【岩上安身の「ニュースのトリセツ」】JAは本当に日本の農業を守る気があるのか――日本農業新聞に掲載を拒否された「幻の原稿」を緊急アップ! 2015.9.15

記事公開日:2015.9.15 テキスト
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(岩上安身)

 6月12日付けの日本農業新聞「万象点描」のコーナーに掲載されるはずだった私のコラムが、同紙編集部から掲載を拒否された。編集部の方から依頼してきた私の署名原稿を正当な理由がなく、一方的に原稿をボツにされるのは、ジャーナリスト人生の中で初めてのことである。

 原稿のどこが問題で、どのように表現を変えたら妥協が成立するか、という話し合いももたれなかった(掲載拒否という結論だけが先に存在し、その後に、「一度会ってご説明を」などという話もあったが、すでに結論は出ており、単になだめすかすというだけの話でしかない)。日本農業新聞のこのような姿勢は、残念ながら、報道・言論の自由を理解していないものだと言わざるをえない。

 当該原稿は、TPPに反対しているはずのJAが、TPP推進の中核企業であるモンサント社製の除草剤・ラウンドアップを売っている矛盾を指摘するとともに、人体への悪影響が指摘されているネオニコチノイド系農薬の使用に関してJAが推奨している事実を指摘するものであった。

 日本農業新聞としては、母体であるJAが批判されることが好ましくなかったものだと思われる。しかし、そうであっても、報道・言論に携わる者としては、「やせ我慢」してでも、妥協してはならない一線があるはずである。

日本農業新聞に掲載拒否された「幻の原稿」を掲載

 以下、掲載拒否された「幻の原稿」を掲載する。

 JAに未来はあるのか。TPPの金融章では、協同組合・共済が、多国籍資本の不利益と見なされた場合に、それを破壊できる規定が盛り込まれると言われている。これは農業協同組合も、JAの共済も解体されることを意味する。

 しかし当のJAでは、米国でまさにTPA法案が提出間近という今年4月9日、万歳章会長が電撃的に辞任を発表した。山田正彦元農水相は私のインタビューで、「万歳会長が後任を決めずに8月まで留任することでJAは機能停止状態となり、TPPの反対運動が麻痺させられてしまった」と語った。

 山田氏によれば、辞任発表の2日前、万歳会長は官邸で安倍総理と会っている。万歳会長の辞任劇は、官邸による「TPP反対封じ込め」工作なのか。実際、JAが4月23日に予定していた大規模なTPP阻止大会は、この辞任劇によって白紙となった。山田氏は「農民はTPP反対の声をあげたくてもあげられなくなった」と危機感を露にした。

 TPPに入れば日本の家族農・自立農は消滅の危機に瀕するだろう。JAの指導層はそれでいいのだろうか?

 疑問に思うことがひとつある。

 今年3月、世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関が、米モンサントが開発した除草剤「ラウンドアップ」の主成分グリホサートに発がん性の恐れがあるとする報告書を公表した。これまで多くの国でその危険性が指摘され、規制の動きが強まっている。

 また、近年急速にその危険性が問題となっているのが、ネオニコチノイド系農薬だ。今年2月には米ハーバード大が、世界中で発生しているミツバチの失踪・消滅がネオニコチノイド系農薬に起因するものであることを突き止めた。EU諸国では規制が厳しく、2013年には欧州全域で3種が禁止となり、オランダでは全面禁止となった。

 日本ではこのネオニコチノイド系農薬の使用量が15年間で3倍に上昇。イチゴやリンゴ、ブドウやナシなど、手で掴んで食べる作物の基準は(作物によって)EUの2〜25倍、米国と比較しても2〜15倍の緩い基準値となっている。さらに厚労省は5月19日、ネオニコチノイド系農薬の食品残留基準を緩和した。クロチアニジンでは、ほうれん草で実に13倍も緩くなっている。

 こうした緩い基準のもと、JAでは、除草剤「ラウンドアップ」を主要品目と位置づけており、ネオニコチノイド系農薬についても推奨している。

 このラウンドアップを製造しているのはモンサントであり、日本においてネオニコチノイド系農薬を販売しているのは住友化学である。この両社は、ともに日米においてTPP推進の旗振り役筆頭である。JAの首を締めることになるTPP推進の企業の商品を、JAが一生懸命売って応援しているのはなぜなのか。不思議でならない。

