「集団的自衛権発動の歴史は、大国による小国への軍事侵攻であり、国際社会の平和と安全を阻害するもの。こういう負の歴史を学ばずに、集団的自衛権行使を認めるなど、意味がない」──。
2013年7月1日(月)18時から、東京都千代田区の弁護士会館で、自民党の憲法改正草案に「反対」を唱える弁護士らによる勉強会「憲法『改正』問題の根底にあるもの ~安倍・橋下発言にみる歴史認識の危うさについて考える~」が行われた。スピーカーとして招かれたのは、憲法学者の山内敏弘氏(一橋大学名誉教授)と歴史学者の吉見義明氏(中央大学教授)。それぞれ、歴史認識問題を背景とする改憲の動きと、安倍首相や橋下大阪市長の発言の危険性を分析した。
- 講演Ⅰ 山内敏弘氏(龍谷大学 教授、憲法学)「歴史認識問題を背景とする改憲の動き」
- 講演Ⅱ 吉見義明氏(中央大学 教授、歴史学)「安倍・橋下発言にみられる歴史認識の危うさ」
- 意見交換(中継には含まれません)
- 日時 2013年7月1日(月)
- 場所 弁護士会館(東京都千代田区)
- 主催 憲法と歴史を考える弁護士有志の会(仮称)
負の歴史から学ぶべき
山内敏弘氏は「過去に眼を閉ざす者たちの、改憲案を批判する」と、ヴァイツゼッカー元独大統領の言葉(過去に眼を閉ざす者は、未来に対しても盲目となる)を借りて言明し、「自民党の改憲草案と、それを支持する同党員は、2つの点で過去に目を閉ざしている」と指摘した。「過去に日本が犯した侵略戦争への、真摯な反省をしていない。もうひとつは、世界の憲法の、近現代の発展の歴史を正しく認識していない」。
「自民党改憲草案は、明治憲法的なものへの回帰と言えよう」。このように述べた上で、山内氏は、草案の9条の部分に言及。「国防軍の保持の明記や、同盟国が攻撃された折に、日本が攻撃されていなくても反撃できる『集団的自衛権行使の憲法的認知』などを柱にした改憲で、日本を、戦争が可能な国家に変えようとしている」との見方を示した。
「集団的自衛権発動の歴史を振り返ると、その多くはベトナム戦争に代表される、大国による小国への軍事侵攻であり、国際社会にとっては、平和と安全を阻害するものだった」。
山内氏は、こうした負の歴史を学ばずに、集団的自衛権行使を認めることなど意味がない、と力説した。「草案には『国防軍は任務を遂行する際は国会の承認などに服する』とあり、この文言にシビリアンコントロールの意味を持たせているようだが、米独の憲法では『議会が戦争宣言をする』とまで明記されている」。
正しい歴史認識があれば、憲法前文をいじらないはず
また、草案では、緊急事態条項が導入されている。これについて、自民党が「東日本大震災を教訓にした」と説明していることに対し、山内氏は、「多くの憲法学者は『震災便乗型改憲論』と批判している。東日本大震災からの復旧・復興が未だ途上なのは、現行憲法に緊急事態条項が不在だからではない。政府の対応が十分でなかったのが原因だ」と牽制した。
そして、「自民党が、ドイツ憲法の緊急事態条項をきちんと勉強したとは、とても思えない。緊急事態の概念が極めて包括的で、『その他法律で定める緊急事態』という漠然とした記述もある」と指摘。草案では、緊急政令を政府の独断で発することができるとされているが、「これは、明治憲法の緊急勅令に準じたものだ。ドイツ憲法は、かつてのワイマール憲法(=行政独裁)への反省を踏まえており、たとえ緊急事態でも、行政権が立法に代わる緊急政令を発することを、基本的には認めていない」。
「自民党の改憲草案を作った人たちの歴史認識には、根本的問題がある。石破幹事長らは『国防軍を保持したからといって、日本は、すぐに戦争するわけではない』と主張しているが、信用できない」。
山口氏は、現行憲法の前文にある「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意し──」といった、過去の侵略戦争を二度と起こさないための憲法であることを表す一文が、自民党草案では削除されている点を大いに問題視。「正しい歴史認識があれば、あの一文を削除しない」と力を込めた。
「押し付けられた戦後体制」という認識
一方、吉見義明氏は「(安倍首相や橋下大阪市長は)韓国や中国に対して強硬な態度を示すことで、国内支持を集めようとしているのではないか」と述べ、安倍晋三氏の価値観を読み解く議論を進めていった。
吉見氏は「戦後体制は、米国の占領軍に押しつけられたものであるため、全面的変更が必要、というのが安倍氏の本音だと思う。安倍氏は、『帝国日本』体制の継続の方が大事と考えているようだ」と説明。
現行憲法の前文を巡っては、「安倍氏は『敗戦国としての、連合国への侘び証文でしかない』と違和感を表明している。また、『日本国民の安全と生存は、諸外国に任せようという責任放棄が透けて見える』とも語っており、だから、北朝鮮による拉致が防げなかったという結論に至っているようだ。しかし、韓国は軍隊を持っているが、拉致を防げていない」と指摘した。
「明治維新以降、日本の庶民が一貫して自由・平和・民主主義を追求してきたことを、安倍氏はほとんど考慮していない」。このように断じた吉見氏は、「第二次世界大戦中の辛い思いから、日本の庶民は改めて、自由・平和・民主主義の大切さを学んでおり、その中から戦後民主主義が生まれているのに、安倍氏は、その辺の認識も欠いている」とも語った。
「安倍氏は『国際社会と価値観を共有する』と主張しているが、最近は、欧米からも批判を浴び、齟齬を来たしている。安倍氏の(現行憲法の制定は)日本にとって負の歴史でしかない、との認識も影響していると思う」。
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