菅内閣が発足し、国家公安委員長を務めたこともある武田良太氏が新総務大臣に就任した。マイナンバーカードなど、行政運営の改善や情報通信をも担う総務省に、国家公安委員長経験者が配置されたと聞き、メディア統制がさらに進むのではないかという懸念が頭をよぎった。
一方、菅内閣の目玉として新設されたデジタル庁に就任した平井卓也氏は、安部前総理や自民党を、ややきわどい表現も許容しながらツイッターなどで支援するボランティアグループ、自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)の代表を務めた人物だ。
デジタル化を担う省庁にこの武田氏と平井氏を置くという菅内閣の配置には、どのような意味があるのか。菅内閣が力を入れるという「デジタル化」がどちらを向いているのかを注視する必要がある。IWJでは、武田大臣の就任後初会見で、「デジタル化」について質問すべく、取材に行ってきた。
2020年9月17日午前10時より、合同庁舎2号内総務省8階記者会見室で、武田良太新総務大臣の就任後初会見が開催された。大臣から最初の所信表明などはなく、すぐに質疑応答が始まった。まず、武田大臣は、新総務大臣としての抱負について問われ、以下のように回答した。
「非常に国民生活に密着した分野が多いということ、それから新たな国家像、そして社会構造を築く上で基盤となる政策が非常に多いということ、重要な任務というものをお預かりするわけであって、緊張感を持って望んで参りたい。そして、特に政策面においては、国民側からみてしっかりと一個一個検証していきたい。本当の意味で将来の国民生活にとって、国にとって正しい政策であるかどうか、そこを冷静に見分けるならば、しっかりとした問題解決の結果を出していきたい。このように思います」
また、新しい菅内閣の印象と、その中での自分の立場について問われると、武田大臣は、以下のように答えた。
「それぞれの役割、分野に対する、総務という指示もあることながら、(総理からは)我々一人一人に対してしっかりとした仕事をするようにということになると思います。
今、コロナ禍で、国民一人一人の心の中になんとなくどんよりしているものがあると思います。このどんよりした部分を払拭して、将来に、明かりが見出せるように一人一人がその分野、責任を持ってしっかりと仕事をするようにと、そういうことを言われておりますので、私もその指示に従って、しっかりとやっていきたいと思います」
「しっかりと仕事をする」「しっかりと」と、取り組む姿勢を強調しているのが印象的である。その他、菅内閣の看板政策の一つ、携帯電話料金の引き下げなどについても質問があった。短い会見なので、詳しくは動画をぜひご覧いただきたい。
IWJからは、「デジタル化」について質問した。定額給付金の問題など、コロナ禍で明らかになった日本の行政のデジタル化の遅れには暗澹とした人も多かったのではないだろうか。
IWJ「今日はデジタル行政についてお伺いしたいと思っております。コロナ禍が広がる中で、日本の行政のデジタル化の遅れということが強く言われました。今後どのようにお取り組みになっていくご予定でしょうか」
武田大臣「新たな成長分野であるということはご理解いただけると思いますし、とにかく我々から見ても、今の時代を考えていくのに行政に結構無駄が多いということにお気づきだと思います。行政の効率化を進める上でもこのデジタルというものをしっかりと掲げていくことが重要であろうと思います。なんともうしましても国民の利便性ですね、こうした分野に大変寄与するものでございます。これも積極的に私としては進めていきたいと考えます」
IWJ「利便性と同時に情報管理の問題があります。去年も神奈川県で個人情報が大量に流出するという、そうした行政の情報管理リテラシーの問題もあるかと思いますが」
武田大臣「もちろん。どんな分野に関してもいいことも悪いこともあるわけで。あるものを推進すれば負の部分も必ずついてくるわけですけれども、その負の部分というものをしっかりと、未然に防ぐ、そうした手立てを考えながらデジタル化というものは進めていかなければならない」
IWJ「負の部分と言いますと、もうひとつは情報統制の問題がございます。中国のような、強権的な情報統制をされていると聞く国もあるわけです。デジタル化が進むことによって、統制にどういう歯止めをかけて国民の権利を守っていくのか、あるいは報道の自由を守っていくかという問題があると思います。その点についてはどのようにお考えですか?」
武田大臣「個人のプライバシー、基本的人権、報道の自由、これは我が国で絶対守っていかなくてはならないわけでありまして、そこのところもしっかりとセーフティネットというのはやらなければならないと」
IWJ「そうですね、あと、、、」
武田大臣「みなさん、いろいろあるので」
という経過で、多くの記者も質問を待っている中、IWJの質問は十分にはできなかった。しかし、国家公安委員会委員長の経歴を持つ武田大臣が、メディアを統括する総務省に就いたことに不安を覚えている国民もいるはずである。
実は、今回の武田大臣会見の取材申し込み書には、「備考欄」があり、「※会見時に質問を予定されている場合はその内容を簡潔に記載ください」と注記があった。総務省で事前に質問を集め、会見に備えるというわけである。
IWJは「ローカル5G、スマート自治体化をどのくらい重視するか(政策の優先順位)」と記入して提出したが、その夜総務省から電話があり、「もう少し詳しく内容をお聞かせください」と質問された。コロナ禍で明らかになった日本の行政の不効率、デジタル化の遅れは大きな課題であり、今後運営に苦慮する地方自治体にとっても重要な課題であることなどを説明したが、本来は記者会見は自由にその場で質問してもいいはずである。
そして、実は取材当日も、会場にやや早めに着いたIWJ記者に、総務省スタッフが再度質問内容を確認し、「ローカル5Gとかスマート自治体という言葉ではなく、デジタル行政と言っていただけると、わかりやすいかと思います。デジタル行政は一丁目一番地ですから」、「二番目か三番目に当てますので」など、質問内容の再確認と用語、順番まで打ち合わせをすることになった。記者会見を効率的効果的に進めるための事前準備なのだろうが、そこまで「しっかりと」仕事をしていただかなくてもよいのに、と思わざるを得ない。
新しく設けられたデジタル庁に就任した平井デジタル改革担当大臣との役割分担も気になる。「国民の利便性」と「行政の効率化」といえば耳あたりは良い。しかし、デジタル化は、武田大臣もいうように「諸刃の剣」でもある。国家が主体となって個々人の情報を集めるのであれば、その情報管理や情報統制に対する法的な整備も必要だし、国民の間に信頼感が醸成されることも必要である。IWJも「しっかりと」総務省、デジタル庁の動きを見つめていきたい。