 この原稿で私が問題にしている論点は3つある。一つ目は、山田正彦元農水相が私に語った、万歳章JA会長の辞任のタイミングについて。原稿にも書いたように、万歳会長は首相官邸で安倍総理と会った直後のタイミングで辞任を表明している。このことにより、JAによるTPP反対の動きが鈍化したことは確かだ。

▲山田正彦元農水相

 二つ目が、モンサント社製の除草剤「ランドアップ」をJAが主要品目として位置づけているという点。三つ目が、ミツバチや人体への影響が指摘されているネオニコチノイド系農薬を、JAが推奨しているという点である。しかも、このネオニコチノイド系農薬を国内で生産・販売している業者は、これもまたTPP参加推進の旗振り役、米倉弘昌・前経団連会長が代表取締役会長をつとめる住友化学なのである。

 この原稿が「掲載拒否」になった理由として、日本農業新聞は2回にわたり、「説明文」を送付してきた。以下、順番に紹介する。

日本農業新聞の「言い分」とは

 まず、1通目の「説明文」である。6月12日、「日本農業新聞ニュースセンター長 山田浩範」氏の名義で届いた。

岩上安身さま

2015年6月12日
日本農業新聞ニュースセンター部長 山田浩範

 岩上さまの「万象点描」の原稿を掲載しなかったことにつきましては、誠に申し訳ありませんでした。掲載しない理由について、「掲載した場合の影響などを考え」としましたが、十分説明しなかったことを含め、お詫びいたします。編集局幹部と話し合って決めたものですが、「言論の自由への侵害」といった意図はありません。このことは、どうぞご理解ください。以下、掲載しなかった理由を説明します。

 「掲載した場合の影響」ですが、本紙の読者には「ラウンドアップ」や「ネオニコチノイド系農薬」を販売しているJA関係者、この農薬を使用している農業者がたくさんいます。ラウンドアップやネオニコチノイド系農薬は、いずれも国が使用を認めた登録農薬です。EUなどに比べて日本は「緩い基準」ですが、JA、農業者とも国の基準を守って使用しています。

 ラウンドアップ、ネオニコチノイド系農薬の危険性の程度については、いろいろな研究発表がありますが、まだ結論がでていないと考えております。そうした中、JA関係者や農業者が岩上さまの万象点描を読んだ場合、非常に強い反発があると考えました。岩上さまの万象点描を掲載した日本農業新聞の考え・姿勢も読者に説明する必要がありますが、国が販売・使用を認めている農薬について、岩上さまのように問題点を指摘するのは本紙としては難しいと判断しました。

 岩上さまが原稿で「モンサント」「住友化学」と具体的なメーカー名を挙げている点、「(TPPを推進する両社の)商品を、JAが一生懸命売って応援しているのはなぜなのか」との指摘も、掲載するのは相当厳しいと考えました。掲載した場合、日本農業新聞の事業全体、経営的に大きな影響があると考えました。

 以上が掲載しないと判断した大きな理由です。どうかご理解いただきますようお願い致します。

 自由な言論(事実にもとづかない、無責任で放埒な議論も許される、という意味ではない)の展開は、民主主義社会の基礎である。あまりにも当たり前のことではあるが、この原則は何度も確認されなくてはならない。

 日本農業新聞は、私の原稿をボツにした理由として、読者の中にラウンドアップやネオニコチノイド系農薬を使用している農業者がたくさんおり、この原稿を読んだ場合「非常に強い反発があると考えました」と説明している。

 しかし、私の文章は、事実にもとづく問題提起をしているのである。問題提起がなされ、反論を含めて議論が広まり、深まるというのは、民主主義のプロセスにおいて最も重要なことではないか。

 もちろん、販売しているJAの職員や、JAからすすめられて購入した農家の中には驚く人もいるかもしれない。しかし、ランドアップやネオニコチノイド系農薬の危険性や、それを販売して、TPP推進企業を儲けさせていながらTPP反対を掲げているJAの矛盾した姿勢は、一度は問いただしてしかるべきテーマのはずだ。モンサントやネオニコチノイド系農薬の危険性が指摘されていることは学者・研究者の研究成果の発表がある事実なのだから、そのことを消費者のみならず生産者であるコメ農家にも広く知らしめ、警鐘を鳴らすのがメディアとしての役割ではないだろうか。

