就任会見同様、終始にこやかな姿勢で初の定例会見に臨んだ舛添要一東京都知事だったが、記者からは厳しい質問が相次いだ。2月14日15時から都庁で開かれた会見には多くの記者が参加。「公金を使った不正な借金返済疑惑」については、「立法事務費の借金返済への『活用』」を認めた。他にも「選挙期間中の五輪バッジ配布による公職選挙法違反疑惑」「カジノ問題」「改憲・集団的自衛権の問題」など、質問は多岐にわたった。
舛添都知事は冒頭挨拶で、多摩・島しょ振興担当副知事ほか3人の副知事を選任したこと、40億円規模の再生可能エネルギーの官民連携ファンドの創設検討を告知。また、2月21日金曜日から25日火曜日までソチへ出張し、閉会式への出席と会場視察を行うことを発表した。
- 日時 2014年2月14日(金)15:00~
- 場所 東京都庁(東京都新宿区)
「立法事務費」による借金返済を「自白」
質疑ではまず、舛添都知事が新党改革の代表を務めていた2010年から2012年に、同党が借金2置5000万円の借金返済に公金である「立法事務費」や「政党助成金」を充てた疑いについて、記者から激しい追及の声があがった。
舛添都知事は2月12日に行われた就任会見で、この件について、1月24日に現新党改革代表の荒井広幸氏が反論会見をしているので、それを観て欲しいと発言していた。会見で荒井氏は、「2011年、2012年は立法事務費を借金返済に『活用』した」と堂々語っている。
立法事務費とは、「立法のために必要な調査研究の推進に資するための経費として」、各会派に所属議員の数に応じて交付される費用である。それ以外の「目的外使用」は罰則はないものの「違法」である。荒井氏は、「『調査研究の推進』のためにはまず早期に借金を返済して、党の立法体制を作ることが必要と判断した。『資するための必要な経費」』であり、目的外使用には当たらず、法的にも禁じられていない」と弁明した。
これらを踏まえ、会見で記者から「この荒井氏の説明で良いという認識なのか」と問われた都知事は、「私はまず、荒井代表の記者会見に同席していない」と前置きしたうえで、「少なくとも法的な側面で瑕疵があるとかいうようなことではないと思います。だから私も荒井さんの説明、そういう方向での理解でいいというふうに思っております」と答えた。
記者からさらに、「借金を立法事務費で返すということが『調査、研究に資する』とは言えないのでは?」と問われると、「荒井さんの説明は、一刻も早く党の借金を返済して、例えば議員立法できる体制作りをする、という趣旨なので、大きな問題はないと思っている」とさらに繰り返し「問題なし」という認識を示した。
「(借金返済は)立法調査とあまり関係ないような気がするが」との再度の記者の追及に対し、「本当はそういうことをしないほうがいいんだろうと、私も思いますが、法的に違法行為であれば大変な問題になりますが…。方針は党の財政を担っていた荒井先生に任せていたので」と一転して「問題あり」の認識を示したうえで、あくまで荒井氏の責任であることを強調した。
選挙期間中の五輪バッジ配布問題「全く知りません」
IWJは、舛添都知事のもう一つの不正疑惑について質問した。選挙期間中の12月5日に町田で開かれた舛添氏の個人演説会で、受付スタッフが参加者に「五輪バッジ」を配布した。同バッジはネット上で3000円ほどで取引されており、公職選挙法の「候補者の寄付禁止」に抵触するのでは、という疑惑だ。これを重く見た元大阪高等検察庁公安部長で、「市民連帯の会」代表の三井環氏は警視庁捜査第二課に告発状を送付した。
五輪バッジ配布の事実の有無と、刑事告発の受け止めを問われた舛添都知事は、「全く配布したことも知りません。選挙期間中は時間もなく次の会場に行くため5分くらいしか無かったので…。このバッジは無料と聞いている。公選法の解釈上、有料だと問題になるが、無料のものなら問題ないのでは」と答えた。
また、「警視庁を所管する都知事として、すでに警視庁とこの告発の件で話したことはあるか?」との質問には、「警察とは何も話していない」と否定した。 ネット上での時価が「有料」と解釈され得るか、そもそも選定ビラ以外の物品の配布が公選法に抵触しないのかが、今後の焦点となる。
「立憲主義をわかってない」自民党改憲案をめった斬り
2005年に自民党の第1次憲法改正草案を手がけ、今の第2次草案について批判を展開している舛添都知事。2月19日には最新著作「憲法改正のオモテとウラ」が発売されることもあり、記者からは現自民党改憲案の問題点や、集団的自衛権についての見解を問われた。
