすでに10日ほど経過しています。立法院をこんなにも長く占拠して、我々の言論の自由に多大な損害を与えています。立法院は私たちの民意でできている機関です。たとえ弱者や少数の人の声でも、立法院を通して発さなければならないはずです。こうやって占拠されていたのでは、声の出しようもない」

 さらに、立法院が占拠されているため、「弱者の保護」に必要な法案が通せずにいるという。周氏は、先日、台湾南部で、母の看病をしていた息子が病気を患ってこの世を去り、息子を失った母親もその後、餓死してしまったというニュースを紹介。

 「こうした悲劇を防ぐために、『長期照護』という法案が、今、まさに立法院で審議を待っています。この法案は、家族が気軽に病人の面倒を看られるように、政府が助けを出すというものです。しかし今、国会が空回り状態であるために、こうした法案を審議ができない。弱者に配慮するという原則が犯されてしまっています。これは正しくないことです」

 集会に参加した高校生はインタビューに対し、「学生たちはやり過ぎだ。しかし、協定についてはよく分からない。あくまで学生の行為に対して反対しているのであって、政府のやり方『黒箱(ブラックボックス)』について特に意見はない。学生らは合法な抗議行動をすべきだ」と語った。

 別の中年男性は、「馬総統を支持しているのではなく、馬総統の出す政策を支持しているんです」と語る。サービス貿易協定に賛成する理由について、「競争力があってこそ進歩する。中小企業も他の国に移動することを望んでいる。互いに競争をしてこそ進歩があって、競争力が高まるんです」と主張。

 また、中華民国中央銀行の総裁である彭淮南氏がこの協定を支持していることも、男性が協定に賛成する理由の一つだという。彭淮南氏とは、「米グローバル・ファイナンス誌」がこれまで、10回にわたり、総裁としての能力が「レベルA」にあたると評価したことから、「10A総裁」と呼ばれている人物である。

 中年の男性は、「政府がいくつかの政策を持っていて企業を指導し、企業が間違ったことをすれば補償まですると言っている。しかも彭淮南さんは、政府がもうすでに予算をきちんと出している、全部準備はできていると話していた。いくらかの人たちが理解していないだけですよ」と、サービス貿易協定反対派を批判した。

 集会参加者の中には、「学生は民意を代表してはいない」と書かれたプラカードなども掲げられていた。別の場所では、与党・国民党の市議会議員など1000人以上が、手にカーネーションを持って、学生らの占拠に抗議するデモを行ったという。

協定への抗議のうねりは、数十万人規模に

 国会を占拠した学生らは、27日に馬総統のいる総統府前で大規模な協定撤回のデモの開催を発表。学生らは、行政院の強制排除に抗議するため、そして「民主主義が死んだ」という意味で、黒シャツや黒い物を身につけて集まるよう、参加を呼びかけた。Faceboo上では数万人が参加を表明。台湾メディアは、参加者は数十万人に達する見込みと報じた。原記者は30日、デモの模様を取材し、集まった人々に可能な限りインタビューを行った。そこには、日本で盛んに報じられている「中国への脅威」という安易な対中論では括れない、この協定の危険性や、台湾人の様々な思いが重なりあっていた。

 ドキュメント30日へ続く。【ドキュメント台湾国会占拠(10)】台北で示された50万人の民意「馬総統は対話を、サービス貿易協定への答えを」 ~総統府周辺で大規模デモ 2014.4.1

※立法院占拠の学生らの代表者が、占拠の動機について語った原記者によるインタビューと、立法院内の占拠の模様はこちら

 IWJでは、IWJ台湾Chから、今も台湾全土で行われている抗議行動の模様を、現地市民の協力を得て報道し続けています。「持久戦」の様相を呈してきたこの事件。3月23日からは、原記者が現地に入り、生々しい抗議の模様や現地市民の声を体当たりで取材し、配信しています。この問題は、中国を米国に置き換え、ECFAをTPPに置き換えたら、非常によく似た構図となっています。IWJは苦しい財政状況ですが、可能な限り伝え続けたいと考えています。取材が持続できるよう、どうか緊急のご寄付、カンパのほど、そして会員登録をよろしくお願い致します。

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“【ドキュメント台湾国会占拠(9)】「協定は撤回せず」強硬姿勢崩さぬ馬政権に反発は数十万人規模に ~日本では「馬政権が歩み寄り」と対照的な報道も” への 1 件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    台湾の「今」を伝える良質な記事。他人事ではいられない。

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