2024年10月1日、東京高裁で、種子法廃止等に関する違憲確認訴訟の控訴審の、最終弁論が行われ、結審した。山田正彦元農林水産大臣は最終弁論に立ち、40分間の意見陳述を行い、「種子法廃止の真の目的は、公共の種子の排除である」と主張した。判決は2025年2月20日の予定である。
2024年11月20日、岩上安身は、「自公政権による『公共の種子をなくす仕組み』が完成!? 種子法廃止は、『私達を飢えに陥れかねない、天賦の権利を侵害するもの』!」と題して、山田正彦元農林水産大臣にインタビューを行った。
山田氏は1942年長崎県生まれ、早稲田大学法学部卒業後、長崎に戻って牧場を開いた経験を持つ。
2011年2月2日に取材した「TPPを慎重に考える会」の勉強会以来、IWJは山田正彦氏への取材や岩上安身によるインタビューを続けてきた。その数は200件近くにのぼる。
インタビュー冒頭、第2次安倍政権下で進められたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から米国が抜けたにもかかわらず、「今は、TPPでやろうとしたことを、ひとつずつ実現しているようなものだ」と山田氏は指摘した。
山田正彦元農林水産大臣「安倍政権の時に、TPP関連生活大綱(総合的なTPP.等関連政策大綱、2015年)というのを閣議決定して、それにもとづいて種子法(主要農作物種子法)が廃止されて、水道法も改定されて、食品表示も変えられていくんです。
これは本当に、本当に、TPPが、安倍政権が閣議決定でやって、今、実際になされているいろいろな問題に関わっているのは、間違いないんですね」
岩上安身「しかも、それが言ってみれば、外資のために道を開いていくような姿で。
水道法といえば、麻生太郎さんがアメリカに渡り、CSISという『ジャパンハンドラーの巣窟』と言われているシンクタンクへ行って。そこにいるのは、ジャパンハンドラーと、それから外資ですよ。そういう皆さん達のために、『日本の水道は全部売ります』みたいなことを請け負ってきた」
- 「日本のすべての水道を民営化します」 ~マスコミが一切報じない我が愛すべき「麻生さん」の超弩級問題発言 (<IWJの視点>佐々木隼也の「斥候の眼」: IWJウィークリー13号より) 2013.8.12
- 「貧乏人は水を飲むな」は対岸の火事ではない ――政府が進める水道料金値上げと完全民営化 ~マスコミが一切報じない我が愛すべき「麻生さん」の「水道民営化」発言(佐々木隼也の斥候の眼) 2014.4.16
岩上「(麻生氏は)最も愛国的なイメージがあるようで、いえいえ、ものすごい売国的な政治家だなと思うんですけどね。(安倍政権は)売国そのものの政権だったような気がしますし、そうしたことは政権の『表紙』は変わっても、いまだに続いています。
『公共の種子』というものも、これまでは種を蒔いて、農作物ができて、それでまた、その種子が残る。それを保存しておいて、また翌年蒔くというのが当たり前だった」
山田氏「そう、主要農産物。日本の場合は米、麦、大豆ですけれども、そういったものを全部、必ず、アメリカでもオーストラリアでも、国が管理するんですね。守っているんです。それを日本だけは、種子法を廃止して、国の管理をやめて、すべて民間に委託する」
岩上「種子法というのは、種子を守っていた法律ですね。自分達のガードをどんどん外して、そして民間の、――この場合、外資もあれば国内資本もあるわけですけれども――、人工的に作られた遺伝子組み換えの種子、それを毎年毎年買え、というような形で利益を上げていく。
そして、農業生産者、農家の方々にも、大変苦しい思いをさせて。消費者にも、マイナスになるわけですよね、価格転嫁されて」
山田氏は、2018年に種子法が廃止された時、三井化学の「みつひかり」は、「種子の価格を10倍、数10倍に引き上げた」と指摘した。
山田氏「遺伝子組み換えの種子とか、ゲノム編集の種子を用意されていて、将来的にはそうしたいという政府の意向なんですけれども。今のところはね、まずF1(1代交配種、雑種第1世代。F1品種は、均質で高収量が期待できる反面、次世代では遺伝的にバラバラな特性が現れるため、同じ品質や収量が得られない)の種子にしてしまうんですね」。
岩上「F1というのは、1代だけ、1年限り」
山田氏「そう、1代限り。そして、民間の種子、例えば民間で三井化学、これが筆頭だったんですが、住友化学とかで豊田通商もやりましたね、F1の種子。そして、ゲノム編集の、米の遺伝子組み換えの種子を、用意はしたんです。
しかし、F1の種子というのは、1代限りだから、いったん農家が買ったら、自分でその種子を蒔いても、次のものができないから、毎年買わなきゃいけないんですね。
その価格を、これまでの公共の種子だと、例えばコシヒカリという代表的な品種、米のね、これだと大体1キロ500円ぐらいなんです。400円から500円。ところが、『みつひかり』という三井化学の品種を、政府は全国に奨励してまわったんですが、それがその10倍するんですよ。5000円」
岩上「悪辣なやり方ですよ。こういうことが、昨日今日始まったわけじゃない。非常に長いスパンでですね、国を変えて、そして政権を変え、売国奴の政治家が生まれ、こういう搾取するような資本、悪辣なグローバル資本の真似をする日本の資本というのが出てきて。
大変未来は暗いなという…、それでも、少しは抵抗しなければということを、先生方がおやりになり、我々はメディアですから、伝え続ける。ろくにマスメディアは伝えないわけですよ、これをまたね。
