秘密保護法スピード成立の裏に、10月3日「日米安保協議」の影あり ~「集団的自衛権の行使は戦争への道」孫崎享氏講演 2013.12.8

記事公開日:2013.12.8取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

特集 憲法改正|特集 秘密保護法

 「安倍内閣は戦後最悪の政治集団」「今、中国との平和的関係の重要性を主張したら『国賊』扱いされかねない」──。2013年12月8日、京都府部落解放センターで行われた、集団的自衛権の危険性を伝える講演会に、孫崎享氏(元外務省国際情報局長)が登壇。同氏ならではの、忌憚のない発言に会場が沸いた。

 スピーチの冒頭、安倍政権が狙う集団的自衛権の行使容認と、12月6日深夜に成立した「特定秘密保護法」が、密接に関係していることが強調された。同法の成立を「非常に残念」と悔しがりながらも、「普段は政治に関心を示さない若い世代に、秘密保護法に反対する動きが目立ったのは、明るい材料」と声を弾ませた孫崎氏は、「安倍政権の暴走に歯止めをかける気配が感じられる」とした。

 「先日、私は東京の代々木公園で、とある市民集会に参加した。そこで印象的だったのは、20代とおぼしき若者の姿が数多く見られたこと」。孫崎氏は「秘密保護法の急な成立で浮き彫りになった、安倍政権の強引な政治手腕に、若者が『NO』を叫び始めた」と評価した。

 その一方で、大学生の多くは、集会でビラが配られても受けとろうとしないなど、「主催者側との接触を避ける傾向がある」と指摘。「大学生は、社会運動に加わることを怖がっている」とした孫崎氏は、その理由を「就職難」と指摘した。

 新卒採用市場で「要注意人物」のレッテルが貼られるような行動を、大学生は控える、というのである。正社員入社が難しい近年は、特にその傾向があり、孫崎氏はこれに一定の理解を示しつつも、「いつの時代も、新しい国を作っていくパワーを生むのは(変化への適応力がある)20代の若者だ」と、若い世代へエールを送った。

■全編動画

  • 講演 孫崎享(まごさき・うける)氏(元ウズベキスタン・イラン大使、元外務省国際情報局長、元防衛大学校教授)「集団的自衛権の行使は戦争への道」/質疑応答
  • アピール 大湾宗則(おおわん・むねのり)氏「京都府京丹後市経ヶ岬へのXバンドレーダー基地建設反対のアピール」ほか
  • 日時 2013年12月8日(日)
  • 場所 京都府部落解放センター(京都府京都市)
  • 主催 戦争への道を許さない京都・おんなの集い連絡会

着目すべきは「2プラス2」の共同声明

 孫崎氏は、安倍政権が秘密保護法の成立を急いだのは「米国との間に、同法成立の合意があったから」と述べた。

 10月3日に日米両政府が開いた「外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)」には、ケリー米国務長官とヘーゲル米国防長官が出席。孫崎氏は、終了後に発表された共同声明の中に「秘密を守る法体制を整備することを(米国が)歓迎する」との文言があることを紹介し、「日本は国会で審議が行われる前に、秘密保護法の成立を米国に約束している」と説明した。

 さらに、孫崎氏は「声明には『集団的自衛権の行使容認には前向きに取り組む』『(日米で)共同運用を行う』とも明記されている」と語り、安倍政権が集団的自衛権の行使容認へアクセルを踏む理由も、「日米関係に目を向ければ、十分に察することができる」とした。そして、「集団的自衛権の行使が容認されれば、米軍の意向により、イラクやアフガニスタンで展開されたような戦争に、日本が駆り出されてしまう」と警告した上で、次のように強調する。

 「私は1986年~1989年に、イラクに勤務していた。イラン・イラク戦争の終盤に重なるが、その時はまだ、シーア派とスンニ派の間で棲み分けがなされていた。だが、その後は違う。つまり、米軍が出て行けば、その国に『平和』がもたらされるわけではないのだ。よって、日本が米軍の海外での武力行使に加担することは、非常に危険。報復という形で、日本の安全が脅かされる」。

「敵基地攻撃」は米国が喜ぶだけ

 「イラク戦争に関しては、すでに米国内では『反省』の議論が優勢だ。2004年、CIA(米中央情報局)を中心とした特別グループが、イラクを調査し、大量破壊兵器が存在しなかったことを発表している。では、日本はどうか。あの時、『日本もイラク戦争に行け』と主張した知識人が、今なお外交論壇の中心に居座っているではないか」。こう喝破した孫崎氏は、その知識人の名前を次々に挙げ、「イラク戦争時の自分の発言に、何ら反省を示さない人物が、安倍内閣のブレーンになっている」と指摘した。