 また、「JA、農業者とも国の基準を守って使用している」とあるが、その国の基準が適切でなかった場合はどうなるのか。国、つまり政府の官僚は万能でも無謬でもない。我々と変わらない、誤ちや判断のミスをおこすこともある普通の人間の集団である。

 そういう集団が、絶大な権力を握り、ミスやまちがい、不正の指摘などの批判に耳を傾けなかったら、国民は大きな災厄に見舞われる。誰の批判も受け付けず、軍部が暴走し、無能と無責任の戦争指導の果てに、アジア中の国々に迷惑をかけて自壊したのは、わずか70年前のことだ。あれはまさしく、軍事官僚の暴走だった。官僚機構は、放っておけば独善に陥りやすいのである。だからこそ、三権分立と、権力をチェックするメディアのはたす役割が重要なはずである。

 この原稿の趣旨は、国民の健康と安全を蔑ろにし、大企業の利益を優先させる国の姿勢に対しても疑問を呈するものである。「国の基準を守っている」から「大丈夫」という理屈では、あまりに説得力がない。

 そもそも大企業、とりわけモンサントのようなTPP推進企業の利益を優先する政策の集大成がTPPなのである。そのTPPに参加したら、大半の農家が営農を維持できなくなるとして、JAはTPPに反対しているはずなのだ。

 にもかかわらず、モンサントの売り上げにせっせと貢献するような販売活動をし、その販売利益を失いたくないために、モンサントへの批判の鉾先が鈍り、こうして原稿を握りつぶすようなことを行ってしまう。これでは本末転倒ではないか、と申し上げたい。

 私は自分の原稿をボツにされた個人的な恨みで、こんなことを書いているのではない。日本の農家を心配し、日本の生産者が作った安全な食べ物を食べたいと切実に願う消費者の声を代弁し、TPPへの反対を貫いてきたJAを応援する気持ちで書いてきたのであって、その意図がまったく汲み取られないことを非常に残念に思うのである。

 一担当者としての、個人的なメールではなく、日本農業新聞として、正式な見解を文書で送ってほしいと返信したところ、6月24日付けで送られてきたのが、以下の「説明文」である。これは編集部としての正式な見解であろうと思うので、以下、全文を掲載する。

岩上安身 様

2015年6月24日
日本農業新聞ニュースセンター部・山田浩範

 いつもお世話になっております。

 先日ご指摘を受けた点について、ご説明させていただきます。

 農薬や放射性物質を含む食の安全性について、消費者や識者の間でさまざまな意見があり、また見解の相違が見られますが、農薬が科学の成果の一つとして反収増による食料の安定供給、栽培の効率化・作業者の負担軽減などに寄与し、広く生産現場に活用されてきたのは紛れもない事実です。また、安全性の問題がしばしば風評被害を起こし、生産農家や産地に大きな打撃を与えるケースも近年多発しています。農業専門紙である弊紙にとって、農薬の安全性や環境評価のテーマは極めて「センシティブな問題」であることにまずご理解をいただきたいと思います。

 農薬の安全性については、国の登録農薬制度や残留農薬基準がスタンダードです。それをクリアしたものが「安全」か否かを問われれば、法的には「安全」であるとしか答えようがなく、また、GAPなどを含めて国の基準や規範を順守することが、農産物を消費者に供給する生産者の責務であるという考えで報道に当たっています。その基準の当否については科学的な知見に依る他はなく、弊紙が独自に踏み込むのは率直に申し上げて困難であります。

 ご指摘がありました、ネオニコチノイド系農薬がミツバチの生態系に影響を及ぼし、欧州で規制強化の動きがあること、また国内でも規制を強化するべきだとの意見があることは十分承知しています。弊紙もミツバチ問題に関しては、農薬とミツバチの関係を調べる農水省のミツバチ調査などを随時報道し、意図的に避けていることはありません。国際がん研究機関がラウンドアップの成分であるグリホサートに発がん性の恐れがあると公表したことも紙面に掲載しました。なお、この件については、農水省農薬対策室が「国内で使用できる農薬は、安全性が確認されたものが登録されている。定められた使用基準を守っていれば問題ない」との見解を示したことも併記し、評価が分かれている点にも言及しました。