何ていうか、あらゆる形で、我々がネットを使い、先生はご本を書いたり、講演を行ったり、シンポジウムをやったり、それから映画までをお作りになった。その映画も、また後で話をしますけど、非常に今、とても意味を持つようになっているわけですけれども。
いろいろあったんですけど、今日はですね、『山田先生シリーズ』とでもいうインタビューでいうと、昔から見ている方はですね、『まだ闘争中、頑張ってる、抵抗中なんだな。でも、もう敗色濃厚なんでしょう』みたいなね、風に思ってらっしゃる方もいるかもしれないですけど。そうじゃないんです。
確かにこの裁判、一応負けているんですけど、その中に重要な、先ほどおっしゃったTPPが根っこになって、こういう重要な種子法の廃止とかの原因になっているという、そういう言質をとったわけですよね。そういうものが使えるわけですよね」
山田氏「そう。というか、種子法廃止の時、種子法違憲確認訴訟を起こしたんですが、国が答弁書の中に、『種子法を廃止したのは、TPP協定によるものである』と、はっきり書いているんです」
岩上「そういうことですね。つまり、TPPが根拠になっている」
山田氏「根拠はそれぞれ、種子法廃止だけでなく、食品表示法もそうですけども、水道法もそうですけれど、みんなそうなんですよ」
また、「食品表示」も、改悪されている。
岩上「水道法に関しては、先ほど私、申し上げましたが、民営化とか言いながら、外資に売り渡すということをやったり。
あるいは食品表示法の方は、今まで例えば危険なものを、問題があるかもしれないもの、添加物があったら表示しなければいけないというものを、しなくても良くなったりとか。
それから遺伝子組み換えなのか、そうでないか、表示しなければいけなかったものを、表示しなくてもいいことになった。
だから、消費者が、賢い消費者になろうとかいうスローガンで運動されていた方々もいらっしゃったと思うんですけれども、そういうことも大事なことなんですが、賢い消費者であっても表示されていないとわからないわけですよね。
その表示が、『してはいけない』みたいなことになっています」
山田氏「そうなんです。例えばですよ、今、スーパーとかコンビニに行くと、みんな『国内製造』となっています。
今までは、『国産』と表示しておったんですね。本来ならば、原料原産地を表示しなきゃいけないんですから、例えばパンだと、『アメリカから来た小麦』ですと」
岩上「どこかの外国で作られた、栽培された大豆で豆腐を作っているとか。豆腐に変えるところの『製造』は、国内でやってるかもしれないけど、大豆自体が…」
山田氏「原料原産地を表示しなきゃ、意味がないので。『国内製造』となると、国産のものか、アメリカ産大豆なのか、わからないでしょう。
韓国は、きちんとやっているんですよ」
岩上「何ていうんですかね、本当に。
政権交代がないせいなのかもしれませんけれども、いったん、アメリカに隷従するとなったら、とことん隷従していく政権がずっと続くというのは、やっぱり自公政権の、ひとつの特徴なのかなという気がするんですけど」
山田氏「さらにひどくなっていますよね」
この後、インタビューでは、山田氏の議員時代・農水大臣時代の経験が語られた。
そして、総理となった石破茂氏が掲げる「地方創生」とは、表面だけのものではないかとの疑念、石破政権下で「食糧安全保障」が実現できるのだろうかという問題、国が主要作物の種子を守らなくなり、種子の民間化を進め、採種して苗を育てるという「農民の権利」を奪う方向に進んでいる、との指摘などがあった。
山田氏は、農家の戸別所得補償が、日本の農業再生の鍵であることを指摘した。
また、ロシアでは、プーチン大統領が主導して遺伝子組み換え作物(GMO)を禁止し、ウクライナを含む旧ソ連の穀倉地帯を守ってきた。一方、欧米諸国の支援を受けてロシアと戦っているウクライナは、戦費を賄うために、自国の農地をグローバル企業に払い下げ、その土地は遺伝子組み換え作物と農薬が使われるようになってしまった。こうした、食料安全保障からみたウクライン紛争のもう1つの側面も、話題にあがった。
米国では、次期大統領に選ばれたトランプ氏が、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を保健福祉長官に指名した。山田氏が監修した映画『食の安全を守る人々』(2021年)で、山田氏は、ケネディ氏にインタビューをしている。
「反ワクチン活動家」などとマスメディアでは揶揄されれいるケネディ氏が、実は優秀な弁護士であり、環境保護活動家であることなどが、話題にあがった。ケネディ氏は、モンサント裁判で歴史的な勝訴を勝ち取った弁護団の一員でもある。
山田氏が、「早稲田大学在学中に、当時米国の司法長官であった、ケネディ氏の父ロバート・ケネディ氏を日本に招き、早稲田大学の大隈講堂で講演してもらったことがある」と話すと、ケネディ・ジュニア氏は、父が日本で講演した時の大切な写真を山田氏に見せ、山田氏が記念にと贈った早稲田の校歌を奏でるオルゴールを、「母が大事にしており、94歳となった今でも、早稲田の校歌を歌える」と話したとのこと。
ロバート・ケネディ氏は、早稲田での講演から帰国し、2ヶ月後に暗殺されている。日本への旅行が、ケネディ夫妻の思い出にもなっていたのだろう、山田氏はその話を聞いた時「ジンときましたね」と振り返った。
詳しくは、IWJ会員となって、インタビュー動画を、全編御覧いただきたい。