TPPをめぐる日米閣僚級会議は4月21日未明、「決着持ち越し」で終了した。甘利明TPP担当大臣は21日の閣議後会見で、「意味ある前進をできた。焦点となっていたコメと自動車分野では距離は縮まっている」と述べた。
しかし甘利氏もフロマン米通商代表部(USTR)代表も、揃って「残された課題がある。引き続き協議が必要だ」と語っている。米国側は、米国産コメ20万トン以上の輸入拡大という要求水準を引き下げたというが、日本側が主張する5万トンより多く、いまだ大きな隔たりがある。
一方、日本が「攻め」の姿勢で臨んでいる「自動車部品」については、日本側が関税(2.5%)の即時撤廃を要求。しかし、米国は撤廃までの期間をできるだけ延ばす考えを示しており、こちらも溝は埋まっていない。
大手メディアの報道をまとめると、まるで両者の主張がぶつかり合い、拮抗しているように見える。しかし日本側が水面下で、また今後、大幅な譲歩をのむ可能性は拭えない。
報じられない米国の厳しい要求 自動車の「原産地規制」
17日に、岩上安身のインタビューに応じた山田正彦・元農水大臣が明らかにしたところによると、日本側は自動車分野で、原産地規制で譲歩を迫られているという。
原産地規制とは、TPP交渉国を「原産地」としたうえで、部品や組み立てを一定の割合以上を「原産地」でまかなわなければ、関税撤廃の対象としないというものだ。日本の自動車は、中国などTPP不参加国からの部品供給や組み立ての比率が高い。この原産地規制を厳しく設定することで、日本車は「日本産」と認定されず、関税撤廃の対象外となってしまう。
たとえ米国側が、日本産の自動車部品にかける2.5%の関税「即時」撤廃で譲歩しても、この原産地規制で米国の要求が通ってしまえば、結果的に日本側の「大幅譲歩」となる。この重要な課題について、日本農業新聞以外は、ほとんど報じていない。
日本は2年前に、すでに自動車分野で大幅に譲歩している。2013年4月12日に発表された日米事前協議の合意文書では、日本がTPPに参加する「入場料」として、「米国における日本車の関税撤廃はTPP交渉で決定される『最も長い期間(10年超)』で決定」と記されているのだ。ちなみに、日本では米国車にかける関税はすでに撤廃されている。
ここへさらに原産地規制で譲歩すると、日本車の「何年かかるか分からない」関税撤廃すら失ってしまうことになる。
TPPは米国経済のために「日本市場を開放」するもの オバマ大統領が公言
TPP交渉において、日本は米国への自動車輸出に僅かな好機を見出している。しかし一方で、米国も日本への米国産自動車の輸出を強く推し進めている。
オバマ大統領は17日、ホワイトハウスでイタリアのレンツィ首相と会談後、共同記者会見でTPP交渉に言及。16日に米議会に提出されたTPA法案(大統領貿易促進権限法案)に、米民主党議員が反発していることをあげ、「日本市場をより開放することになぜ反対するのか分からない」と述べた。
さらに、「ワシントンではたくさんの日本車が走っているのに、東京にはクライスラーやGM、フォード車がどれだけあるか」と指摘し、TPPによって日本に自動車や牛肉など農産物の輸出を増やしたいとの考えを示した。
オバマ大統領の野望に添うように、日本政府はすでに(米国車の販売に不利となる)軽自動車優遇税制を撤廃している。米国は日本に対し、農業分野だけでなく、自動車分野でも水面下で圧力をかけ、譲歩をのませているのだ。
海外の市民団体などと連携し、TPPの動きを追い続けているの内田聖子氏(アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長)は、「今回のTPA法案提出で、米国側は日本も決意を見せろ、と圧力かけてくるに違いない。すでに日米協議のレベルである種の取引がされているかもしれない」と、さらなる譲歩を日本側に迫っている可能性を指摘する。
土壇場のTPA法案提出はTPP推進派による茶番劇
内田氏によれば、実は日米協議は暗礁化しており、それを打開するためのブレイクスルー(TPA法案提出)が日米双方に必要だったのだという。
日米協議が膠着状態に陥っていた大きな要因は、米国内でのTPP反対の動きにある。IWJは内田氏に電話取材し、米議会の内幕を詳しく聞いた。
内田氏によれば、労働組合の反対の声が今年に入り特に活発化し、バイデン副大統領や民主党議員に激しいロビー活動を展開しているという。
そこで今回提出されたTPA法案には、「為替条項」や「労働者の人権・環境」、「貿易調整支援(TAA:Trade Adjustment Assistance)」など、各方面に配慮した文言が盛り込まれている。
「バイデン副大統領が特にこだわっているのが、この『TAA』です。これは、TPPによって失業してしまった人への給付金や職業トレーニング、またその間の医療保険の補償などをするもので、労働組合の声をおさえるためのものです。これとバーターで、こぼれ落ちてしまった人にも補償をするから、自由貿易をやろうよと、と労働組合との間で取引をしているのです。これでまとまれば民主党も切り崩される可能性があります」
しかし、米議会のTPP推進派にとって、見通しは明るくないと内田氏は語る。
「一緒に分析している人の話では、この法案は後でどうとでも解釈できる文言になっている。『為替条項』や『TAA』も、一応項目として入れたが、実際にどう運用するのかは、どうとでもなってしまう具体性のない文言。色んな方向からきているブーイングを緩和させるために入れたが、具体的に書いてしまうと実際やらなければならなくなるから。
人権団体や環境団体は、これじゃ何を言っているか分からない、と酷評しています。日米協議の間になんとしてでも出さなければ、とかなり追い込まれていた。だからもうなんでもいいから出してしまえ、というひどい出し方でした。そういう手続きを含めて、市民団体が下院の審議に向けて、今まで以上に反対の声をあげていく。ここからは攻防です」
安倍総理演説が米推進派の後押しとなるか? 内田氏「可能性低い」 ~米議会内に根強い反対の動き
2015/04/21 「決着持ち越し」に終わった日米協議 「TPA法案可決は困難」を伝えないメディア、報じられない米国の要求 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/243297 … @iwakamiyasumi
TPPは米国経済のために「日本市場を開放」するもの オバマ大統領が公言。
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