 ミツバチ問題に対する岩上さんの問題提起を軽んじる考えは毛頭なく、また、ご指摘のあったモンサントと住友化学がTPPを推進する大企業であること、TPPに反対する全農やJAがラウンドアップを販売しているのは問題だとの批判が、インターネットなどで早くから出ていることも承知しています。しかしながら、掲載した場合に関係者からの強い抗議や制裁などが想定されるのに加えて、栽培に利用している読者農家から「一方的な主張だ」という反発も予想されます。署名コラムとはいえ、掲載すれば弊紙には編集責任があります。場合によっては、弊社の経営基盤を揺るがしかねない大きなリスクになりかねません。ご見解は重々尊重しますが、農薬の安全性に関する弊紙の編集方針のキャパシティーを超えているものと判断しました。

 TPPの危険性については、弊紙も岩上さんと同様の認識であり、今後ともこれを推進する安倍政権を厳しく追及していく姿勢に変わりはありません。専門紙としての限られた経営力、また農薬に対する固有の立場はありますが、できる限りの報道をしてまいる所存です。

 山田正彦氏に関連する記述についてのご質問がありましたが、率直に申し上げて、会長辞任の官邸陰謀説を語るには裏付けが不足していると感じました。また、萬歳章会長が辞任を表明した後も、福岡県や沖縄県、鹿児島県、北海道、秋田県などのJAグループが各地で大規模なTPP集会を開き、全中も5月19日に東京で1500人集会を開催し、引き続き反対運動に取り組んでいます。申し上げるまでもなく、JAグループは事業体であり、政治団体でも思想団体でもありません。それぞれに困難を抱える中で反権力のリスクを負いながら反対運動を続けている点につきまして、ご理解いただけますよう、お願い致します。TPP交渉が重大局面を迎える中で、決して多いとは言えない国内の反対勢力を分裂・弱体化させるのは、弊紙の本意ではありません。勇気あるジャーナリストとして尊敬する岩上さんに対し、このような判断にいたったことを大変残念に、また申し訳なく思っております。

 ここでも日本農業新聞は、「農薬の安全性については、国の登録農薬制度や残留農薬基準がスタンダードです。それをクリアしたものが『安全』か否かを問われれば、法的には『安全』であるとしか答えようがな」いと述べるなど、国の基準に対して独自の検証を加えることにおよび腰である。

 すでに述べてきた通り、国、政府は個人や企業と同様、過ちを犯すし、それどころか意図的に情報を隠蔽したりウソをもつく。無謬などではありえない。メディアが批判的なまなざしを失ったら、メディアの存在価値も意義もない。

妊婦や性ホルモンに甚大な影響~モンサント製「ラウンドアップ」の危険性

 まず、日本農業新聞が擁護するモンサント製の除草剤・ラウンドアップの危険性について見ていこう。ラウンドアップは、除草剤グリホサートの商品名である。「生分解性で環境に優しい」というふれこみで売り出されているが、その実態とはどのようなものだろうか。

 2000年のはじめ、フランス・ロスコフ生物学研究所のローベル・ベレ教授の研究チームが、ラウンドアップがウニの細胞に与える影響に関する研究を行った。その結果、既に海水はラウンドアップによる汚染が広がっていることが判明したのである。農地にまかれたラウンドアップが、地中から河川に流れ、海にまで注ぎ込まれているという。環境中で自然に生分解してゆくから環境に優しい、というのがふれこみだったのに、事実はまったく違うことが明らかになったのである。

 さらに、フランス産の食用野菜の分析サンプルのうち、49.5%が残留農薬を含んでいることが分かった。ランドアップによる汚染が、生分解されず、環境中に確実に広まっている事実が報告されているのである。

 また、カナダのカールトン大学による、オンタリオ州の農民家庭に関する研究では、妊娠3ヶ月前にラウンドアップを使用した場合、妊娠12週から19週にかけて流産するリスクが高まっていることが報告されている。他にも、テキサス工科大学の研究チームは、ライディッヒ細胞(睾丸内にある、生殖器の重要な働きをする細胞)がラウンドアップに曝された場合、性ホルモンの生産が94%も減少することを明らかにした。

 このように危険性のあるラウンドアップを販売することで利益をあげてきたモンサントとは、どのような企業なのだろうか。その実態は、「産業史上、最悪の公害企業」とまで酷評されているのである。

