「報道は、報道界の自律に任せるのが先進国の常識だ」 ~岩上安身によるインタビュー 第596回 ゲスト ジャーナリスト(元共同通信記者)浅野健一氏 2015.11.14

記事公開日:2015.11.16取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

※3月2日テキストを追加しました!

 高市早苗総務大臣が放送局の「電波停止」を堂々と口にし、それに大手メディアがほとんど反論できないほど、安倍政権によるメディアへの圧力・介入は強まっている。業界内で真っ当な「怒り」をあらわにしたのは、映画監督の是枝裕和氏や、鳥越俊太郎氏や岸井成格氏など、一部にとどまる(※)。日本人の報道の自由、表現の自由、そして知る権利は今、権力によって未曾有の危機にさらされている。

 「人権を守る放送法を引き合いに、番組内容に介入する菅官房長官自身が、放送法違反だ。自民党の人たちは『権力を縛るのが憲法』という認識がない。『憲法は国民を縛るもの』と思っている」

 2015年11月14日、東京都港区のIWJ事務所で、元共同通信記者の浅野健一氏をゲストに迎えて、岩上安身がインタビューを行った。前日にパリで同時多発テロが勃発したため、時折、テロ関連のニュースも挟みながら、権力に迎合する最近の日本のマスメディアについて縦横無尽に語っていった。

(※)岩上安身は2016年3月1日、是枝監督にインタビューを行った。また、青木理氏、大谷昭宏氏、金平茂紀氏、岸井成格氏、田原総一朗氏、鳥越俊太郎氏らテレビ放送関係者は2月29日、高市大臣の「電波停止」発言に抗議する記者会見を開催。IWJはその模様を中継した。

▲元共同通信記者・浅野健一氏(元・同志社大学教授)

 浅野氏は、共同通信のジャカルタ支局長時代に日本のODA批判を展開、在インドネシア日本大使によって同国から追放されたと語る。その後、共同通信を退職して同志社大学の教授となったが、2014年、異例の「定年延長拒否」を受けて、現在、同大に対して地位確認の訴訟を行っている。

 今年、多くの学者たちが反対を表明した安保法制について、「同志社大学のメディア学科は沈黙を通した」と浅野氏は嘆く。さらに、メディアの専門家が記者クラブ批判をしない理由を、「メディア研究者は、マスメディア出身者が多いからだ。新聞記者などの再就職先に大学教授のポストがある。逆に、大学プロパーの研究者はマスメディアの実体を知らない」と説明した。

 岩上安身が自民党のメディア・コントロールについて尋ねると、浅野氏は、2014年11月、衆議院の解散総選挙の前に、自民党の萩生田光一議員が、民放とNHKに公正中立な報道を要請する文書を突きつけた件に言及。「(自民党が大勝した)あの総選挙の投票率の低さは、安倍政権が危険な政治集団であることをメディアが隠したため、市民が危機感を抱かなかったからだ」と述べ、その萩生田議員が、今では政府のプレス担当である内閣官房副長官になったことを指摘した。

 安倍首相が、「来年の参院選で3分の2の議席を取ったら改憲する。緊急事態条項から始める」と発言していることから、岩上安身は、「来年夏の参院選まで、時間がない」と危惧。自民党改憲案の怖さが明らかにならないと、有権者には問題点がわからないとし、「改憲というと9条ばかりが取り沙汰されるが、それだけではありません。緊急事態条項で、基本的人権、国民主権も制約される。メディアがこれを伝えないと大変なことになる」と警鐘を鳴らした。

 浅野氏は、自民党が法律で縛ろうとするBPO(放送倫理・番組向上機構)が反撃に転じ、政府批判をしたことを評価した。さらに、日本の外務官僚によるドイツ紙「フランクフルター・アルゲマイネ」への侮辱事件、安倍首相の大手メディア幹部たちとの頻繁な会食、慰安婦報道問題などを俎上に乗せ、インタビューの内容は多岐に渡った。

記事目次

■イントロ

  • タイトル 岩上安身による元共同通信記者・浅野健一氏(元・同志社大学教授)インタビュー
  • 日時 2015年11月14日(土)13:00~14:30
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

日本も対岸の火事では済まない、パリ同時多発テロと非常事態宣言

岩上安身(以下、岩上)「今日は『安倍政権による言論弾圧の犯罪』など、浅野健一さんの著書からピックアップした話題を中心に、本日未明に起きた(現地時間11月13日)パリ同時多発テロ事件のニュースも挟みながら、お話をうかがいます。

