住民運動などを背景にした閉鎖予定から、一転して運転延長となった、米国のディアブロキャニオン原子力発電所に関して、その近郊に住むキャロル久末氏による講演が、2024年9月24日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で開催され、IWJが配信した。
札幌のリモート会場や、オンラインでの参加も実施された。主催は「泊原発の廃炉をめざす会」である。
- 9月24日 集会「ディアブロキャニオン原発周辺事情」とパブリックビューイングのご案内【資料あり】(泊原発の廃炉をめざす会)
米カリフォルニア州の電力会社PG&E(パシフィック・ガス&エレクトリック)社は2016年、再生可能エネルギーによる発電コストの低下と電力需要の伸び悩みを理由に、当時州内で唯一操業していたディアブロキャニオン原発を2015年までに閉鎖すると決定し、2018年、カリフォルニア州は原発の廃止を容認した。
ところが、2020年の夏に、同州は記録的な厳しい熱波に見舞われ、電力が逼迫し、州知事が緊急事態を宣言、電力会社に計画停電を指示した。
2022年2月3日には、80人近い科学者と学者が連名で、地球温暖化の抑制を理由に、原発閉鎖を遅らせるよう、カリフォルニア州のニューサム知事に要請した。要請書簡は、原子力発電の排出利益を促進する非営利団体「セーブ・ザ・クリーン・エナジー(Save Clean Energy)」の創設者兼常務取締役であるイザベル・ボエメケ(Isabelle Boemeke)氏によって作成され、チュー元米国エネルギー省長官も名を連ねた。
さらに同年夏にもカリフォルニア州は、熱波と電力供給の逼迫懸念から、緊急事態を宣言。同年9月には、エネルギー需給を理由に、州知事の主張にもとづいて、州議会が「原発の操業を延長する法改正」を行った。なお、この年は、ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギー資源が高騰した年でもある。
- 米加州最後の原発閉鎖へ、再生エネに置き換え(ウォールストリート・ジャーナル、2016年6月22日)
- カリフォルニア州、脱原発州になることが決定。唯一稼働中のディアブロ・キャニオン原発の6年後の廃炉決まる。代替発電は再エネ発電で(RIEF)(一般社団法人環境金融研究機構、2018-01-17)
- [米国] 科学者集団が、原子炉閉鎖を遅らせるようカリフォルニア州知事に要請(電気事業連合会、2022年2月15日)
https://www.fepc.or.jp/smp/library/kaigai/kaigai_topics/1260687_4815.html
- カリフォルニア州議会、ディアブロキャニオン原子力発電所の運転延長法案を承認(原子力産業新聞、02 Sep 2022)
ディアブロキャニオン原発は、付近に活断層がある点で、北海道の泊原発と同様であり、また、老朽化した原発の運転期間延長など、日本の原発と共通するさまざまな問題を抱えている、と主催者である「泊原発の廃炉をめざす会」は指摘する。
首都圏のFMラジオ局、『J-WAVE』の開局当時のナビゲーターや、同じく『InterFM』のDJなどを務めたことで知られるキャロル久末氏は、2006年からカリフォルニア州の牧場に、自給自足の生活を求めて住み始めた。
実はその南約10kmに、ディアブロキャニオン原発が位置したが、当初強くは意識しなかったという。しかし、福島第一原発の事故以降、同氏は脱原発の運動に携わるようになり、現在はディアブロキャニオン原発の廃止を求めるNPO法人「マザーズ・フォー・ピース(Mothers for Peace)」の役員を務めている。
講演でキャロル久末氏は、水圧系の漏れや火災等の事故をはじめ、「全国で一番問題の多い原発のひとつ」とされるディアブロキャニオン原発が、住民運動等で、いったんは閉鎖が決定された後、紆余曲折を経て運転延長とされた経緯、そして、これに反対する「Mothers for Peace」等の取り組みや、取りまく社会・政治の環境について、詳しく説明した。
その上で、キャロル久末氏は、「この悪夢から目覚めるには、どうすればいいのでしょう?」と問いかけた。
現在、規制委員会(米国原子力規制委員会・NRC)への要求は、ほとんど却下され、「Mothers for Peace」は「次のステップは、政治的圧力しかないのでは」と考えているという。
講演に続いて、キャロル久末氏に加えて、「泊原発の廃炉をめざす会」の共同代表で前弁護団長の市川守弘弁護士と、同会の核ゴミ問題担当世話人であるマシオン恵美香氏の3人が、参加者から寄せられた質問に答える形で、「使用済み核燃料の未来」など、様々な角度から、日米の原発の状況について語った。
また途中で、立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員が登壇し、「日本は3つの意味で、原発にふさわしい国だとは思えない」等と訴えた。その3つとは、「世界のマグニチュード6以上の地震の20%近くが、日本列島周辺で起きている」「日本の原発は過酷事故が起きない前提で立地させており、避難することを前提に作られていない」「日本列島には常に動いており、地下水も豊富であり、使用済み核燃料等を処分する土地がない」という点。
残念なことに、逢坂議員は、戦争リスクについては、まったく外されていた。
この点は、我々有権者、国民、市民が、声をあげて、国会議員の頭の中にインプットさせていかないと、いつまで経っても、戦争と原発の話は切り離されたままで、無防備なまま、「本番」をむかえてしまいそうだ。
詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。