2013年2月24日(日)13時30分より、福島県いわき市にある生涯学習プラザで「命をどう守りますか? 被曝後のこれからを考える 西尾正道氏講演会」が開催された。北海道がんセンター院長の西尾正道氏は、放射線の全般的な知識や科学史を解説した上で、被曝に対するICRPやIAEAの指針、それに準ずる日本の行政、医療業界、原子力村のいう安全神話に対して、自分の研究と臨床経験、海外の医学・放射線分野の論文、チェルノブイリの疫学調査などを示しながら、批判を展開した。
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冒頭の挨拶で、いわき放射能市民測定室たらちね代表の織田好孝氏は「いわき市は線量が低いと思われているが、原発事故直後に放射性プルームが通過したことが判明した。検査態勢、医療体制の構築など、不安が多い」と述べた。続いて、司会者が西尾医師について、「1947年、函館市出身。札幌医科大学卒業後、国立病院機構北海道がんセンター勤務、院長を務める。がんの放射線治療の第一人者で、市民のためのがん治療の会の代表協力医でもある。著書も多数。福島県の健康リスク管理を批判し、被曝医療体制の再構築などを訴えている」と紹介した。
西尾氏は、放射線の基本知識から話し出し、自らの放射線医療の臨床経験を語った上で、「それでも、放射線防護や管理には、あまり興味がなかった。しかし、3.11以後の政府や福島県、医療機関などの対応を見て、放射線について何も知らない人々が指揮をしていることに呆れ返った。それで、持論を訴えるようになった」と、これまでの経緯を語った。
続けて、「先日、政府に要請文を提出した。避難した福島県民の他県での診療報酬の統一、エコー検査など検査結果の情報共有、すでにホールボディカウンターでは放射能は検出されないので、アルファ線、ベータ線も測定できる尿の検査体制を整備させるべき、少なくとも高汚染地域の住民は移住させるべき、という内容だ」と述べた。そして、「内部被曝にもっとも重要な、アルファ線、ベータ線に関しては、バイオアッセイ法(生体試料測定法)で測定できるのに、どこもやろうとしない。むしろ、国や専門機関は、それを避けているとしか思えない。発災当初はホールボディカウンター検査にも消極的で、検査値を読み取るソフトや、扱い方すらわかっていなかった」と話した。
西尾氏は「国が、年間20ミリシーベルトという放射線管理区域に等しい汚染地域に、今も住民を住まわせているのは、絶対おかしい。山下俊一医師は、県外医療機関に、被曝した福島県民の甲状腺検査をしないように、メールで指示までしている。広島のABCC(現在の放射線影響研究所)での疫学研究では、原爆爆心地の半径2キロ以上を調査していない。つまり、100ミリシーベルト以下の調査結果がないから、その影響はわからないのだ。それを、危険性は言えない、と御用学者や原発推進派は言い換えている」と批判した。
そして、「日本は、原子力産業を推進させるために、ICRPやIAEAの被曝基準を安全基準に適用しているが、最近の放射線影響研究所の研究では、広島・長崎の被爆者の追跡調査の結果、50%前後のがん死亡率の増加が見られた、と報告している」と話し、チェルノブイリの疫学調査や発がん率の追跡調査レポートをいくつか示して、「ICRPやIAEAは、年間100ミリシーベルト以下での、過剰発がんや先天障害のリスクを否定しているが、疑うべきだ」と主張した。
さらに、急性被曝と慢性被曝、低線量被曝の影響などを説明した西尾氏は、日本の政府はでたらめな対応をしているとし、「原発から排出される温排水は90ベクレル/キロと、国際法で決まっている。しかし、日本政府は原発事故から約1年間、その2倍以上の暫定基準値200ベクレル/キロで飲料水を流通させた。信じられない。現在、牛乳の基準値は50ベクレル/キロだが、子どもが毎日1本(200グラム)飲み続ければ、数年後に心電図に異常が出てもおかしくない数値だ」と憤った。また、1ミリシーベルトごとに小児白血病の増加を調べた論文、泊原発のある北海道泊村のがん死亡率が増加している事実、福島の甲状腺がん検査の実態などに言及した。
西尾氏は、行政、電力、医療、報道など、各分野のいい加減な対応について、「この国の、社会組織のでたらめさが、すべてに絡んでいる」とし、「電力も地産地消にすべき。原発をやりたかったら、国会議事堂の前か、東京湾にでも作ればいい」と話すと、会場から拍手がわき起こった。西尾氏は「おかしいと思うことには、まず、福島の人たち、当事者たちが声を上げてほしい」と、集まった人々へ呼びかけた。