2024年10月18日午後6時より、第11回興志塾「ロシアとウクライナとの問題について『天使の並木道~ウクライナ人がウクライナ人をジェノサイドし続けた8年間の記録』をベースに」が開催され、黒龍會・アジア新聞社会長の田中健之(たけゆき)氏、一般社団法人JCU議長の饗庭(あえば)浩明氏が、それぞれ講演を行った。
興志塾は、田中氏が主宰する私塾であり、日本の近現代史、特に在野の人々の生き様を中心に、混迷する日本の立て直しを考え、新聞やニュースには出ない国際情勢の分析を行い、日本の進路を考えるため、毎月、横浜中華街の横浜バザール「天空山・磊落(らいらく)堂」にて、講義を開催している。
田中氏は、1881年(明治14年)に日本で初めて誕生した右翼団体ともいわれる「玄洋社」の初代社長・平岡浩太郎氏の曾孫として、福岡市に生まれた。
また、アジア主義団体である黒龍会を創立した内田良平氏の血脈道統を継ぐ親族でもあり、日本とロシア、日本と中国の間を往来し、有力者との人脈を築き、善隣友好に務めるかたわら、歴史作家として、日露、日中、日韓問題などについて、歴史的視点から今日を見る、独自の執筆、講演も行っている。
田中氏は、英語、中国語、上海語、北京語、朝鮮語、ロシア語、ペルシャ語に精通するコスモポリタンでもある。
この日の興志塾は、参加者多数のため、「胖鴨(Pnag Ya)まるまる鴨」という中華料理店を貸し切りで開催された。
田中氏は、『天使の並木道~ウクライナ人がウクライナ人をジェノサイドし続けた8年間の記録 2014~2022』(ヒカルランド、2024年10月10日)という、600頁を超える衝撃の問題作を編集し、上梓した。
この本は、現在も続いているウクライナ紛争について、日本の大手メディアが決して取り上げない、いわゆる「黒塗り」された部分を、白日のもとに晒すものである。
「黒塗り」されているのは、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻(特別軍事作戦発動)までの8年間(2014~2022)にわたり、ウクライナ東部のドンバス地方で、キエフのネオナチ政権により、ロシア系住民に対する差別政策や、民間人殺傷などの民族浄化(ジェノサイド)が行われたという事実である。
この『天使の並木道』は、膨大な写真資料をもとに、その事実を詳述している。
講演の冒頭、田中氏は自著『天使の並木道』について、次のように語った。
田中氏「私が書きました『天使の並木道』という本を、既にお求めになって、手元に来ていらっしゃる方もいるかと思います。
その本を見ていただけばわかりやすいですが、約606頁を超えている大著でございます。その3分の1が、写真でやっています。
(DTP担当の)宮林(雅和)さんがいろいろ手伝って下さって、DTPとか資料なんかも集めてくださったのですが、写真が、順番になっています。
どういう経過で、ウクライナでの『ユーロマイダン』というデモが、暴力革命に変わっていったのか、そして、それから発展して、どういう形で、オデッサで虐殺が行われたのか、どういう形で、政府に反対する者、ロシア系の住民が、いわゆるドンバスで、東部ウクライナに立てこもって武闘せざるを得なかったのか、ということが、写真を見ていただければ、順番になっています。
その中の、写真を使わせてもらった人の中では2人、それ以外では、数人のウクライナ人ジャーナリストが、『ユーロマイダン』以降のウクライナ政府によって、暗殺されています。
ですから、この本は非常に危険な書であって、出る前から、ウクライナの駐日大使とかが、私に対して、中傷・誹謗を繰り返し、また、出ると言ってからは、私の家の電話線が切断されたり、そのようなことが起きています。
とにかく、『出ちゃいけないものが出た』という、それがウクライナとかアメリカの、非常に、癇に障るのです。(中略)
『日テレ』のいろいろな記者なんかとも話をし、(駐日ロシア)大使館にも一緒に行ってるし、食事会も大使館でやっている。
『なんで真実がわかってて、報道できないんですか?』(と聞くと)、『いや、上の方が許さないから、現場じゃわかってても報道できない』と言うんですよ。
ということは、要するに、日本のマスコミの経営陣がですね、日本の政府の言いなりになって、言論統制を行ったということ。
私の本を作るのに、2年かかった。原稿は、2年前に上がっているんですよ。何でできないのか。
印刷屋がね、『ロシアを宣伝したくないから、やりたくない』『紛争に巻き込まれたりしないか、怖い』『いや、日本政府から何か圧力をかけられそうで、怖い』って言って、みんな逃げたんです。だから2年もかかった。
日本っていうのは、『言論の自由』があるのか?
ないです。統制されている。
統制された中で、我々は(それを)当然として生きているのか?
はっきり目を開けて、日本の現状を見ていかなきゃいけないのです」
また、田中氏は、10月27日の投票日を控え、激しい選挙戦が繰り広げられている衆議院議員総選挙についても、次のように持論を語った。
田中氏「全部が多数決の原理。選挙なんかでも、くだらないでしょ。今回の『総裁選』。
好むと好まざるとにかかわらず、訳わかんないものが、たくさん出てる。衆院選もそう。国民の税金を使ってるんですよ。我々の大事な。
『物が高い、物が高い』。物が高い中で、そのくだらない奴らがが出てきている。この、くだらない奴らに対して、私達は、どういうふうに戦っていかなきゃいけないのか?
じゃあ、自分達も自民党に入って、総裁選に立候補するのか? 自民党員になって、総裁選に立候補した人に1票を入れるのか? それとも野党になるのか?
与党も野党も同じようなもの。みんな国民の税金が使われているんですよ。茶番でしかない!
国家のことを、誰も考えてない。国家のことを考えれば、私はいつも言いますよ。ウクライナの問題、そしてロシアの問題は、本来、中立じゃなきゃいけない。中立になって、日本は紛争を止められるような国になんなきゃいけない」。
ウクライナ紛争で、岸田政権は、一方的にロシアを悪とし、米国に追随するかたちで、ウクライナに肩入れする、硬直した外交を展開してきた。
そして、『天使の並木道』にもある通り、ロシアによるウクライナ侵攻までの8年間、ウクライナ東部のドンバスで、ロシア系住民への差別政策や民間人殺傷などの民族浄化があった事実を、まったく認めていない。
米国で、トランプ政権が成立すれば、米国のウクライナ政策が変更されることも予想され、NATO内の対応も一様ではない現在、日本は、対米従属ではなく、自主・主体的に、両国の和平実現を後押しする外交へと転換する必要があるのは確実だ。
「対米従属」ではない、新しい外交方針について、田中氏は「中立国家」という方向性を提起した。
田中氏以外にも、青山学院大学名誉教授の羽場久美子氏は、「日本は、相互信頼、対話、そして戦争ではなく経済的共同発展を働きかける、ブリッジ国家であるべきだ」と提唱しており、衆院選にれいわ新選組の比例東京ブロック公認候補として出馬している、伊勢崎賢治・東京外国語大学名誉教授も、同様に、大国間の戦争を回避するために動く「緩衝国家」という選択肢を提示している。
田中氏に続いて、一般社団法人JCU(Japanese Conservative Union)議長の饗庭(あえば)浩明氏が、11月5日に投開票が行われる米大統領選挙の真相、そして、共和党と民主党の間で繰り広げられている選挙戦の最新情報、および情勢解説などを行った。
田中氏、饗庭氏の講演の詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。