 モンサントの歴史は、第二次世界大戦中、米国を中心とする連合国によって行われた原子爆弾の開発・製造のための計画「マンハッタン計画」に参加したところまで遡る。軍需産業とは、この頃から強い結びつきをもっていた。

 強い毒性が日本でも問題となったPCB(ポリ塩化ビフェニル)の製造も行ってきた。PCBの製造は中止されたが、生産され、環境中に放出されたPCBは、地球全体に広がり、環境を汚染し続けている。

 ベトナム戦争時には、米軍が散布した「枯葉剤」を製造して莫大な利益をあげてきた。

 モンサントが兵器製造で利益をあげる一方で、ベトナムに大量にまかれたエージェント・オレンジと呼ばれる枯葉剤の被害は、今も続いている。代が替わっても、高い確率で障害を持った子供が生まれるなど、ベトナム人の苦しみはまだまだ終わりが見えない。アメリカは国家として正式に謝罪せず、補償もしていない。枯葉剤という化学兵器を生産したモンサント社も、素知らぬ顔で、補償には応じていない。

 ベトナム戦争の終結後、枯葉剤が売れなくなったモンサントは、その技術を民生品に転用し、1970年に除草剤のラウンドアップを開発。これが世界的なベストセラーとなった。核兵器と並ぶ非人道的な大量破壊兵器である化学兵器と、モンサントの主力商品である除草剤ラウンドアップは、技術的には実は紙一重のプロダクツなのである。

 ラウンドアップはその強力な殺傷力で植物を枯らしてしまう。モンサントはその次の一手として、ラウンドアップに耐性を持つ遺伝子組み換え作物の生産に着手した。強力な除草剤ラウンドアップと、そのラウンドアップに耐性をもつ(ラウンドアップレディ)遺伝子組み換え作物は、セット商品なのである。かくて、モンサント製の遺伝子組み換え作物は世界中に爆発的に拡散し、2007年には全世界で遺伝子組換え作物の耕作面積が1億ヘクタールに達した。

 これに対し、モンサントが生産する遺伝子組み換え作物の危険性を指摘する研究結果が、フランス・カーン大学のセラリー二教授によって発表されている。モンサントの遺伝子組み換えトウモロコシを実験用のラットに、通常の実験より長く、2年間かけて与えつづけたところ、メスのラットは乳房に腫瘍ができ、寿命が短縮するなどの症状が見られた。オスのラットの場合でも、肝臓や腎臓障害、寿命の短縮といった症状が見られたという。明らかに発ガン性が高まることが確認されたのである。

 このような公害企業・モンサントが米政府の規制をくぐり抜けて危険な製品を生産・販売できるのは、米国の政界に強力なパイプを有しているからである。1986年、当時副大統領の地位にあったジョージ・ブッシュ(父ブッシュ)に対し、モンサントはロビイング活動を行って、遺伝子組み換え作物への素早い規制緩和を求めた。

 父ブッシュは「私を頼ればいい。規制緩和が私の仕事。力になろうじゃないか」とモンサントへの後押しを約束し、その2週間後、遺伝子組み換え作物の試験栽培が開始された。このモンサントの幹部とブッシュとのやり取りは、たまたまAPがビデオを回していて撮影、その記録が生々しい形で残っている。

 2003年のイラク戦争の際、モンサントは共和党に121万ドル、民主党に32万ドルものロビー活動費を費やした。

 ちなみに、9.11後に、ブッシュ(息子)政権のもとで、イラク戦争をはじめとする「対テロ戦争」を主導したネオコンの代表格・ラムズフェルド元国防長官は、モンサント子会社の元CEOである。

 このように、世界中の人々の健康を脅かすラウンドアップや遺伝子組み換え作物を開発・製造・販売し、その過程で米国のネオコンとタッグを組んで米政界にまで深く食い込んできたのが、モンサントという企業なのである。そのモンサントが、諸手を上げて推進しているのが、TPPに他ならない。

 TPPに反対する以上、モンサントの「悪行」に対しても「No!」を突きつけるのが、当然ではないだろうか。日本ではほとんど報じられなかったが、2015年5月23日、米国、アフリカ、欧州にまたがる40カ国以上の約400都市で、「反モンサント」の大規模デモが行われた。

