「TPPは国益ではなく、多国籍企業益である」~岩上安身によるインタビュー 第302回 ゲスト TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会・醍醐聰東大名誉教授 2013.4.30

記事公開日:2013.4.30取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

特集 TPP問題
※サポート会員ページに全文文字起こしを掲載しました(2013年10月15日)

 「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」は現在、全国で875名の教員が署名している。同会の呼びかけ人であり、事務局を務めている醍醐聰東京大学名誉教授に、4月30日、岩上安身が話を聞いた。26日、醍醐氏ら大学教員の会は記者会見を開き、屈辱的な不平等条件を合意させられた「日米事前協議」について、国会議員と連携し、議員の質問権を行使して、政府に情報公開要請を行っていくことを発表した。

 インタビューで醍醐氏は、この日米事前協議の合意内容で日米の発表が食い違うことや、屈辱的な合意内容そのものについて、詳細に解説。甘利TPP担当相が「聖域、特定せず」と発言し、安倍政権が「守る」と言ってきた「聖域」をぼかすようにしていることについて、「すでに逃げの作戦に入っているのではないか」と分析した。

 また、薬価の高騰や、日本の食糧自給率低下による発展途上国の飢餓の拡大などを例に挙げ、「TPPは『グローバル』な視点からも、国民益はなく、企業の利益しかない」と断じた。最後に醍醐氏は、日本政府の影響試算に、関連産業や地域経済への影響が考慮されていないことを指摘。大学教員の会で独自計算したところ、全体で6兆9000億円ほどのマイナスになることを明らかにした。

■ハイライト

 「このところ大手メディアは、TPPに関する出来事を、まったくといっていいほど報じていない。先日も醍醐先生らによる重要な会見があったのに、取材に訪れたのは日本農業新聞、しんぶん赤旗、そしてIWJぐらいだったのでは」。岩上がこう水を向けると、醍醐氏は「私は5年ほど前から関わっている、NHKをウォッチする市民団体の活動を通じて、大手メディアが世間の空気を操っている、つまりは世論をミスリードしていることを実感している」と述べた。

 そして、岩上が「先日合意された日米事前協議で、安倍総理は交渉参加会見で『守るべき国益は守る』と言い切った。でも実際は、米国に押し切られてしまっている」と懸念を示すと、醍醐氏は「甘利明TPP担当相は『聖域、特定せず』と発言しており、すでに聖域(=自民党が関税をかけて死守すると国民に公約した米、麦、豚肉、牛肉、乳製品の5品目)の存在をぼかし始めている。聖域の死守はもはや無理と、逃げに入っているように映る」と応じた。

 その上で醍醐氏は「日本政府は、TPP交渉参加に向け、事態は順調に進んでいるかのようにアピールしているが、窮地に立たされているのが実情だ」との認識を示し、こう呼び掛けた。「この現実を、自民党の慎重派や5品目を除外すべしと提言している農水委員会は、どのように受け止め、政府側にどう声を上げていくのか。われわれ国民は、この点を十分注視していかねばならない。それが、自民党にプレッシャーをかけることにつながる」。

 この3月に行われた、JA全中(全国農業協同組合中央会)など農林漁業中心の8団体による、TPP参加交渉参加反対の集会で、自民党の石破茂幹事長は、野田・民主党政権の末路に照らして、『公約が守れなかったらどうなるか、われわれは、わかっている』と発言している。この一件について醍醐氏が、「あの時、石破さんが、先の聖域5項目を挙げている。日比谷野外音楽堂で、あれだけの大人数(約4000人)を前にした発言だ。簡単には撤回できない」とコメントすると、岩上は「JA全中は、昨年の選挙で自民党を応援した以上、今の自民党に対し、問い詰めるべきところはしつこく問い詰める義務がある」と言葉を継いだ。

 岩上は、醍醐氏らが政府に提出した質問書へと話を振った。これを受けて醍醐氏は、「日米事前協議合意に関し、米国通商代表部(USTR)と日本政府が、それぞれ発表した文書に食い違いがある。悩むのは、その指摘に対する政府の対応で、『(発表の前に)すり合わせをしていない』とか『(発表の内容に食い違いが生じても)われわれは関知しない』と回答してくる」と説明した。4月12日、日米両政府がそれぞれ発表した、TPP交渉参加の事前協議に関する合意文書で、日本政府が公表している合意公開資料では、米国が日本に要求する非課税措置の項目の中の「知的財産権」「政府調達」「急送便」「競争政策」が記されていないなど、USTR発表文書との間にかなりの隔たりがあるという。

 岩上が「文書の食い違いについて、さらに言えば、たとえば自動車では、米国は、関税については段階的に下げていくと表明しているものの、仮に撤廃されたとしても、自分たちの都合でいつでも課税を復活できる、スナップバック条項の存在が、穴を埋めるように記載されている。さらには、日本への台数の割り当てを意味する記述(米国車を2倍以上にする)もある。しかし、日本側の文書には、そういった記述は一切見当たらない。保険分野もしかりだ」と具体例を指摘すると、醍醐氏は「保険分野については、かんぽ生命(日本郵政グループの生保会社)の、がん保険などの新商品を事実上凍結する、と日本側が一方的に通告してきた旨の記述が、USTR文書に書かれている。要するに日本政府は、最初から米国勢に配慮して白旗を挙げているのだ」と批判を口にした。

 その上で醍醐氏は、「両国政府が発表した文書を見比べる限り、日本は米国に完全に屈服している。私は、日本政府の文書に書かれていない4項目(知的財産権、政府調達、急送便、競争政策)で、日本にとっての脅威が始まるとみている」と警鐘を鳴らした。さらに、「ことに着目すべきは競争政策で、米国企業にしてみれば『これでは競争条件が公平でない』と理由をつけ、日本に対し、何かとクレームを入れることが可能になる。おそらく、日本郵政グループの経営のあり方にまで、口を挟んでくるだろう」とも語った。

 インタビューで岩上は、進出先の収容により損失を被った外資系企業が、相手国政府を訴えることができる、ISD条項にも触れた。「米国企業は、自国内と同じビジネス環境を日本に要求しているのであり、それを阻害するものなら、たとえ日本の文化であっても例外としない」。米国勢が、日本語でのコミュニケーションに対して、通訳や翻訳が必要なのでコスト要因となる、との理由で、ISD条項を使って訴えてくる可能性があるというのだ。

 岩上が「日本の公用語が、英語になっても不思議ではない。それは、日本が米国の植民地になることを意味する」と指摘すると、醍醐氏は次のように話した。「日本の財界は、TPPのマイナス面を十分知っているはずだ。ではなぜ、それでもTPPを推進するのか。彼らの期待は別の部分に、つまり米国の規制撤廃要求の効果にあるからだ。日本がTTPに加盟することで、国内に農業放棄地が増えることをにらみ、住友化学などが土地取得を狙っているという話も耳にする。日本の経済人が、そういうところまで見据えていることは、まず間違いない」。

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