2015年成立の「安保法制」は違憲だとして、安保法制にもとづく自衛隊出動の差し止めを求める訴訟(差し止め訴訟)と、平和的生存権侵害等への賠償を求める国家賠償訴訟(国賠訴訟)が、日本各地で進められている。「安保法制違憲山梨訴訟」(2017年甲府地裁に提訴)は、国賠訴訟の一つである。
2023年4月7日、この「山梨訴訟」の控訴審の中で、著名な憲法学者である長谷部恭男早稲田大学教授の証人尋問が東京高裁で行われた。同日、長谷部教授と原告団、弁護団が、東京都千代田区の司法記者クラブで記者会見を行った。
- 埼玉訴訟控訴審判決言渡し、長谷部恭男教授証人尋問のお知らせ(安保法制違憲訴訟の会、2023年4月5日)
長谷部教授は2015年、安保法制の国会審議中、衆議院憲法審査会に自民党推薦で招致され、他の憲法学者2名と共に、集団的自衛権を認める安保法制法(案)は違憲だと証言。しかし結局、安保法制は強行採決により成立した。
会見で長谷部教授は、控訴審の証言について、「安保法制の前提となっている7.1閣議決定が、従来の確立した有権解釈であった『個別的自衛権のみが憲法の下では許される』という考え方を、全く論理的整合性もなく、しかも法的安定性を破壊する形で、『集団的自衛権行使が認められる』と変更したことの違憲性を強調した」と述べた。
そして長谷部教授が「もう一点強調した」のが、「違憲審査権の中心的役割は、立憲民主性という政治過程を守ること」である。
「安保問題は、代表民主制を通じて、最終的には政治部門が決定する」という考え方に対して、「国際的な憲法学の共通了解」として、「代表民主制で決められるのは、あくまで『理のある(reasonable)』選択肢の中から多数決でどれを取るかだ」と反論。「『理のある』範囲に入ってない選択肢が出された時」は、多数決でも「代表民主制の結論とはいえない」とした。そして、「『理のある』選択肢の範囲内に収まっているか否かを見張り、その範囲を守るのが、違憲審査制度の中心的役割」であり、「本件でも、その違憲審査制度の役割が期待されている」と強調したという。
長谷部教授の証言について、弁護団の棚橋桂介弁護士は、「憲法改正決定権、すなわち(国民が)憲法改正の手続きに参画する権利が、明白に侵害されている。それは選挙をやらないで国会議員が今の地位に居座るのと同じで、法的にはその通りだということを、憲法学の第一人者にしっかり証言いただいた意味は果てしなく重い。これで裁判所が無視するようなら、この国の司法は本当に終わりだ」と、強い憤りを見せながら語った。
会見について詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。