2022年1月12日、午前11時より、東京都新宿区の東京都庁記者クラブにて、「神宮外苑再開発計画の見直しを求めるオンライン署名団体による外国人観光客調査結果発表」の記者会見が行われた。
米国人経営コンサルタントのロッシェル・カップ氏、環境活動家の原マリアン氏、そして、インバウンド観光事業とCSR(企業の社会的責任)活動に長く携わる寺﨑直通氏の3名が登壇し、超高層ビルの建築による景観の破壊など、様々な問題が指摘されている「明治神宮外苑地区の再開発」について、特に「イチョウ並木の危機」に焦点を当てて活動報告等が行われた。
再開発により、西側のイチョウ並木から8mの近距離に、高さ20mの神宮球場が新設される予定であり、これにより、日差しにきらめく樹々の景観が失われる。また、地下40mに及ぶと言われる杭の施工がイチョウの根を傷つけ、水系が断たれることで、生育が阻害される恐れがある。
会見冒頭のあいさつの中で、カップ氏は次のように述べた。
カップ氏「銀杏並木に対する、本当に危機になっていることを考え、我々が去年の秋(11月中旬)にイチョウ並木を訪問している外国人観光客の意見を聴きましょうと考えました。皆さんご存知のように、外国人の観光客が日本の経済、東京の経済にとって、ますます重要なものになっていて、インバウンドの 観光客をどうやって引き寄せるか、そして、何が日本の、東京の魅力なのか、アピールの仕方がいろいろ考えられている時代です。
その中で、色んな日本の観光ガイド、そして、東京の観光ガイドのオンラインサイトなどには 必ず、『イチョウ並木』が東京の人気スポットとして紹介されています。(中略)そういった中で、我々のグループのボランティアが外国人の生の声を聞きました」
続いて、ボランティアとして、外国人の観光客の意見を聞いた原マリアン氏からの報告があった。
原氏「東京はすでに緑の少ない都市です。ますます暑くなる夏で皆さんが肌で感じているでしょう。12月に神宮外苑でトータルで121名の海外からの観光客に話しかけました。ほとんどの人たちはこの基本的なことをよくわかっています。
- 外国人観光客報告書(PDFを参照、3MB)
最初の反応は、まずびっくり。『ここで木を切る? え!? どうして?』そして、コメントを見るとよくわかります。少し例を出しますね。まずはオーストリアの方は、『世界にこのような場所をもっと必要です。そして、次はチェコの方、『破壊せずに保存すべき』、またカナダの方は『成木(なりき・せいぼく)は大切です』(※)。
- ※外国人観光客 全コメント All tourist comments(PDFを参照、0.8MB)
東京都がこの成木の大切さを無視しています。オリンピックの時に、新しいスタジアムを建設するために1500本の木がすでに伐採されたことを説明すると、聞いている方がますます驚きました。コメントは短くても長くても、みんなが木の大切さをよくわかっています」
原氏は、発言を次のように締めくくった。
「外国の人々は何を求めているでしょうか? (中略)根津や千駄木のような街。路地裏の可愛い猫カフェ。新宿の飲み屋、昭和の味。下北沢の古着屋などユニークなものを見て経験したい。ファンキーなものは建築家の図面から飛び出してくるものではない。神宮外苑は歴史のある場所ですが、この開発によって捨てられるものが多い。世界のみんなが私たちと同じ気持ちです。Don’t cut the trees. Please save the trees.ありがとうございました」
続いて、寺﨑氏が「観光資源」、そして「景観資源」という視点から、神宮外苑のイチョウ並木の大切さについて説明した。
寺﨑氏「我が国はもう世界に稀に見る観光資源に恵まれた国だと思うんですね。で、『観光大国』って、まず浮かぶのがフランスであり、スペインであり、イタリーである。こういった国と日本を比較しても、日本はまずは、気候。それから、文化。自然、食文化。この4つを兼ね備えた非常に稀な国であると。(中略)
インバウンドが初めてアウトバウンドを逆転したのが2015年なんですよね。それまでは、アウトバウンドが圧倒的に多かったけど、2015年にインバウンドが初めて逆転して、それからどんどん、今、コロナ前には、日本人のアウトバウンドが2000万人で、インバウンドは3200万人ぐらい。(中略)
旅行するのも、まあ、昔の日本人なんかそうでしたけど、まずは物、まずは買い物、爆買い。でも、最近はリピーターも増えたということもあるんですけど、『物から事(こと)』へ、何かを体験したい。目的意識をはっきり持って日本に行きたい。日本に来たら、どこで何をしたい。(中略)神宮のこのイチョウ並木で写真を撮りたい。インスタ映えした写真を撮りたい。(中略)
もちろんね、人々がそこで生活するわけですから、新しいものも取り入れていかなきゃいけない。でも、守るもの、守るべき伝統であったり、これも含めてね、総合的に考えていただかないといけないと思っています」
3人の発言の後、会見の前に、カップ氏ら3人の記名で小池東京都知事へ提出した「世界中から訪れる外国人観光客が称賛する東京のシンボル、貴重な景観資源である神宮外苑のイチョウ並木とその景観を守ってください」と題した要望書を、カップ氏が読み上げた。
最後にカップ氏は、日本のマスコミに向けて、次のように強く訴えた。
カップ氏「わざわざ神宮外野を完全に壊してしまう。意味があるのか? そこにどんな論理があるのか? 1年間声を上げても、誰も答えてません。(中略)こんなに問題が多くて、市民が怒っているものを、なぜ強行しているのか。それを私は知りたいです。
皆さん、マスコミとして、そういった質問を権力者に対して 聞いていただきたいのです。私が聞いても答えが出ないけど、皆さんがマスコミとしてそういう質問を問いかけたら、答えが出るかもしれない。世界の目もこの計画に向いています。皆さん、ぜひ、なぜこの計画が必要なのか、しつこく権力者に対して聞いていただきたいと思います」
会見の詳細はぜひ全編動画をご視聴ください。