2013年1月20日(日)13時30分より、東京都千代田区の中央大学駿河台記念館610号室で、「西尾正道氏講演会 放射線の人体への影響 ―甲状腺異常など内部被曝を中心に―」が行われた。西尾氏は、講演の中で、北海道の泊村のがん死亡率の多さに言及。泊村に位置する泊原子力発電所を稼働させる際に発生するトリチウムが原因ではないかと、指摘した。このトリチウムには、稼働に際して規制値はない。
(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)
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2013年1月20日(日)13時30分より、東京都千代田区の中央大学駿河台記念館610号室で、「西尾正道氏講演会 放射線の人体への影響 ―甲状腺異常など内部被曝を中心に―」が行われた。西尾氏は、講演の中で、北海道の泊村のがん死亡率の多さに言及。泊村に位置する泊原子力発電所を稼働させる際に発生するトリチウムが原因ではないかと、指摘した。このトリチウムには、稼働に際して規制値はない。
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冒頭、西尾氏が登壇し、まず自己紹介をした。「自分は変わり者だ。日本で一番、がん患者の治療、放射線治療をしたと自負している。福島第一原発の事故発災直後、以下のことをインターネットで提案した。原発から出た放射性物質の核種、線種情報の公開。原発復旧工事の作業員の確保と被曝管理。被曝移住者の家屋土地の国による買収とその後の支援、跡地の最終処理場への再利用。移住しない住民に対しては被曝線量の把握と管理。がん登録体制の確立(福島県は未登録制)などである。今、いろいろ言われている放射能の基準や規制値などは、原子力政策を進めるための物語にすぎない」と話した。
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西尾氏は続けて、日本の全般的ながん医療の発展とその推移を説明。切りすぎる外科医、抗がん剤に固執する内科医との闘い、放射線医療の臨床例などを語った。次に、「外部被曝と内部被曝を考える」のメインテーマに移った。「外部被曝は一瞬の通過。内部被曝は局所被曝が全身に集合したものなので、低線量でも健康障害は生じる」とし、放射線が遺伝子に損傷を与える仕組み、がんという病気の正体と発症の仕組みを、「たとえば、人には毎日5000個くらいのがん細胞が生まれ、免疫細胞が発症を防いでいる。そして1センチくらいのがん細胞になるのには10年ほどかかるので、今回の事故による被曝でも、その程度のタイムスパンを要すると思われる」などと説明した。
西尾氏は「現在、直接的な部分照射の放射線量と、内部被曝による全身の常態的な汚染の影響が混同されている。低線量被曝の場合は、長期間経過後の確率的影響になる。たとえば、放射線治療では1日2グレイx2回、3日間12グレイ照射する場合があるが、死ぬことはない」と話し、「それで、放射線防護体系はUNSCEAR(原子力・放射線に関する国連科学委員会)報告を科学的根拠にして、ICRP(国際放射線防護委員会)が防護の勧告を行い、IAEA(国際原子力機関)が防護・管理の具体的基準を設定、原爆被害の半分となる線量を目標として設定している。ABCCー放影研の疫学研究で、100ミリシーベルト以下では発ガン性はない、としているが、これはその被曝者の疫学研究がないためだ。また、がん以外の障害の研究を軽視、遺伝的影響や内部被曝を否定した研究である」と続けた。
西尾氏は「日本は医療被曝が多い。なぜなら医療被曝には上限が決まっていない。血管造影、CTなどのエックス線などの検査、治療でのがん発症リスク、子どもの白血病・脳腫瘍の増加など、医療被曝は軽視できない。また、文科省が2010年に発表した低線量被曝による原発労働者のがん発症率の追跡調査で、10ミリシーベルトの被曝(平均累積線量は13.3ミリシーベルトで10年以上の累積被曝によるリスクを計測)では、全がん死が4%、肝臓がん死が13%、肺がん死が8%増加した、という結果が出た。しかし、(その調査報告には)飲酒喫煙などの生活習慣の影響もある、という言い訳も忘れていない」などと話した。
さらに西尾氏は「ヨウ素が甲状腺に危険といわれているが、セシウムも全身に取りこまれ悪影響を与える。シジミチョウの放射線遺伝子障害を調査したら2~3世代あとに多く影響が見られた。また日本における原発作業員の、次世代への遺伝子異常も深刻。ICRP報告では100ミリシーベルト以下の被曝では胎児に異常は起きない、と発表しているが、チェルノブイリ事故直後の5ミリシーベルト以下の被曝でも、ダウン症の子どもが増加している」と述べ、「つまり、日本人はICRPの独断的見解を疑わずに従っている、とてもお人好しな民族なのだ。ICRPとIAEAの立場は原子力推進派。急性被曝、外部被曝モデルで基準値を設定している。しかし、チェルノブイリ事故から独自に立ち上がったECRR(欧州放射線リスク委員会)では、慢性被曝、内部被曝も考慮する。今後50年間の過剰発がん者数を、ICRPでは6158人としているが、ECRRは42万人と算出している」などと警告した。
西尾氏は、海洋汚染の実態、食品の汚染状況、甲状腺異常について、福島県立医大の山下俊一教授の発表したチェルノブイリ調査と福島でのデータ比較、検査機器の特性、放射線の種類の違いによる細胞への影響の違い、原子力政策の構造と欠陥、北海道の泊村のがん死亡率の突出とトリチウムの問題、焼却炉の周辺住民にがん死のリスクが高いというスペインで発表された論文や、被災地の復興問題など、多岐に渡って話をした。
さすが日本の放射線治療(局所照射による治療)の第一人者だけあって、放射線が人体の局所(全体ではなく)に与える影響についての解説はとても興味深かった。これまで内部被曝に関する講演は何度となく視聴したが、肥田舜太郎医師による解説とともに最も勉強になるものだった。
最後のオマケの「北海道の泊村の住民のガン死亡率が断トツに高いこと」、「有害物質を処理する焼却炉の周辺住民にはガン死のリスクが高いというスペインの論文が最近出たこと」、「(北九州市の瓦礫焼却の結果)福岡市の空間線量が今年の1月でも高いこと」など、新しい情報も大いに参考になった。