「原子力村、という造語は、自分が作った」──。飯田哲也氏は、10年ほど政府のエネルギー政策に関わった経験から、原子力村の体質を「旧日本軍と同じだ。誰も責任をとらない」と批判した。
孫崎享氏は「今は、とても危険な状況」と述べ、「TPPも、原発事故も、少しでも調べれば、すぐにそれらの危険がわかるはず。でも、人々は、意識的に見ようとしない。もし、それを認めてしまうと、メインストリームから弾かれてしまう恐怖心で、見ないようにしているのではないか。これが一番大きな問題だ」と指摘した。
2014年3月8日、東京都千代田区のYMCAアジア青少年センターで「孫崎享・飯田哲也 対談『原発と安全保障を語る-都知事選を終えて-』」が、行われた。前半は、両氏それぞれの講演で、飯田氏が日本の原子力政策とエネルギー政策の裏側を語り、孫崎氏は国際的な視野から、民主主義の危機、安倍政権の危険性に警鐘を鳴らした。続けて両氏の対談、質疑応答と続き、非常に中身の濃いものとなった。
- 主催あいさつ 山木きょう子氏(「原発」都民投票の会共同代表、元世田谷区議会議員)
- 講演 飯田哲也氏(エネルギーイノベーター、環境エネルギー政策研究所 [ISEP] 所長)
- 講演 孫崎享氏(外交評論家、元外務省国際情報局局長)
- 対談 孫崎享氏×飯田哲也氏「日本国政府が脱原発を決定することは可能か?」/コーディネーター 城間貴之氏(「原発」都民投票の会)
- 日時 2014年3月8日(土)16:00〜18:00
- 場所 YMCAアジア青少年センター(東京都千代田区)
- 主催 「原発」都民投票の会
安倍政権の最大の目的は長期政権維持
はじめに、飯田氏が登壇。「政府の新エネルギー基本計画は、3月中に閣議決定する予定だ。安倍首相の政務秘書官は、前資源エネルギー庁次長の今井尚哉氏で、経団連会長を務めた新日鉄元会長、今井敬氏の甥。経団連との太いパイプだ。事務秘書官には、元原子力政策課長の柳瀬唯夫氏で、官邸と経産省とは表裏一体」と話した。
「安倍政権の最大の目的は、長期政権を続けること。そのために(原発の再稼働にも)悪辣巧妙な方法を考えている。まず、新エネ基本計画で、原子力は重要なベース電源と提示。次に、原子力規制委員会の認可。最後に、地元の同意。この3条件が整ったら、政府の指示ではなく、電力会社が原発を再稼働する、という形をとる。民主党の野田政権が、大飯原発の再稼働を4閣僚の独断で決めて、国民の反感を招いたような失敗は繰り返さない」と分析した。
旧日本軍と変わらない原子力村
そして、新エネルギー基本計画の問題点を挙げ、「全体的に、福島の原発事故がなかったかのような印象だ。また、原発停止による電力会社の経営危機は考慮せず、抽象論で原発の必要性を訴える。さらに、民主党政権での、国民参加の熟議プロセスなどはまったく無視。中でも最大の問題は、神話の復活だ」と述べた。
飯田氏は、「行き詰まる原子力バックエンド」として、核燃料サイクルの破綻、核廃棄物の処理問題を説明。「日本の原発の基本設計は、米GEかウエスティングハウスで、東芝、日立、三菱重工などは、単に製造設計しているだけ。いわば、下請けだ。アメリカの関係者は、すでに原発による儲けを見限っているが、原子力村の人たちが、アメリカの影を利用して、圧力をかけているのではないか」などと、原発産業の背景を明かした。
飯田氏は「原子力村、という造語は自分が作った」と言い、10年ほど政府のエネルギー政策に関わった経験から、原子力村の体質を「旧日本軍と同じ。誰も責任をとらない。事実を無視し、神話が横行。タテマエ優先で、破壊的な意思決定をする。外に対しては権威主義、内輪ではまったく責任放棄」と批判した。
自然エネルギー推進は、現代の自由民権運動
飯田氏は、自分も政策に関わった、電力(固定価格)買い取り制度の成立までの道のりを例に挙げて、「10年単位での転換がある。今、原発などを支持する旧体制と、自然エネルギーなどイノベイティブ産業のせめぎ合いの中で、経済がどちら側につくかで、大きく流れは変わる」とした。
