「風力が原子力を追い越す。発電は、中央集中から地域分散型へ」飯田哲也氏講演会 2013.12.21

記事公開日:2013.12.21取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲/奥松)

 「太陽光と蓄電池を売って、そのリース料で儲ける。そういう新しいビジネスモデルが必要。もう、独占型の電力会社は成立しない。恐竜が倒されるような変化が、すでに起きている」──。

 2013年12月21日、埼玉県小川町中央公民館で、環境エネルギー政策研究所所長 飯田哲也氏の講演会が行われた。小川町で、エネルギーの自給自足を目指して市民発電所などを計画している、NPO「おがわ町自然エネルギーファーム」が主催し、地域から見たエネルギー転換の見通しについて議論が行われた。

 飯田氏は冒頭、「津波は天災。原発事故は、きっかけが天災とはいえ、人災と言える。明治維新後、日本は形だけ近代国家なり、富国強兵を唱えた。強兵、すなわち軍隊の方は、太平洋戦争で粉々につぶれたが、富国の方は、東京中心、財閥中心の中央型の高度成長を遂げた。いわば、それが激突してつぶれたのが、原発事故」と、独自の解釈を述べた。さらに、「これから、新しい国、社会のあり方を作っていこうという時、民主党政権がだめで、軍国主義の政権が生まれた。明治維新にたとえると、直前に、安政の大獄という時代があった。今は『平成の大獄』とも言える。しかし、こういう政権は、遅かれ早かれ崩壊するだろう」と続けた。

 飯田氏は、震災後の民主党政権のもと、経産相の諮問機関である、総合資源エネルギー調査会のメンバーを務めていたこともある。その経験から、「これまでは、経団連、電事連、経産省などが中心となり、『東京から支配しよう』という、上から目線、中央独占型のエネルギーシステムだった。これからは、地域自立、分散型、生活者の視点、自然エネルギー、節電といった方向に、向かわなくてはいけない。しかし、なんといっても、既得権益者の力が強い」と抵抗勢力の存在を指摘する。福島第一原発の現場を、実際に視察した経験からは、「とてもではないが、『完全にブロック、コントロール』からは、ほど遠い」と、安倍首相のオリンピック誘致演説に異を唱えた。

 自民党政権になり、総合資源エネルギー調査会からは、飯田氏をはじめ、改革派の委員はほとんど外され、代わって、原発推進派の委員で固められたという。それ以後、出されるものは、「まるで、原発事故がなかったかのような計画」だと言い、「1月6日までのパブリックコメントも、既成事実を作るため。原発の再稼働候補として、一番怪しいのは愛媛の伊方原発。その次に、佐賀の玄海原発、鹿児島の川内原発と続くだろう」と、飯田氏は、政府の動きに関しては悲観的な見方を示した。

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  • 主催あいさつ・団体紹介 藤村吉則氏(おがわ町自然エネルギーファーム代表理事)
  • 講演 飯田哲也(いいだ・てつなり)氏(環境エネルギー政策研究所 [ISEP] 所長)
  • 質疑応答

「経済のために原発再稼働」は本当か?

 飯田氏は「政府は『再稼働しないと、国の燃料を買うお金が3兆円流出する』などと言っているが、アベノミクスによる円安に加え、そもそも原油代、天然ガスの単価が上がっている。放っておいても、1.8兆円は上がる計算となる。なんでもかんでも原発のせいにして、誇張している」と批判。一方、「電力の消費は、今年あれだけの猛暑にもかかわらず、ピーク時で2割削減され、年間では1兆円減っている」と、節電の効果を明かした。

 「これまでは、供給側、作る側の目線で、『足りないなら増やそう』と、むやみに発電所を増設してきた。これからは、使う側の目線が、エネルギー政策に入って来る時代。これは、類人猿から現代人に変わったぐらいの転換だ。省エネというと、『暗い、寒い、我慢する』『電気が足りないのは経済にマイナス』などという発想は、類人猿」と、たとえる。

 そして、「3.11前に比べ、東京の事業所では、電力消費量が4〜5割減った。最初はエスカレーターを止めたりしていたが、それよりも、部屋の照明を1500ルクスから500ルクスにし、エアコン28度設定の普及率を、15%から80%まで徹底して高めた。この、たったの2つだけで、大きく電力消費量が減った。企業にとっては、電気料金も減るというメリットもあり、全体として見れば、新しい発電所ができたのと同じ効果がある。海外では『節電発電所(ネガワット)』という呼び名もある。使う方を賢く減らすと、馬鹿みたいに発電所を増やさなくてよい」と、省エネが鍵を握っていること強調した。

