TPPハワイ閣僚会合の内情を山田元農水相らが報告、日本に詰め寄る米国とそれを隠す日本政府、ウィキリークスの暴露で発覚した新たな事実も 2015.8.5

記事公開日:2015.8.7取材地: テキスト動画
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(石川優)

特集 TPP問題
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 元農林水産大臣で現在、TPP交渉差止・違憲訴訟の会の幹事長を務める山田正彦氏らは、2015年7月28日から31日まで米国・ハワイで行なわれていたTPP閣僚会合の場に急行し、会場となったホテルなどで国際NGOのスタッフらと情報共有した。

 そのTPP閣僚会合の模様に関する報告会が、2015年8月5日、連合会館で行なわれ、山田元農水大臣らとともにハワイに滞在していた、アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長の内田聖子氏らが現地の様子を報告した。

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■ハイライト

■全編動画

  • 報告 内田聖子氏(PARC事務局長)
  • 特別ゲスト 山田正彦氏(元農林水産大臣、TPP差止・違憲訴訟の会幹事長)
  • コーディネーター 魚ずみちえこ氏(ママデモ)

TPPのために米国はマレーシアの人身売買評価を都合よく引き上げ?

 米国は、TPP交渉に参加しているマレーシアについて、これまで人身売買などの問題から、米国務省が発表している人身売買報告書 の評価を最低ランクの「Tier3」に位置づけていた。ところが、今回、TPP閣僚会合の前日、7月27日に評価を「Tier2」に引き上げた。

 今年2015年6月、米国議会で可決された、貿易促進権限法案(TPA法案)。この法案では、人身売買報告書で最低ランクに位置づけられる国との貿易を禁ずる条項があり、マレーシアの人権侵害問題とTPP交渉参加の矛盾には注目すべき点があった。

 PARCの内田氏は、この問題について「マレーシア、アメリカの市民社会、特に人権団体では、貿易のために人権を捨てたということで、ものすごく厳しくオバマ政権を批判している」と話す。

 また、米国がTPP閣僚会合の前日に、マレーシアの人身売買報告書の評価ランクを引き上げたことには「根拠がない」とも指摘した。

米議員からの強い圧力とそれを隠す日本政府

 TPA法案は可決したが、実はまだまだ課題は多いと内田氏は指摘する。

 「米国の自動車業界は日本が交渉に入る前から、一貫して、日本の円安誘導政策に関して、これは不当に為替を歪めている、操作している、でその結果、アメリカの自動車業界にとって不利である、というのをガンガン攻撃している。なんとか禁止して、やったらこういう罰則をつけるというところまでを日本に約束させない限り、TPPはダメだ、という強硬な議員がたくさんいる。

 日本政府は、一貫してTPPの中では、為替操作はやってません、話題になってない、と言ってきたが、実際上、TPA法案の中には『為替操作』という項目がきちんとあり、そういうことはいけない、と。ある意味抽象的な話として書かれている。これがTPAの現実。

 今、アメリカの議員が何をやっているのかというと、抽象的なTPA法案をもっと明確に為替操作というものの定義をしたり、罰則の規定をちゃんと書き込んだり、ということを求めている。これは日本にとって、為替操作をしたから、日本は許せない、なんて言われれば、主権侵害にも近い、内政干渉にも近い話。元々は受け入れがたい話。

 ですから、日本政府はこのことがTPA・TPPの根底にあるというのを知っていながら、『いや、全然TPPでは議論していない』という風に隠してきました。ですがここにきて、閣僚会合の前に、非常に強いプッシュがいろいろな議員からされている」

12カ国が参加するという多国間交渉のTPPと呼ばれるが、実際は2国間交渉が基本

 TPPは12カ国が参加する多国間交渉だが、内田氏は、実際にTPP交渉の現場に行くと、実態は2国間交渉がほとんどだと指摘する。TPP交渉参加国の閣僚の間では、「TPPは2国間交渉が基本」という考え方が共有されているというのだ。

 日本もこのハワイでの会合で、毎日のように2国間交渉をしているという。もちろん、多国間の交渉も行なわれているが、2国間の交渉に比べれば僅かな時間だ。

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 内田氏は、12カ国共通のルールを決めるTPPが、実際はそのほとんどが2国間交渉で進められていることに疑念を示す。

 「こんなんで最後、まとまるのか。TPPというのは、あくまで12カ国の中の共通のルールを決める。特に関税問題に関しては2国間でいろんな国がいろんな農産品をめぐってやっていって、全部、答えが違うわけです。

 日本と米国のコメの問題で決めた関税率、輸入特別枠とかいろんなものがあります。日本と他の国、カナダがどういう話をしているか。全部多様」

ハワイ閣僚会合開催中、関係者にたった30分の説明しかしない日本政府、農業団体には嘘の説明も

 山田氏は、ハワイ閣僚会合開催中に、日本政府が農業団体をはじめとする関係者にたった30分の説明会を開いたと報告。これまでに行なわれてきた閣僚会合時の政府による説明会と比べると、明らかに説明時間が短かったという。

 山田氏は「大事な時期にたった30分。渋谷審議官が15分、意味不明なことをダラダラと言うだけ」と政府の姿勢に呆れながら報告。加えて、この時に渋谷和久審議官は、ひとつ重要なことに言及したという。

 「ここ(ハワイ閣僚会合)で仮に合意したとしたら、丁寧に皆さんにその内容を説明します。合意したら、皆さんに初めて話すと言う。

 私も話を聞いていてアタマにきて、『何を言っているんだ!』と発言した。カナダ・米国は、政府と農業団体が夜遅くまでヘトヘトになるまでトコトン議論している。日本は農業団体が来ていても、なにも政府から説明がない。

 私は、渋谷審議官に大筋合意してから説明したって意味ないじゃないかと言った。渋谷審議官は、農水省とかそういう所を通じて話をしていますと。あとで農業団体に聞いた。それぞれの会長クラスが来ているので。農水省から説明を受けているのかと。まったく説明がないという。

 自民党の議員は何をしているかというと、現地の農業視察に行っているという」

ウィキリークスがTPPの国有企業問題に関する非公開の公式文書を暴露

ウィキリークスは2015年7月29日、TPPの国有企業問題に関する非公開の公式文書を公開した。

 山田氏が参加するTPP交渉差止・違憲訴訟の会のメンバーらでこの文書を翻訳し、ネット上で公開している。

 こうした状況の中、今回のハワイ閣僚会合のあと、自民党は何を言っているのか。山田氏は、その内情を暴露した。

 「さっそく国内対策をやるんだ。牛とか豚とか鶏とか、こう対策する、予算をつける。補助金をやる。こういう話をしていて、対策を打ち出す予定だという。

 今回のリークの国有企業の項目の中に、相手国企業との間で差別をしてはならないとある。モンサントとかカーギルとか相手国の企業に不利益を与えてはならない。公平な自由貿易を阻害するということでTPP協定に反するということになる。

 いくら日本の農業者に甘い汁(補助金)を飲ませ、いろいろ提案したところで、TPP協定の国有企業の章で違反することになる。ISD条項で訴えられたら、終わりになる。これを農業団体はまったくわかってない」

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