「現在、世界全体では、自然エネルギーへの投資額は25兆円。これは、原子力、石油、石炭、天然ガス全体より多い。日本のお偉いさんたちは、これをわかっていない」。
さらに、「ヨーロッパでは、すでに大規模集中型発電から、小規模分散型へのレジームチェンジ(体制組み替え)が起き始めている」と言い、福島の会津電力など、地域で小規模発電が始まっている地方の動向を紹介。「これは、現代の自由民権運動だ」と語り、地方の変化に期待した。
今、日本ではすごいことが……
次に、孫崎享氏がマイクを握り、開口一番、「今、日本は一番、重大な局面にある。いろいろな問題の中でも、原発再稼働の是非がもっとも重要だ。これを止める唯一のチャンスが、先日の東京都知事選挙だった。あれは失敗だ」と無念さを滲ませた。
「舛添氏の得票数は、ほとんどすべての区で、猪瀬前知事の得票数の0.48倍なのだ。……日本では、すごいことが起きている」と意味深長に話し、「こんなことがあるにもかかわらず、世間は、この変化に気づいていない。むしろ、人々は意識的に見ようとしない。TPPも、原発事故も、少しでも調べれば、すぐにそれらの危険がわかるはずだ。でも、それを認めてしまうと、メインストリームから弾かれてしまう恐怖心で、見ないようにしているのではないか。これが一番大きな問題だ」と指摘した。
活断層だけで、地震への考慮がない再稼働審査
そして、話題を変え、2005年2月23日の、衆議院予算委員会での石橋克彦神戸大名誉教授の発言を取り上げた。「石橋氏は『アメリカでは、原発にとって、地震が一番恐ろしい外的要因とされている。多重防護システムも働かなくなり、炉心溶解などにつながりかねない』と、2005年に指摘している」。
「ところが、今、再稼働に向けて、焦点を活断層の有無だけに絞り、地震への考慮がまったくない。福島第一原発事故は、活断層の地震で発災したのではない。今年2月25日、ニューヨーク・タイムズが論評で、『日本は休眠中の原発の再稼働に急いでいる。世論は、まだ段階的原発排除だが、安倍首相は、このような中で再稼働しようとしている』と書いた。舛添氏も、都知事選では『原発は長期的には廃止する』と言ったが、裏を返せば、その前に再稼働すると言う意味。みんな、これに気づけるはずなのに、気づかないふりだ」。
日本の報道の自由度、世界第59位
また、「原発事故以来、マスコミ報道を見ていると、日本に民主主義は、もうないのかもしれないと思う。国境なき記者団の評価は、日本の報道の自由度は世界第59位。韓国より低い。2011年3月12日、福島第一原発の水素爆発の時、大手メディアは自社の記者を避難させた。しかし、それを一切報じず、『ただちに危険はない』とした。真実を伝えるという使命を捨てた」と、メディアの姿勢を批判した。
孫崎氏は、東京都知事選の際、原発が争点になることを、マスコミが避けていた、とも指摘。「1月30日、NHK(ラジオ第1放送)の番組に出演する中北徹氏(東洋大教授)に、原発関連の発言を禁じた。それに憤慨した中北教授は、20年間続けていた、その番組を降板した」と、中北氏の行動を讃えた。その上で、「そういう決断をさせる、日本の報道機関になってきている」と懸念を示した。
さらに、映画『少年H』のキャッチコピーにある、「おかしいことを、おかしいと言えない時代」や、「世界がギシギシ音を立てて変化している時代に、 今までと同じファンタジーを作り続けるのは、もはや無理がある」という、宮崎駿監督の引退宣言に言及。また、原発再稼働に厳しい姿勢を見せている泉田新潟県知事が、IWJの岩上安身のインタビューで発した、「もし、僕が自殺ということになったら、絶対に違うので調べてほしい」という言葉を紹介し、「こんな国になってしまった」と嘆いた。
最後に、原発再稼働に向かう流れについて、「原発立地の住民の決断が、再稼働の阻止、延期ができる力をもっている。今は、もっとも危険といわれる浜岡原発でさえも、再稼働申請中だ。しかし、官邸、経産省、経済界より、私は住民の力が上回ると思っている」と希望を込めた言葉で講演を終えた。
小泉元総理は本当に「脱原発」?
