弁護士で、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏は、11月16日、大阪・西天満の大阪弁護士会館で開かれたシンポジウム「集団的自衛権について考える」で、「9条の下で自衛隊の海外派遣が可能になったら、日本の憲法は米英のそれと変わりないものになる」とコメント。改憲を掲げている安倍政権に対しては、「集団的自衛権の行使が『時代の要請に即している』と本気で信じているのなら、憲法解釈の変更という楽な道を選ぶべきではない」と提言した。
(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)
弁護士で、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏は、11月16日、大阪・西天満の大阪弁護士会館で開かれたシンポジウム「集団的自衛権について考える」で、「9条の下で自衛隊の海外派遣が可能になったら、日本の憲法は米英のそれと変わりないものになる」とコメント。改憲を掲げている安倍政権に対しては、「集団的自衛権の行使が『時代の要請に即している』と本気で信じているのなら、憲法解釈の変更という楽な道を選ぶべきではない」と提言した。
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主催者(大阪弁護士会)側のあいさつなどに続いて登壇した阪田氏は、まず、「内閣法制局」について説明。「法制局の仕事内容は2つに大別され、1つは法令案の審査、もう1つは法律の問題で内閣に意見を言うこと」と述べ、「仕事の量では前者が多いが、注目すべきは後者」と指摘した。
いわゆる法律には、民法は法務省、建築基準法は国交省といった具合にそれぞれに担当省庁があるが、「憲法については、各省庁の勝手な解釈は許されず、内閣によって一元管理されねばならない」とし、「だからこそ、内閣に意見を言うことが仕事の法制局が関わるのは、憲法関係の問題がメインになる」。
そして、「法令はいったん施行されると、裁判所で違憲と認められない限り、合憲ということで使われ続ける」と語った阪田氏は、「立法プロセスの中核を担う政府は、憲法に適応する法案を国会に提出しなければならない」と強調。その時々の政府は「憲法」を正しく理解・解釈できる能力を備えていなければならないとし、「法制局は、内閣がやりたい施策が実現されるよう、知恵を絞って最大限のサポートを行うが、あくまでも『憲法』の枠組み内でのことだ」と力を込めた。
「自衛隊は合憲である」と「海外で武力行使はできない」──。憲法9条に話が及ぶと阪田氏は、9条を巡る政府の解釈は、表裏の関係にあるこの2点だけと指摘。「そのうちの後者が、9条が国に掛けている唯一の縛りである、というのが政府の理解だ」とし、自衛隊がなぜ「合憲」なのかについては、次のように説明した。
「着目すべきは憲法13条で、そこでは『生命、自由および幸福追求への国民の権利』を保障している。つまり、外国軍が日本に攻め入ってきて、国民の生命が脅かされた場合は、主権国家として指をくわえているわけにはいかない、ということで、外からの武力行使を排除できるだけの必要最小限の実力を持ち、必要最小限の範囲で実力を行使することは、9条の下でも認められる。それが自衛隊を合憲とする根拠だ」。
一方で阪田氏は「自衛隊は有事の際に国民を守るための組織である以上、わが国がどこからも攻められていない時に、実力を行使することはできない」とも話し、自衛隊は、長距離ミサイルや航空母艦など、外国を攻めるためにしか使えないような武器の所有もできないことを強調した。
そして、「18世紀、ナポレオンが活躍していた時代までは、戦争は国家の権利だった。だが、20世紀に入ると『基本的に戦争はいけない』というのが世界の常識になってきた」と続けた阪田氏は、2つだけ国際法で許される「例外」があるとし、「ひとつは集団的自衛権の行使で、もうひとつは国連の安保理決議に基づく制裁戦争だ」と述べた。
阪田氏は「憲法98条には『国際法は守らねばならない』と書かれている。それは、日本は国際法に反する戦争はできないという意味だ。9条がなくても、わが国は国際法で認められている戦争しかできないということ」と説明した。
その上で、「仮に、日本に集団的自衛権の行使が認められるとなれば、『9条には一体、何が書いてある?』ということになってしまう。米英も中国も、そしてロシアも、国際法に違反する戦争はできない。できるとしたら、繰り返すが、集団的自衛権の行使と、もうひとつは国連の安保理決議に基づく制裁戦争だけ」と言及。「日本の憲法は『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』の3つの基本原理の上に成り立っている。集団的自衛権の行使を認めるとなると、日本の憲法は、米英のそれと何ら変わらなくなる」と強調した。日本国憲法ならではの「平和主義」が無視されるとの趣旨だ。
「もしかしたら、従来の『一国平和主義』的な考え方は、時代にそぐわなくなってきているのかもしれない。だが、法律が時代に合わなくなったからといって、政府が勝手にその『解釈』を変えて運用すればいい、ということにはならない」。
阪田氏は「憲法が本当に時流に見合わなくなっているのなら、憲法の改正が必要」と説く。「集団的自衛権の行使は、日本にとって非常に重大なテーマ。仮に行使が認められるとなれば、国民は、それ相応の覚悟を持たねばならない。よって、政府が国民に覚悟の有無を問う意味でも、正当な手続きを踏んだ上での『国民投票』の実施が大前提となる。『憲法解釈』で、ことを推し進めてしまおうというのは、政治の怠慢だと思う」。