「安倍総理の会見をみて、理を情で流していこうというのがはっきりわかって嫌な気持ちになった」
第10回目となる「集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会」が5月28日、参議院議員会館で開かれた。この日、講師として迎えられたのは東京新聞論説委員兼編集委員の半田滋氏だ。
半田氏は安倍総理が会見で「紛争国から逃れようとする母子の絵が書かれたパネル」などを使って集団的自衛権の必要性を訴えたことを、「首相が情に訴えかけて国のかたちを変えるのはいかがなものか」と批判し、安倍総理の用いるロジックが適切かどうか、一つひとつの事例を検証した。
- 講演 「日本は戦争をするのか―集団的自衛権と自衛隊」 半田滋氏(東京新聞論説委員兼編集委員)
ダッカ日航機ハイジャックのときの政府対応
半田氏は安倍総理会見をみて、まず、2013年1月に行われた自民党内の「憲法改正推進本部」における安倍総理の発言を思い出したと振り返る。
この中で安倍総理は、「憲法の問題点」として、1977年のバングラデシュ・ダッカで発生した日航機ハイジャックにおいて、日本政府が、日本赤軍の要求に応じて服役囚を釈放したことに触れ、「憲法に抵触するために警察や自衛隊による救出作戦ができず、テロリストに屈したと世界から非難された」と説明した。同時に、北朝鮮による拉致事件を挙げ、「こういう憲法でなければ横田めぐみさんを守れたかもしれない」と話したという。
これについて半田氏は、「ハイジャック事件は世界中の国々が同じような被害にあったが、同じような対応しかできなかった」と反論。「唯一対応できたのが、西ドイツ。ミュンヘン五輪でイスラエル選手団が拉致され、殺害された反省から、国境警備隊の中に『GSG9』という特殊部隊を作って、ハイジャック事件に備えていたからだ。それ以外は、多かれ少なかれ犯人の要求に従ったりしなければならなかった」と解説した。
その上で半田氏は、「今、日本には『SAT(警察の特殊急襲部隊)』がある。これは90年代になってからできた。事件が77年なので、どうにもしようがない。しかしそれでも政府は、多少の犠牲を覚悟すれば強攻策を取ることもできた。だが福田康夫総理は、人命を優先させた。つまり憲法の問題ではなく、警察制度の問題、あるいは政策判断の問題だった。ここで憲法が悪者にされてはかなわない」と反駁した。
軍がある韓国は拉致被害を防げたか
では、安倍総理の言うように、憲法次第では、横田めぐみさんを守ることができたといえるのだろうか。
半田氏は、「日本には平和憲法があって、自衛隊はいるが軍隊はない。そんな日本には20名近く拉致被害者がいる。しかし、日本とは異なる憲法を持ち、軍隊まで持っている韓国には、500名近い拉致被害者がいる」と比較し、「憲法のせいで拉致被害者がいるわけではない。これは犯罪だ。軍隊を出して対応するのではなく、犯罪として警察が対応する、もしくは国の政治が外交手段で向きあうことが必要なことで、これも憲法ではない」と、安倍総理の主張に異を唱えた。
集団的自衛権行使以前に何もしなかった政府
今回、安倍総理は、紛争地の邦人保護のためにも集団的自衛権の行使が必要だ、としているが、では、これまで日本はそうした場合に、どのような対応をとってきたのか。半田氏は、「イラン・イラク戦争では、テヘランに200名近い日本人が取り残された」と当時を振り返る。
「当時、イラクのフセイン大統領は、すべての航空機を撃墜する、と言っていた。日本政府もなんとかしようと動いたが、国内で飛行機を探している間に、トルコ政府がトルコ航空機を2機、無料で派遣し、日本人を救出した」
さらに、「湾岸戦争でも日本人が多く取り残されそうになったが、この時は日本の民間団体が航空機をチャーターし、約3000名の日本人を救出した」と続け、「これまで日本政府は特段のことはしていない。こう考えても、今までどんな努力をしてきたのか。これまで、そうした実績もないのに『(憲法のせいで)できないんです』とは言われたくない」と断じた。
朝鮮半島有事は想定されていた
安倍総理は5月28日の衆院予算委員会での集中審議で、朝鮮半島有事を念頭にした米艦船について、仮に日本人が乗っていなくても護衛する、との考えを示した。ここにも矛盾がある。
北朝鮮は93年、核兵器不拡散条約(NPT)脱退を表明し、核開発を進めようとした。米国はこれを許さず、北朝鮮の核開発施設空爆を計画した。これが現実になれば、第二次朝鮮戦争勃発は避けられない。となれば、日本にも飛び火するかもしれない――。
当時官邸は、万一の有事を想定し、防衛庁や警察庁を集め、何が起こりえるか、そのための対策はどういったものか、検討させた。このとき防衛庁は、「弾道ミサイルの飛来」などとともに、「韓国にいる約3万人の日本人が取り残される」という可能性も想定した。
「防衛庁統合幕僚会議(現・防衛省統合幕僚監部)は、『情勢が緊迫していて、紛争が起こるという状況で、日本人が残っているわけがない』として、2万人は自力で脱出する、と推計した。そして、残る1万人をどうするかを検討した結果、自衛隊の輸送機やヘリ、輸送艦を使って、ソウルと釜山、仁川の空港や港湾から4日で1万人を救助できる、とシミュレーションした。米軍の力も民間船舶の力も必要としていない。それどころか、在韓米軍の家族を数百人、一緒に運んでくるとまで言っている」
半田氏はこのように述べ、「20年以上前にこんなレポートができている。作れといったのは官邸だが、安倍総理はそれを知らないのか。知らないなら不勉強だし、知っていて手段がないかのような説明するのは、嘘をついているということになる」と糾弾した。
警察権で対応できるグレーゾーン事態
米艦の邦人移送は騙し絵のネタでしかない。
2014/05/28 半田滋氏「安倍総理は不勉強か嘘つきか」。朝鮮半島有事に自力で邦人と在韓米軍家族を救出するプランが20年前から存在した!? http://iwj.co.jp/wj/open/archives/142292 …