「大飯原発の再稼働審査で、関西電力は地震規模(地震モーメント)を入倉式で算出した。一方、津波に対しては、武村式を使っている」──。小山英之氏は、関電が算出方法を都合良く使い分けていると指摘し、「地震動の算出も、日本の地震に特化した武村式ですべきだ」と主張した。
また、関西広域連合の避難計画(素案)のずさんな内容に、「避難計画を作ってみると、あまりにも難しすぎて、行政はお手上げの状態ではないだろうか。これを指摘して、再稼働を止めよう」という声が上がった。
2014年2月6日、大阪市北区にある大阪弁護士会館で、「大飯原発裁判と原子力防災などに関する報告・交流会」が行われた。美浜の会の小山英之氏が「地震動評価について」、原発なしで暮らしたい丹波の会の世話人、児玉正人氏からは「防災・避難計画について」のレクチャーがあり、その後、質疑応答と意見交換が行なわれた。
- 日時 2014年2月6日(木)
- 場所 大阪弁護士会館(大阪府大阪市)
地震動は入倉式、津波は武村式の二重基準
はじめに小山氏が登壇し、「原子力規制庁に、基準地震動を武村式で見直すように訴えてきた。なぜなら、地震動評価には、入倉(・三宅)式と武村式の2つの方式があるからだ」と述べ、大飯原発、高浜原発周辺の断層を記した地図を映した。
「再稼働審査にあたり、関電は、地震規模(地震モーメント)を入倉式で算出。一方、津波に対しては、武村式を使っている」と図を使いながら説明。大飯原発で問題になっている、FoAーFoB断層を例に挙げ、「入倉式と武村式では、基準地震動に4.7倍の違いが出るので、武村式も基準地震動に適用すべき、と原子力規制委員会に申し立てた」と述べた。
そのきっかけとして、小山氏は、昨年12月18日の大飯原発3・4号機の地震動の審査会合において、武村式での算出を示唆する「すべり量2.91m」を指摘した、小林勝安全規制管理官(原子力規制庁地震・津波安全対策担当)の発言を紹介した。
「ところが、1月29日の政府交渉で、原子力規制庁の御田俊一郎企画調査官は『原発に近接するFoAーFoB断層は、入倉式、武村式に限らず、さまざまな手法で評価する、という意味だ』と規制委員会の見解を主張し、必ずしも武村式を適用することではない、とした」。
「しかし、『さまざまな手法で評価する』とは、重要な発言だ」と小山氏は指摘した。
日本の地震で算出する武村式を
次に、小山氏は「入倉式は、世界中で起きた地震の平均値を根拠に計算する。武村式では、日本の地震を中心にした平均値を使う」とし、武村式での算出の正当性を説明した。
「武村式を適用すると、地震動は4.7倍に跳ね上がる。すると、現状では格納容器も破壊され、大破局になる」と警鐘を鳴らした。
質疑応答の中で、小山氏は「関電は、今のところノーコメントだ」「もし、この武村式で算出し直すと、すべての原子炉は廃炉になる」とした。また、入倉式と武村式の違いについて、「断層面積で地震モーメントを算出するのは同じだが、適用する地震モーメントが、世界の地震の平均値(入倉式)か、日本の地震(武村式)かの違い。日本の地震は、世界の地震より揺れが激しいのが特徴だ」と補足した。
グリーンアクションのアイリーン・美緒子・スミス氏は、「福島原発事故で、われわれは地震被害の怖さに気づいてしまった。事業者も、今までだったら、うやむやにできた検査が難しくなった」と感想を述べた。
リアリティのない関西広域連合の避難計画
続いて、防災・避難計画について、児玉氏が解説した。関西広域連合が進めている「関西防災・減災プラン」の検討のため、2014年1月10日に、平成25年度第1回関西広域防災計画策定委員会が開催された。そこで発表された避難計画の素案(原子力災害に係る広域避難ガイドライン)について、児玉氏は「関西広域連合の中で、避難計画が一番遅れている自治体は京都だ。人口と市町村の多さがその理由だが、これを3月末にまとめたいと言う。しかし、この計画がいかにずさんなものか」と断じた。
「まず、冬期の除雪の問題。幹線道路まで出るのは、住民の責任となる。そして、昨年の台風18号でわかったのが、基幹道路27号線の脆弱性。しかし、行政は複合災害を考えたくないという」。
「すべての人は、30キロ圏外に設置する避難中継所を通らないといけない。ここで、必要なスクリーニング、除染をして、バスで避難先までピストン輸送をするという。バスの確保の問題。運転手の被曝(1ミリシーベルト)の規制」。
「自家用車での避難となると、8万台の車と25万人のスクリーニング、除染をしなければならない。除染後の汚染水の貯蔵管理も必要だ」と述べ、このガイドラインの実現不可能な課題を列挙していった。
まともな避難計画ができるまで再稼働はさせるな
続いて児玉氏は、学校、保育所、幼稚園の避難計画について、「これらは別枠で策定しなくてはならない、と行政側は決めていたはずだが、すでに忘れられている。かつ、『その規定は削除してしまう』とも言っていた」と呆れた。
次に、避難行動要支援者の避難対策にも懸念を示し、避難所のスペースが1人3.3平方メートルで、避難所滞在は最大2ヵ月間とした避難計画の問題点を指摘した。
「学校・保育所・幼稚園・病院・介護施設・高齢者・障がい者など、支援が必要な避難対象者とその関係者は大勢いる。この人たちが、『避難計画がちゃんとできるまで、再稼働はするな』と声を上げることが、最大の砦になる」。
無理筋すぎて、行政もお手上げ?
さらに、「受け入れ側の自治体も住民も、問題を同じように受け止めなければならない。福島で今起きている強制帰還、自主避難者の切り捨ては、明日の我が身だ。そのためにも、3月末に発表される避難計画に、厳しく対応していかなくてはいけない」と訴えた。
続けて、広域連合策定委員会を傍聴した島田清子氏が報告を行い、「避難中継所の、具体的な場所は決まっていない」と懸念を表明した。また、避難先に想定されている神戸市の住民からは、「避難民を受け入れる住民側の準備や訓練も必要だ。しかし、受け入れ意識は低く、現状ではとても難しい」という意見が寄せられた。
また、「避難計画を作ってみると、あまりにも難しすぎて、行政はお手上げの状態ではないだろうか。これを指摘して、再稼働を止めよう」という声が上がった。