「日本は世界トップクラスの農薬大国である」――。この言葉には、多くの人々が疑問を持つかもしれない。なぜなら、あらゆる農作物について、「国内産のものは安全だ」という言説が、日本人の間で広範に流布されているからだ。
しかし、実はそうではない。OECDの調査によれば、単位面積あたりの農薬使用量は、米国やオーストラリアをおさえ、日本と韓国がダントツのトップなのである。
そして、この農薬使用量の多さと相関していると考えられるグラフがある。それが、発達障害の有病率を表したグラフだ。こちらも、日本と韓国がダントツのトップ。驚くべきことに、農薬の使用量と、発達障害の発生率は、関係している可能性が極めて高いのである。
近年、EUで、ミツバチの大量死の原因として、使用が禁止された農薬がある。それが、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムといった、ネオニコチノイド系農薬だ。
このネオニコチノイド系農薬が、ミツバチだけでなく、人体に対しても影響を及ぼす、特に発達障害の原因となるという説を提唱しているのが、環境脳神経科学情報センター代表で、『発達障害の原因とメカニズム:脳神経科学の視点から』を上梓した、黒田洋一郎氏である。
黒田氏は、ネオニコチノイド系農薬の残留基準値が、日本では欧米よりも極端に低い事例を紹介しつつ、増加する自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)やLD(学習障害)との関わりを説明した。
インタビューは、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏も加え、3時間を超える長丁場となった。TPPによって、日本でのさらなる使用が懸念されるネオニコチノイド系農薬の問題について、2015年4月18日、岩上安身が聞いた。
- 西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)/黒田洋一郎氏(環境脳神経科学情報センター代表)
- 日時 2015年4月18日(土)18:30~
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
増加する自閉症~原因は遺伝ではなく、環境にある
岩上安身(以下、岩上)「本日は、IWJではお馴染み、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道先生、それから環境脳神経科学情報センターの黒田洋一郎先生をお招きして、お話をうかがいます。今日は、かなり幅広いところまで、話題が及ぶのではないか、と思います。
まずは、黒田先生に、農薬が人体に及ぼす影響についておうかがいしたいと思います」
黒田洋一郎氏(以下、黒田・敬称略)「自閉症は、『スペクトラム』と言いますが、正常と正常ではない状態の線引が非常に難しいのです。現在、引きこもりの高齢化が問題となっていますが、それは、自閉症を放置してきたからですね。
自閉症スペクトラム障害やADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)などといった症状を持つ子どもが増えています。これらについては、これまで、『親の育て方が悪い』とか『遺伝だ』といったようなことが言われてきました。しかし、最近になってようやく、環境の問題だ、という話になってきました。
米国のカリフォルニア州で自閉症児が増えた、という調査があります。実数が数十年の間に増えたということは、原因が遺伝なのではなく、環境にある、ということですね。診断技術の進歩もありますが、ものすごい勢いで増えています。
自閉症やADHDというのは、シナプスの結合がうまくいかないことで発生します。神経細胞の情報伝達がうまくいかないのです」
岩上「ですから、外から侵入する化学物質に弱い、ということなんですね」
黒田「局所的なシナプスの異常は微小すぎるので、発達障害は確定診断をすることが難しいのです。よって、医師により、診断にばらつきが生じます。ただ、発達障害になっても、早い段階からリハビリをすれば、治る可能性がある、と言われています」
PCB、ダイオキシン、そしてネオニコチノイド~発達障害を起こしうる化学物質の数々
岩上「農薬の環境への影響が最初に指摘されたのが、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』ですね」
黒田「日本は、それよりも早く、水俣病がありました」
岩上「今の若い世代は、水俣病を知らないんですよね。私たちの世代であれば、大々的に報じられていましたが」
黒田「発達障害を起こしうる化学物質として、まずは、環境化学物質。それから、有機水銀、鉛などの重金属。PCB、ダイオキシンなどの有機塩素化合物、ネオニコチノイドなどの農薬があります。そして、喫煙です。
PCBは飼用動物用なので、食物連鎖で濃縮されていくのです。マグロのトロなんかは注意しなければいけません。放射性物質と似ています。今は、北極グマも汚染されています。PCBが使用中止になっている20代からも検出されています」