原子力ムラの抵抗

 一方、既得権益側も必死の抵抗を見せる、という。飯田氏は「(国会同意人事である)NHKの経営委員会は、原発推進派とタカ派に、すっかり入れ替わった。日本ジャーナリスト会議大賞まで獲得した、ドキュメンタリー番組『ネットワークでつくる放射能汚染地図』の制作スタッフは、完全に解散させられ、散り散りとなった。筋金入りの番組を作っていた人たちが、配置転換された」と、公共放送への政治介入を指摘。

 飯田氏は、神戸製鋼にも勤務していた経験から、「電力会社に納める製品は、普通の企業に納品するよりも価格が高い」と明かす。「同じ製品でも、1.5倍から2倍の値段となる。原子力印が付くと、まったく同じものが、さらに2倍になる」。

 「それで浮いたお金は◯◯会などにプールさせて、選挙に落ちた議員をサポートする。たとえば、◯◯女子短大などに講師として斡旋し、そこに寄付口座を作り、月に1回講演するだけで、年収レベルのお金が支払われるようにして、次の選挙まで支援する。そういう仕組みが、今なお残っていて、だから彼らは、東京電力をつぶしたくない。今回の徳洲会の騒ぎだけではなく、同様の例は、石を剥いだ時のダンゴ虫のように出てくる。自民党だけでなく、民主党も及び腰なのは、そのためだ」と、次々と裏側を暴露した。

もうじき、風力発電が原子力発電を追い越す

 一方、「世界全体で増えた風力発電や太陽光発電は、毎年、倍々ゲームで増えている。風力は1年間だけで4700万キロワット(以下、kW)増え、これは、100万kW級の原発47基分に相当し、世界全体の累積では2億8000万kWにも及ぶ。太陽光は3100万kWで、累積1億kW。2つ合わせると、累積3億8000万kWで、原発430基を合計した3億7000万kWを、とうとう追い越した。10年前から見たら、信じられない状況。風力は、来年は3億7500万kWが見込まれ、2年後には、風力だけで原発を追い越す計算となる」と、興味深いデータを提示した。

 また、飯田氏は「米大手のNRGエナジー社は、日本の原発事故の後、原発2基の計画をやめて、屋根置きの分散型太陽光発電に投資マネーを切り替えた。CEOのデビッド・クレーン氏は、今年、『もう、電力会社はいらない』とまで発言した。『発電して送電して、電気を売って、電気代を稼ぐ』という従来のビジネスモデルは古い。『太陽光と蓄電池を売って、そのリース料で儲ける』。そういう新しいモデルを考えないと。もう、独占型の電力会社は成立しないと、ひしひしと感じているようだ。ドイツでも、地域分散の電気が増えて、4大電力会社は利益が減っている。恐竜が倒されるような変化が、すでに起きている」と、原発推進が世界の潮流ではないことを強調した。

集中から地域分散へ。エネルギーを生み出せばお金を稼げる

 「お金が流れるということは、仕事が生まれる」として、飯田氏は、実際に地域で行われている取り組みの例を紹介した。「NPO法人北海道グリーンファンドは、2億円の風車を一口50万円で募り、2001年に完成させた。あと3年で全額回収できる。青森、秋田にも、同じように市民出資型の発電所が作られている。長野県飯田市の『おひさまファンド』は、分散型の太陽光発電。飯田市と飯田信用金庫が全面的に協力していて、毎年1000kwの太陽光発電が生まれている」。

 最後に、地域分散型発電の成功の秘訣は、「地域で、顔が見える人が継続することが大事」だと言う。「地域の人が所有していること。わが事として感じられる当事者意識。そして、1万円出した人には12年かかって(原資が)返ってくるとか、地域にとって便益があること」。風力発電で問題となる騒音については、「コペンハーゲンでは、風車が農家の軒先にあっても、うるさいと言う人はいない。むしろ、止まっていたらお金が入らないので、心配になる」と述べ、当事者意識によって解決できる例を提案した。

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「「風力が原子力を追い越す。発電は、中央集中から地域分散型へ」飯田哲也氏講演会」への1件のフィードバック

  1. 宇佐美 保 より:

    とても有意義なご講演ですが、会場の明かりが明るすぎて(?)説明のスライドが良く見えないのが残念です。
    (会場の方は、予め配布されている資料を御覧になっているようですが)
    その資料が、このページにリンクされているとうれしいのですが。
    (この旨は、飯田氏の環境エネルギー政策研究所へもメールで依頼してみました)

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