 TPP反対を掲げながら、除草剤ラウンドアップの使用を推奨し、モンサントに利益をもたらすような方針を取っているJAの矛盾した姿勢は、私には理解できない。

ネオニコチノイド系農薬が危険なこれだけの理由

 次が、日本農業新聞がラウンドアップとともに擁護するネオニコチノイド系農薬の問題である。ネオニコチノイド系農薬については、ハーバード大学の研究が明らかにしたミツバチへの影響だけでなく、人体への影響も指摘されている。

 私が4月18日にインタビューした環境脳神経科学情報センター代表で『発達障害の原因とメカニズム:脳神経科学の視点から』の著者である黒田洋一郎氏は、ネオニコチノイド系農薬が人間の発達障害の原因になる、と指摘する。

▲黒田洋一郎氏と西尾正道氏

 OECDの調査によれば、単位面積あたりの農薬使用量は、米国やオーストラリアをおさえて日本と韓国がダントツのトップである。そして、この農薬使用量の多さと相関しているのが、発達障害の多さを表したグラフだ。こちらも、日本と韓国がダントツのトップ。農薬の使用量と、発達障害の発生率は、関係している可能性が極めて高いのである。

▲単位面積当たりの農薬使用量と自閉症など発達障害の有病率

 ネオニコチノイド系農薬は、少量の散布で害虫駆除が可能であることから、世界中で使用が広まり、2011年時点で全世界で26億ドルもの売上をあげるほどになった。日本でも、水田での散布を中心に、ゴルフ場の芝の消毒、シロアリ駆除の他、ゴキブリ対策やペットのノミ・ダニ駆除にも利用されている。日本では、この15年間で使用量は3倍にも増加しているのである。

 2015年5月19日には、厚生労働省がネオニコチノイド系農薬(クロチアニジン、アセタミブリド)の基準を緩和した。クロチアニジンの場合、ほうれんそうでなんと従来の13倍もの基準に引き上げられた。このことにより、日本のネオニコチノイド系農薬の基準は、EUはもとより、農薬大国である米国と比較しても20倍以上も緩いものとなったのである。

 ネオニコチノイド系農薬による被害の実例は、すでに日本で報告されている。2013年6月、群馬県高崎市甘楽(かんら)町でネオニコチノイド系農薬チアクロプリドが空中散布された際、多くの子供が頭痛、吐き気、倦怠感、眩暈、不整脈、頻脈、手足の震えなどを訴え、地域の小児科に患者が殺到した。

 しかし、農水省はこの事態を受けても、「人や水生生物への影響などのバランスを考慮し、農薬の使用方法の変更が必要かどうかを検討中」として、ネオニコチノイド系農薬の規制は行わなかった。

 このようにネオニコチノイド系農薬は、人体に対して悪影響を及ぼす可能性が極めて高いにも関わらず、国がその規制を緩めているというのが実態である。そして、このネオニコチノイド系農薬を推進しているのが、モンサントの日本側パートナーである住友化学なのである。TPPに反対する日本農業新聞がやるべきことは、国の基準を無条件に信じることではなく、被害の実態や悪影響を指摘する研究者の声をまっさきに報じることではないだろうか。

味で優劣に大差なく、価格で圧倒的に差がついてしまった場合、競うとしたら安全性のはず

 TPPが合意に至ってしまえば、多少、時間の猶予が与えられたとしても、関税や補助金は撤廃されてしまう。米一俵(60kg)あたりの生産者価格は、現在、1万200円(2015年6月現在)ほどかかるのが現実であるという。

 しかし、コラムの文中にも登場いただいた山田正彦元農水相によれば、国産米とほとんど品質が変わらない米が、カリフォルニアならば一俵2~3000円で、ベトナムでは一俵あたり1000円で生産可能であるという。関税を取り払って競争したなら、勝負にならない。国内の生産農家に、補償のための何らかの補助金を出せば、同じ競争条件で競争していないとして、槍玉にあげられ、ことによればISD条項で提訴されるかもしれない。

 先日、あるJA関係者と話していたら、「いや、そうはいっても、TPPに入ったあとも、きっと政府は何らかの補償をするでしょう。しないわけがない。こっちも、そう働きかけてゆく。まさか農家を全部見捨てやしないでしょう」と語るのには驚いた。

