「統一教会がとんでもないということは、与野党問わず共通認識なはず。最初から協働して、一番効果的な法案を作りましょうとやっていれば、野党案、与党案でわかれたり、今になってこの点おかしいと批判するようなことにはならなかった。非常に残念だ」
全国霊感商法対策弁護士連絡会の事務局長である川井康雄弁護士は、国会で審議されている統一教会被害者救済新法の法案について、こう苦言を呈した。
2022年12月2日、衆議院第一議員会館で、統一教会問題をめぐって、市民団体「共同テーブル」が主催する緊急シンポジウムが行われた。
このシンポジウムは、長年にわたり、統一教会問題の被害者救済に取り組んできた、全国霊感商法対策弁護士連絡会の山口広弁護士らと、評論家の佐高信氏による新刊『統一教会との闘い――35年、そしてこれから』(旬報社、2022年10月31日)の刊行を記念して行われたもので、佐高氏、山口弁護士のほか、共著者である川井弁護士、阿部克臣弁護士、木村壮弁護士、中川亮弁護士、久保内浩嗣と、『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館、2022年9月26日)著者でジャーナリストの鈴木エイト氏が登壇した。
また、オンラインで全国霊感商法対策弁護士連絡会の郷路征記弁護士が参加したほか、元信者や信者二世らが発言した。
全国霊感商法対策弁護士連絡会は、統一教会問題の被害者救済のため、政府が11月28日に国会に提出した「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」案について、11月29日に、問題点を指摘する声明を発表した。
- 「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」案に対する声明(全国霊感商法対策弁護士連絡会、2022年11月29日)
この日のシンポジウムで川井弁護士は、声明でも明らかにした法案の問題点について、次のように指摘した。
「統一教会の問題というのは、今、新法で規制しようとしている寄付の問題だけではない。寄付の問題は、あくまで被害の一側面にすぎない。
宗教は、信仰を持つことでその信仰による価値観が、その人の人生にずっと影響を及ぼす。家庭連合(統一教会)の場合は、勧誘段階で正体を隠し、宗教教義であることをわからないままに、それを埋め込んでいく。いつの間にか信者にさせられてしまう。その結果として人生を棒に振ってしまうかもしれない。
この『信教の自由の侵害』というのが、本質的なところなんです。したがって極論を言えば、仮に寄付をしなかったとしても、文鮮明の、いわば奴隷になってしまう。そのことだって非常に重要な問題なわけです。
ですから私たちは、『正体隠し』という、伝道そのものに対する規制を考えてほしいと、何度も言い続けてきました。今回の法案では『寄付』に限定されてしまっている。その点が大枠として問題だと思う」
さらに川井弁護士は「統一教会の信者さんというのは、植え付けられた信仰によって、その『お金を出す』という行為だけをみれば、一生懸命使命感に燃えて、あるいは場合によっては喜んでお金を出している」と指摘し、法案ではマインド・コントロール下の献金が、「禁止・規制」ではなく「配慮義務」とされているにすぎないことを「重要なポイント」だと批判した。
一方、シンポジウムでは、「統一教会に身元がバレると非常に危険」だとして、3名の信者二世が、オンラインでVチューバーや匿名・顔隠しで発言した。
「今、統一教会は東南アジアやアフリカに触手を伸ばし、着実に根を下ろしつつある」と発言した、Vチューバー「もるすこちゃん」は、こうした国々で新たな信者が、統一教会の金儲けシステムに入り込んでいると指摘した。
「これから経済成長するそうした国々で、必ず貧富の差や男女差別が生まれます。
経済成長の競争に弾き出されていく社会的な弱者に、統一教会は忍び寄ってきます」
こう述べた「もるすこちゃん」は、「日本で起こったこと、私たち二世の苦しみが、また世界のどこかで繰り返されることがないように」と訴えた。
同じく信者二世の田村一郎さん(仮名)は、「7月8日の安倍首相殺害事件を目の当たりにして、『この事件を起こしたのは自分だったんじゃないか』という思いが日に日に膨らんできてしまい、寝込んでしまう日が続いた」と明らかにした。
田村さんは「オウム真理教事件の教訓から、私たち元信者が社会と分断されてしまうということだけは、絶対に避ける必要がある」と述べ、社会とのつながりだけが「私たち元信者の生命線になる」と訴えた。
信者二世のVチューバー「デビル」さんは、初期には霊感商法を行っていた統一教会が、現在は物品など証拠の残らない寄付などにシフトしていると指摘し、「最近は婚活を使って勧誘を行っている」「過去に問題を起こしたものは、『個人が勝手にやったこと』『別団体』などと言い訳をして、切り離しながら存続している」と、統一教会の集金システムを図を使って解説した。
さらに「デビル」さんは、「うちの母に闇金を紹介したのは、統一教会なんです」と明らかにし、次のように訴えた。
「(統一教会は)自分の親世代には自己破産を薦め、破産したら生活保護をもらうよう指導している。
結局、国民の税金で尻拭いをさせる仕組みです。
信者は、生活保護をもらっても献金をする。こんなものは宗教じゃない」
「デビル」さんは、日本版の反セクト法を目標に活動を続けていくと、抱負を語った。