岩上「3.11以降、被曝問題への関心が高まっています。他方、被曝については詳しくても、PCBの問題は知らない、ということも起こり得るんですよね。人体の問題なのですから、これは原発というシングルイシューではなく、マルチイシューですよね」
黒田「化学毒性物質は、母体から簡単に胎児に入ります。この時期は、胎児の脳神経系の発達において、神経細胞の分裂増殖がピークを迎え、シナプスがよく形成される時期です」
西尾正道氏(以下、西尾・敬称略)「放射線と同じで、この時期が一番感受性が強いんですよね」
岩上「どういうことに気をつければよいのでしょうか。タバコはもちろんダメですね」
黒田「厚生労働省の発表によると、金目鯛が危ない、ということでした。もちろん、農薬はすべてダメです。無農薬の有機野菜をオススメします。
朝日新聞が以前、有機リン農薬を低濃度でも摂取した子どもは、ADHDになりやすい、という記事を出しました。これは、ハーバード大学が発表した研究結果です」
西尾「ネオニコチノイド系の記事も、米国が発表して日本が記事にしますよね。ネオニコチノイドは浸透性なので、洗っても落ちません。個人レベルの話ではないのです。社会レベルの問題ですよね」
岩上「このことは、皆さんに関心を持っていただきたいですね」
黒田「2012年、米国の小児科学会が、農薬曝露によるADHDなど発達障害の危険性について、公式見解を発表しました。子どもに対するジェノサイド、””Pesticide””だ、というわけです。
サリンは有機リンです。第2次世界大戦後、サリンが余ったものですから、これを虫を殺すために使おう、というものです」
西尾「抗がん剤の歴史も、マスタードガスから始まっています。『クスリはリスク』なのです」 岩上「単位面積あたりの農薬使用量は、圧倒的に日本と韓国が高いんですよね。それと、自閉症・広汎性発達障害の有病率が、ぴったり相関しているんですね。これは、本当に驚きです」
黒田「偶然の一致とは思えない。因果関係がありますよね」
岩上「地産地消ですとか、国内産のものは大丈夫だとか言いますが、農薬を使っている限り、非常にリスクがある、というわけですよね。有機でない限り、西日本や九州で作っていたら大丈夫、というわけではないですね」
西尾「内モンゴルに行くと、アトピーの人はいないそうです」
岩上「黒田先生が論文に書かれていますが、米国のアーミッシュには、自閉症の発症率が米国人の平均の十分の一だそうですね」
西尾「病気というのは、文明との関係で作られるんですね」
黒田「農薬の毒性の多くは遅発性です。何年も経ってから症状が出てくるので、農薬によるものだということが、分かりにくいのです。因果関係も証明しにくい。これが、農薬の毒性が社会問題化しにくい理由です」
西尾「ネオニコチノイドでも放射性物質でも、一番影響を与えるのは生殖です」
黒田「佐渡のトキも、ネオニコチノイドを除去したら、孵化が始まった、という話があります」
黒田「ネオニコチノイドは、タバコのニコチンと同様の毒性を持っています。浸透性があり、実や葉の内部に残留し、洗っても落ちません。無味無臭で拡散性が高いのです」
西尾「虫がつかないものを人間が食べている、ということですね」
黒田「近年のミツバチ大量死は、ネオニコチノイドなど農薬汚染によるものです。働き蜂にネオニコチノイドを投与すると、方向感覚を失うなど行動異常を起こし、巣に帰らないため、女王蜂を育てられないのです。生殖に影響する、ということですね」
ネオニコチノイド系農薬を販売し続ける住友化学
TPPで拡大が懸念されるネオニコチノイド系農薬 「農薬大国・日本」で、これだけある発達障害との関連性~岩上安身による 西尾正道氏・黒田洋一郎氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/242962 … @iwakamiyasumi
複合汚染が新たな『沈黙の春』を作り出している。
https://twitter.com/55kurosuke/status/589707028660027392
「ネオニコチノイド系農薬を販売し続ける住友化学」の項目の中で、黒田さんが「日本のネオニコチノイドの農薬残留基準は、極めて低いのです。例えばイチゴでは、米国は0.6ppm、EUは0.5ppmなのに、日本は3ppmです。台湾は、日本の農産品は農薬まみれだということで、日本に食品を返したそうです。」
とお話になっていますが、日本の農薬残留基準は、極めて低いというのは、「高い」というべきであり、イチゴの基準は、EUは0.5ppmではなく「0.01ppm」とするデータもあります。いかがでしょうか。
農薬の危険性についてお取組みいただき、ありがとうございます。
<黒田氏は、ネオニコチノイド系農薬の残留基準値が、日本では欧米よりも極端に低い事例を紹介しつつ、増加する自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)やLD(学習障害)との関わりを説明した。> についての疑問です。
日本の残留基準値が高いというなら問題ですが、低いならば摂取量も低くなるのではないのでしょうか。