 パリ中心部で、同時多発的に銃撃や爆発が起きました。なぜ、パリが狙われたんでしょう。パリのテロの場所は、軍事施設でも何でもない。立てこもった劇場に治安部隊が突入、犯人らを射殺しました。この動きは、今年1月のシャルリー・エブド事件を彷彿させます」

浅野健一氏(以下、浅野・敬称略)「フランスのオランド大統領は、非常事態宣言を出しましたね」

岩上「非常事態宣言、とても気になります。安倍政権でも、来年の参院選で3分の2の議席を取ったら改憲する、緊急事態条項から始めると明言しています。それに対し、共産党は国民連合政府を提案し、野党統一候補を立て、安保法制廃案と立憲主義を立て直すと訴えています。この件については、日本のすべての人たちが考えなければならない。与党3分の2議席を阻止できず、緊急事態条項が導入され、実際に発令されたら、言論の自由も集会・結社の自由もなくなってしまいます。しかし、民主党執行部は(野党共闘を)やる気はない(注・2015年11月14日当時の話。野党5党による野党共闘は2016年2月19日にスタートした)。むしろ、解党しようとしています」

浅野「時事通信は、世論調査で47%は野党統一候補を支持しない、と書いた。私は時事通信によく抗議します。オール沖縄のようなことができればいいのですが。民主党の動きも、今のタイミングで意図がわからない。民主党として、共産党・志位委員長の提案を議論すればいいのであって、解党したらそれもできません」

岩上「さて、パリのテロの第一報では153人が死亡と伝えられ、オランド大統領は国境を閉鎖しました。(国境検査をなくした)シェンゲン協定も一時停止。フランス公共ラジオは、実行犯が『アラー・アクバル(神は偉大なり)』と叫んだと報道しました。現在、ヨーロッパには多くの難民が流入しています。(このテロを契機に)さらに極右の国民戦線が勢いを増すのではないでしょうか。日常生活が機能停止し、地球全体が非常事態下になっていくような気がします」

浅野「9.11以降、『こういう時に誰が得をするか』を考えると、複雑な思いが頭を巡ります。すべての起点はパレスチナ問題、アフガン、イラク侵略を起こしたアメリカにある。そこを、もっと考えなければいけません」

岩上「ニューヨーク・タイムズはツイッターで、『IS支持者はカリフ国家がフランスを攻撃したと祝っている』と報じた。先般、ロシア航空機が墜落した時も、すぐにISが犯行声明を出し、当事者のロシアより先に米英が『事故ではなく爆撃された』と騒ぐ。もっと慎重に、ロシア側の解析を待ってからでもいいのではないか。報道が拙速なので、政治的意図があるのかと勘ぐってしまう。

 パリのテロも、シリア問題が要因だとしたら、なぜ、かつての宗主国フランスを狙うのか。なぜ、ISを空爆しているロシアのモスクワではないのか。西側に緊張感をもたらすためなのか。意図が読めません」

日本のODA批判で、インドネシアを追い出される

岩上「改めて浅野さんのプロフィールをご紹介します。1948年生まれ。慶応大学新聞研究所終了。共同通信社入社。本社社会部、ジャカルタ支局長を歴任。1994年に退社し、同志社大学大学院教授に。1996~1997年、同志社大学教職組合委員長。2002~2003年、英ウエストミンスター大学客員研究員。現在、京都地裁で、同志社大学大学院研究科社会学専攻博士課程教授としての地位係争中です」

浅野「1992年に、東ティモール問題、丸紅のマングローブ違法伐採など、日本のODAがいかにインドネシアの人権や環境を破壊しているかを書いたら、インドネシアから追放されました。当時、反日記者と言われていました。外国人記者で国外追放は初めてでしょう。後にインドネシアの外務大臣が、『枝村純郎大使(当時)が追放しろと言った』と教えてくれた。彼は『自分たちは浅野を愛している』と最後に送別会まで開いてくれたんです。

 日本に戻って、『日本は世界の敵になる』『出国命令』という本を出版したら、共同通信も追い出されそうになり、同志社大学の公募に受かって転職しました。採用してくれた同志社大学の懐の広さには感動しましたが」

安保法制に沈黙した同志社大学メディア学科の教員たち

岩上「同志社大学の学長選挙ですが、衆院特別委の中央公聴会で、安保法制に賛成を表明した村田晃嗣学長(法学部教授)を、松岡敬理工学部教授が破り、新学長に選出されました。そして村田氏について、同大教職員有志は『心から恥ずかしく思う』と批判しました。部外秘の同志社大学広報誌によると、この学長選挙の投票総数は796票(内白票24、無効3)、松岡氏429票、村田氏340票でした」