舛添氏はまず、「憲法学者として憲法を学問という観点から見た時に、2005年に自民党でまとめた第1次草案のほうが優れている。今の第2次草案(現自民党改憲案)は立憲主義の観点から問題がある。第1次草案は一言一句全部私が書きました」と語った。
具体的な現改憲案の問題点として、「公務員は絶対に虐待してはいけない」の「絶対に」をあえて削除している点や、附則のQ&Aで西洋の天賦人権論を否定している点をあげ、「フランス革命以来、営々として人類が築き上げてきたものを、なぜ批判するのか」と語気を強めた。
また「一番大事な点」として、第13条の「すべて国民は、個人として尊重される」を、現改憲案では「個」を取って「人として」に書き換えていることを指摘。「『人として』と書いてはダメ。絶対個人自体守られている。個人の対抗概念が国家で。国家に対して個人を守るために憲法がある。国家の対抗概念は個人であって、『人として』に書き換えると、人の対抗概念は犬や猫だ」と語ったうえで、「基本的に立憲主義がわかってない。今のままの第2次草案ならば、私は一国民として国民投票で反対する」と痛烈に批判した。
9条改正、集団的自衛権については「賛成」
自民党の改憲案を批判した舛添都知事だったが、「9条改正」には賛成の意向を示し、「集団的自衛権」についても安倍政権の方向性に理解を示した。
舛添都知事はまず「9条改正には賛成だが」としたうえで、「石破さんとも議論したが例えば『国防軍』というのは戦前を思い出して嫌になる人がいる。9条改正に必要な3分の2の発議要件で『国防軍』では3分の2とれない。せめて『自衛軍』にしないと」と語った。
さらに集団的自衛権の行使容認については、「憲法改正ではなく、安全保障基本法の中で国会で議論してきちんと政府が決めるという方向になってますから、そのスタンスは安倍政権とは変わりません」と語り、安倍政権の進める「解釈改憲」を支持した。
待機児童4年でゼロには「規制緩和」と「ハイパービルディング構想」で
会見では、今後の都政運営についての質問も多くあがった。
自身が掲げる「待機児童4年でゼロ」について、具体的な方策を問われた舛添都知事は、「株式会社や個人が参入できるよう認証保育所の規制緩和。また、光が丘や多摩ニュータウンなど、建物を高層化してスペースの空いた1階に特養や保育所を入れる。さらに余った国の保有地を活用する」と答えた。
「建物を高層化する」というのは、舛添氏が長年温めてきた「ハイパービルディング(超高層ビル)構想」を指す。都知事選の政策にも掲げられていたこの構想は、2010年に出版した「日本新生計画 世界が憧れる2015年のジパング」という著書に詳しく書かれている。
その中で舛添氏は「東京では、少し郊外に行くと、高いビルを建ててはならないなどという規制があり、高層化できない。こうした規制を撤廃し、超高層ビルの建設を可能にする」と書いている、さらに驚くべきことに、「山手線内にも、一軒家に住んでいる人がたくさんいる。申し訳ないが、この方たちには、協力をお願いしなければならない」とあり、超高層ビル建設のためには、住民の立ち退きや強制収用も辞さないというスタンスを示しているのだ。
この構想の問題点については、以下のブログ記事で詳細に指摘しているので、ご覧頂きたい。
カジノ構想については「検討中」
会見では他に、現在国会で議論されている「カジノ構想」について質問があがった。カジノは前猪瀬都知事の時代から、お台場再開発の一環として検討されてきたが、現在異論反論が続出している。
舛添都知事は「賛否両論あるのは認識。まだ最終的な決断を下していない」としたうえで、「色んなカジノを視察して、経済面でだけでなく青少年への悪影響や家庭崩壊など、よく決めた上で決めたい」と答えた。
新国立競技場案についても「検討中」
前猪瀬都知事の時代から国との綱引きが続いている、新国立競技場の建設費負担問題についても質問があがった。国と都がどの程度の費用負担を分け合うか、舛添都知事は「建設費については、議論の経緯を含めて関係各位と議論して判断したい」と語った。
また著名な建築家の間で批判が出ている、新競技場による景観破壊問題については、「景観云々というのは、さまざまな建築家のご意見も私も読んだりしている。ただ8万人収容できることがオリンピック招致の条件だったので、その条件との兼ね合いの中で検討した上で決めたい」と語った。