 孫崎氏は、右傾化した有識者らが頻繁に口にする、「北朝鮮が米国に向けてミサイルを撃つのを、日本が静観していいわけがない」という文言を、「嘘八百だ」と切り捨てた。「地球儀を思い浮かべてほしい。ミサイルはロシアのかなり上空を飛ぶのだ。それに対し、日本に配備されている迎撃ミサイルは100~200キロメートル程度しか飛ばない。迎撃など、技術的に無理な話。ああいう主張をする人の頭には、北朝鮮がミサイルを撃つ前に、日本が攻撃する光景がイメージされている。『敵基地攻撃』と呼ばれるものだが、こんなことを実行したら、米国にとってはプラス10点でも、北朝鮮から応分の報復を受ける日本は、マイナス10点にしかならない」。

 「米経済誌『フォーブス』が、先ごろ発表した世界の有力者ランキングで、安倍首相は57位だった。ちなみに、46位が金正恩氏(北朝鮮最高指導者)で、52番目が朴槿惠氏(韓国大統領)だ」。孫崎氏は安倍首相について、「米国のため、いろいろと尽力しようとしているのに、その米国に相手されていない公算が大きい」と語った。

若い世代に望むこと

 孫崎氏は、中国が沖縄県の尖閣諸島を含む東シナ海上空に、防空識別圏を一方的に設定した問題にも触れ、「安倍政権は、中国を敵に見立てることで、国内の求心力を保っている」との認識も示した。「確かに、防空識別圏設定での中国のやり方は一方的だが、今の日本では、中国との平和的関係の重要性を主張したら『国賊』扱いされかねない」とし、秘密保護法は、情報隠ぺいを通じて、中国との緊張感を意図的に高めたい安倍政権にとっては、「便利なツール」と強調した。

 そして、安倍政権を「民主主義の根幹である、国民への正しい情報提供を否定する流れを作っても平気なのだ」と断じ、明日の日本を担う大学生に対しては、「政治に納得できない点があったら、積極的に意見を示してほしい」とメッセージを送った。「自分の許容範囲を超えることをやれ、とは言わないが、時の政治に納得できない点があるのなら、(就職活動などでの)自分の安全を考慮した上で、外に向かって意見を発信してほしい。ツイッターなどのソーシャルメディアの普及で、正しい意見は広がりやすくなっている」。

 一方で孫崎氏は、年長者には次のように求めた。「高学歴、一流企業勤務など、どういう地位を手に入れたかで人生の良し悪しを決める価値観は、上の世代が、まず改めてほしい。得た地位よりも、どういうことをやったかで、その人が評価される日本に変えていくことが肝要だ」。

「米軍レーダー配備への反対」では地元有志が熱弁

 この集会では、大湾宗則氏(京都沖縄県人会)による、京都府京丹後市経ヶ岬へのXバンドレーダー基地建設反対のアピールも行われた。大湾氏もまた、冒頭で秘密保護法に触れ、「法は成立したが、このまま国民が法廃止に向けて運動を持続すれば、日本人が真の国民主権を獲得することにつながる」と述べた。

 レーダー基地配備に関しては、「今年の2月22日に行われた日米首脳会議の席で、経ヶ岬へのレーダー配備という合意事項が発表され、4月中頃には早速、山田京都府知事による現地説明会が開催された」とし、強引に配備計画を推進する安倍政権の姿勢を批判した。

 「航空母艦や巨大な軍用機が京都にやってくる、というのであれば、京都の市民も関心を抱きやすい。が、移動式のレーダーが配備されるということで、地元の問題意識の高まりが今一歩の面もある」とも語った大湾氏は、「たかがレーダーと侮ることなかれ」と訴える。「今の軍事兵器は『レーダー』がなければ単なる鉄くずだ。つまり、レーダー施設は、現代の戦争では極めて重要なものに位置づけられる」。

 戦争が起これば、レーダー施設は敵軍に狙われる可能性が極めて高い。危機感を募らせる大湾氏は、「レーダー配備予定地では、防衛省が札束で頬を叩くようにして、40人の地権者から土地買い取りの同意を取りつけている。仮契約ながら、すでに39人が陥落した。情勢は厳しいが、私たちは今月15日に、京丹後市役所前でレーダー配備に反対する大集会を予定している」と力を込めた。

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