浅野「専任教員が700名ほどいて、90人くらいが村田氏を批判しました。同志社の学長選挙は過半数を取らなければならず、白票が多いと決まらない。1回で決まって、こんなに大差がつくことは珍しい。村田氏は、特定秘密保護法にも賛成しています。『第三文明』や公明党機関紙は、必ず『公明党が歯止めをかけた』と評価しますが、実際には、村田氏を公聴会公述人に推薦したのも公明党です」

岩上「今回、全国で1万人以上の学者の方々が、安保法制反対を表明しています。浅野さんは『同志社大学メディア学科は沈黙を貫く』と指摘。現在8人いる専任教員が、1人も安保法制批判や村田学長の国会供述に疑問の声を上げていない、と」

浅野「日本が戦争になった理由は、ジャーナリズムがなかったから。その反省から、戦後、日大、上智、同志社大に新聞学科を作り、東大、慶応に新聞研究所を作ったんです。かつて、同志社には城戸又一、和田洋一、山本明、鶴見俊輔などそうそうたる教授陣がいました。加藤登紀子さんの夫の藤本敏夫さんもいて、学生運動の中心でした。2015年7月25日、村田学長問題で緊急集会が行われたが、メディア学科の学生は1人しか見当たらなかった」

岩上「ほとんどの分野の教授陣が安保法制反対に立ち上がっているのに、日本マス・コミュニケーション学会(旧・日本新聞学会)の理事も、メディア研究者も沈黙。安倍自公ファッショ体制の下、公正中立を理由に批判をしないことは大問題ですね」

浅野「日本新聞学会も昔はリベラルの砦でしたが、6月の総会でも、この問題は議題にも上がりません。彼らは『一定の立場に立ってはいけないから』と弁明しています」

不可思議な定年延長拒否──浅野氏のせいで帯状疱疹を発症?

岩上「浅野さんが受けた『定年延長拒否』という不当解雇について説明します。同志社大は65歳定年を70歳まで延長できる制度がある。今まで定年延長拒否はほとんどないのですが、同僚教授らが浅野さんの定年延長をしないと決定した。理由は、浅野さんが授業で『御用学者』などの不適切な発言をしたからだ、と。さらに、『浅野氏がいることによる強いストレスから、突発性難聴、帯状疱疹を発症した』などの理由も挙げた。本当に病人がいるんですか」

浅野「授業で、帯状疱疹になったと話した人がいたらしい。しかし、普通、教室でそんなことを言うでしょうか」

岩上「委員会会議では、この不自然な提案を問題視せず、定年延長は否決された。提案したのは誰ですか」

浅野「小黒純さんという、三井物産、共同通信、龍谷大から2012年に同志社に移ってきた人。記者クラブの必要性も訴えています。小黒教授とメディア学科の竹内長武教授、佐伯順子教授、池田謙一教授の4人の連名で文書を提出。さらに、2013年7月、私が北朝鮮の朝鮮戦争休戦60周年記念式典に招待され、試験に立ち会わなかったことも罪状になっている。定年延長が否決されたのは、制度ができた1951年以来、初めてのことでした。裁判で、私の弁護人は弘中惇一郎さんです」

岩上「これは名誉毀損ですね。村田氏の向かっている方向や、多くのメディアと政府がタッグを組んでいること、それをメディアの専門家が批判しないのは大きな問題です。権力と報道と学とが一体になって、権力の下支えをしている現状です。ストレスや帯状疱疹などは、浅野さんとの因果関係がわからない。もう少しまともなことを言ってほしいですね。これは浅野さん個人の問題としてではなく、メディアを巡る状況を全体的な視点でとらえる意味で取り上げさせてもらいました。

 浅野さんには多くの著作があります。『安倍政権・言論弾圧の犯罪』では安倍政権に盲従・屈従するメディアを、『記者クラブ解体新書』では記者クラブを、それぞれ批判しています。なぜ、みんな記者クラブを擁護するのでしょうか」

浅野「記者クラブ問題を研究しているのは、私くらいです。メディア研究者はマスメディア出身者が多い。新聞社が、教授ポストを天下り先にしているからです。大学プロパーの研究者はマスメディアの実体を知らない。組合も興味を示さない。さらに、研究者はBPO委員や新聞社の審議会委員になり、マスメディアと癒着するので批判はしない。また、新聞社と仲良くなると、研究論文のための情報も集めやすいのです」

緊急事態条項で、反原発や反戦運動が弾圧される日が

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