休憩後、「原発」都民投票の会の城間貴之氏がコーディネーターを務めて、孫崎氏と飯田氏の対談が始まった。城間氏は「2012年秋、民主党政権では『原発ゼロ』の方針をまとめたが、閣議決定できなかった背景は何か。また、小泉元総理は、本当に脱原発派なのか」と訊ねた。
飯田氏は「小泉氏はおおざっぱで、(首相在任)当時、彼はまったく原発について知らなかった。今、脱原発というのは、本当だと思う」と答え、「また、六ヶ所村核燃サイクル計画には、小泉氏は関与していなかった。その頃、核燃料サイクルはトラブル続きで、経産省も東電も中止にしたかったのだが、当時の原子力政策課長、安井正也氏(現・原子力規制庁長官官房)が強引に推し進めた」と、核燃サイクル推進の裏を語った。
また、民主党の脱原発政策については、「閣議決定しなかったのではなく、あいまいに添付書類で合意した。なぜかというと、核燃サイクルを進めたい青森県と日本原燃が暗躍し、民主党を脅したのだ。それで、『原発ゼロと言いつつ、核燃サイクルは進める』というナンセンスなことになった」と断じた。
さらに、「当時、民主党5閣僚(仙石由人氏、枝野幸男氏、細野豪志氏、野田佳彦氏、藤村修氏)で、一番悪質だったのは仙石由人元副代表だ。細野豪志氏は、不倫事件で電力会社に助けられた経緯があり、実はずっと原発推進派。そういう力学の中で、頑張っていたのは古川元久衆議院議員だが、核燃料サイクルは続くことになり、残念だった」と生々しい実態を語った。
次の小説は『アメリカにつぶされる安倍政権』
日本の原子力政策への、アメリカの関与について問われた孫崎氏は、「アメリカ内でも原発推進勢力はあるが、日本政府をコントロールしているわけではない」とし、日米関係の問題を批判する場合に留意すべき点として、「何か言うと、すぐに『それは陰謀論』と揶揄され、一番大事なところも一緒にうやむやにされる。だから、自分が確証のあることだけで議論すること」と述べて、アメリカ同時多発テロ事件(9.11)を巡る言説を例に挙げた。
続いて、「私は、次に『アメリカにつぶされる安倍政権』という本を書こうと思う」と会場の笑いを誘い、「今の日本は、安倍政権のせいで、かなりアメリカの信頼を失くした。この前、アメリカが『プルトニウムを返せ』と言ってきたのは、そのためだ」と話した。
孫崎氏は「日本に民主主義が残っているのは、沖縄だけ」と述べて、国民投票の可能性と、元スイス大使の村田光平氏の活動について説明した。また、「自分は(左派、保守など)どこに行っても『あなたは、あっち側の人間』と言われるが、これからは、あっち側(異なる立場)の人間も巻き込んで、運動を盛り上げるべき」と冗談を交えながら話した。
東京電力はゾンビだ
質疑応答に移り、核のゴミや汚染水問題について、質問が出た。飯田氏は「(処理を)やるしかないのだが、そういう体制になっていないことが問題。東京電力はゾンビだ。本当は死んでいるのに、生きているふりをさせられている。(融資を受けるため)常に、見かけ上は収益を黒字にしなければいけない。構造的に、解決体制ができてないのだ。福島第一原発は、チェルノブイリのように石棺にするしかないだろう」と答えた。
また、山口県知事選に出なかった理由を訊かれると、飯田氏は、山口県のすさまじい選挙戦の実態を語った上で、「知事になっても動きを封じられる。それより、10年後に必ず大きな勢力になる自然エネルギーを選んだ方が、自分の力を発揮できると思った」と、その理由を明かした。
最後に、孫崎氏は「戦後、日本に民主主義が生まれたかのように言われるが、それはまやかしだった。自分たちで勝ち取ったものではないから、今、ボロボロになっている」と述べ、「しかし、一人ひとりが、できる範囲で、民主主義を育てる行動はとれるはずだ」と締めくくった。
孫崎氏が石川県出身で加賀の一向一揆が起こった土地柄では権力に立ち向かうとおっしゃっていて驚きました。そんな県民がなぜ中西氏や谷本氏のような権力に従う知事を中央から招いて選んでしまったのか疑問を抱きました。もうすぐ知事選ですが谷本氏ではなく原発反対の候補者が選ばれればまだ一向一揆の魂が消えてないことになりますがどうなるかわかりません。