 これまで通り、国内で日本政府相手に要求を続けていけば、どうにかなるだろうと高を括っているのである。JA関係者のすべてが、こうした楽観的な見方をしているとは思わないが、それにしても、TPPとは何か、JAはさんざん講師を呼んで勉強会や講演会を開いたり、日本農業新聞などでもくり返しその危険性を説いてきたはずなのに、与党・政府との交渉によって補償措置をこれまで通り、継続して獲得できるかのように考えている。考えが甘いと言わざるをえない。

 TPPに入れば、厳しい条件で輸入米と競争せざるをえないだろう。味で優劣に大差なく、価格で圧倒的に差がついた場合、あとは競うとしたら安全性のはずである。危険な農薬、放射能、遺伝子組み換え作物、こうしたリスクを避けたいと痛切に願っている消費者がどれほど多勢いることか。価格が高くなっても、国産の、安全な米や野菜を食べたいと願っている人は確実にいるはずである。それなのに、外国よりも農薬の基準が緩くなり、遺伝子組み換え作物も認めてしまった、ということになったら、外国の農産物に比べて、安全性も保証されず、国産の農産物に取り柄は何もなくなってしまう。

 価格以外で競争力をあげ、消費者のニーズにこたえてアピールするには、国がどんなに基準を緩めようと、そんな基準には従わず、自主的に厳しい基準を設け、健康な生活を保証する安全な農作物をつくって送り出すべきではないか。それは消費者のためだけでなく、生産者自身の生き残りのためにも必要な道のりなのではないか。

 むろん、農業の門外漢である私の主張に、反論や異論があっても少しもおかしくはない。繰り返すが、私のコラムは問題提起として書いたものである。日本農業新聞の紙面は、農家の方々が直接、読む貴重な紙面である。そんな貴重な紙面に書く機会を与えられて、ぬるい、微温的な話でお茶を濁していたら、まことに申し訳ないと思う。編集部に気に入られるようなぬるい、どうでもよい読み物を書いて、角を立てなければ、原稿料は入ってくる。波風もたしかに立たない。そうであるかもしれないが、立たない分、時間が無駄に費やされ、農家の方々が後戻りできないシビアな現実に直面した時には、手も足も出なくなっているかもしれない。私はそうした未来を恐れる。

 生産者が窮地に陥れば、めぐりめぐって安全な食べ物を食べられなくなる日本国内の消費者の利益も損なわれる。業界の内輪だけの問題ではないのである。広く問うべきテーマではないだろうか。

 日本農業新聞は、TPPが急浮上してから以後、私とIWJがその危険性を取り上げてきた際、常にこの問題をともに追い続け、報じ続けてきた「伴走者」のような存在だった。他のメディアが取り上げない中、この「タブー」に挑戦してきた日本農業新聞には、敬意を払い、こちらの一方的な片思いだったかもしれないが、「戦友」のようにも思ってきた。

 それだけに、このような掲載拒否というやり方は、きわめて残念である。業界紙の限界はあるのかもしれないが、私の署名記事を掲載すると同時に、社としての見解や検証記事、反論記事を載せ、議論の俎上にあげるという手だてもあったはずである。落胆は、深い。

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【岩上安身の「ニュースのトリセツ」】JAは本当に日本の農業を守る気があるのか――日本農業新聞に掲載を拒否された「幻の原稿」を緊急アップ!」への1件のフィードバック

  1. 岩上安身様
    一般会員でIWJファンの高月と申します。愛媛で柑橘栽培やってます。コメント数がいまだゼロのようなので敢えて一言。農業はある意味で雑草との戦いと言えますが、ラウンドアップなどの除草剤は農民の強い味方となっているのが現状です。個人的には人類の発明の中でも指折り数えるぐらいの科学製品と思っています。ベトナムで撒かれた枯れ葉剤とは似て非なる物と思います。いつも安保法制などの切れ味鋭い記事に対して、今回のラウンドアップ、遺伝子組み換え食品、ネオ二コチノイド系農薬に対する岩上さんの意見は、言ってみれば憲法の門外漢が安保法制が違憲かどうかについて騒いでいるような印象を持ちました。やはり専門科学者のいろいろな意見を聞いて慎重に判断すべきと思います。多分、日本農業新聞の方も同じように考えているのでは。参考までにラウンドアップに関する記事の例を。
    http://www.foocom.net/column/editor/12412/

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