【岩上安身のニュースのトリセツ】イスラム国による邦人2名殺害:「報復」の名の下に国民を「テロとの戦争」に巻き込む安倍政権 2015.2.3

記事公開日:2015.2.3 テキスト
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(取材協力:佐々木隼也、文責:岩上安身)

※テキストを加筆しました。(2月5日19時更新)

 結末は、あまりにも無惨だった。

 日本だけでなく、世界が固唾を飲んで見守っていたイスラム国による人質殺人予告事件。

 殺害はたびたびの延期のあとに、しかし「予告」通りに行なわれた。

 日本時間2015年2月1日午前5時頃、イスラム国は、拘束した後藤健二さんを殺害したとする動画をネット上に投稿した。

 動画は一分余りの長さで、「日本政府へのメッセージ」と題し、戦闘員がイギリス訛りの英語で演説する。

 「安倍総理大臣よ、勝てない戦争に参加した向こう見ずな決断によってこのナイフは後藤健二を殺すだけでなく、今後もおまえの国民を場所を問わずに殺りくする。日本の悪夢が始まる」

 そう脅したあと、後藤さんと見られる男性の首にナイフをかざし、次の場面で、首を切り落とされた遺体の映像が映しだされた。

 動画公開を受けて安倍総理は1日朝、声明を発表。「非道、卑劣極まりないテロ行為に強い怒りを覚える」「テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わせるために、国際社会と連携する」と厳しい口調で非難したあと、あらためて「テロには決して屈することはない」と強調した。

 また声明では、中東への人道支援をさらに拡充するとし、「テロと闘う国際社会」において「日本の責任を果たす」などと述べている。

【内閣総理大臣 声明(全文)】

  1. 湯川遥菜さんに続いて、後藤健二さんが殺害されたと見られる動画が公開されました。
    御親族の御心痛を思えば、言葉もありません。政府として、全力を挙げて対応してまいりました。誠に無念、痛恨の極みであります。
  2. 非道、卑劣極まりないテロ行為に、強い怒りを覚えます。許しがたい暴挙を、断固、非難します。
    テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わせるために、国際社会と連携してまいります。
  3. 日本が、テロに屈することは、決してありません。
    中東への食糧、医療などの人道支援を、更に拡充してまいります。
    テロと闘う国際社会において、日本としての責任を、毅然として、果たしてまいります。
  4. このテロ行為に対して、強い連帯を示し、解放に向けて協力してくれた、世界の指導者、日本の友人たちに、心から感謝の意を表します。
  5. 今後とも、国内外における国民の安全に万全を期してまいります。

首相官邸HP

 
 総理はその後関係閣僚会議を開き、「テロと戦う国際社会において日本の責任を毅然と果たす」と、声明文の内容を繰り返し強調。政府は、イスラム国対策となる中東向けの人道支援を、政府開発援助(ODA)で拡充する方針だという。

後藤氏が生きている時から、イスラム国側を刺激する発言を連発

 「テロリストたちを絶対に許さない」「その罪を償わせる」という安倍総理の怒気を含んだ言葉からは、集団的自衛権行使の是非で揺れる今国会において、今後より強行に新安保法制をまとめていくという意図が感じられる。

 また、安倍総理は人質殺害事件の行方がまだ見通せない1月25日の時点で、NHKの「日曜討論」に出現し、「このように海外で邦人が危害に遭ったとき、現在自衛隊が持てる能力を十分に生かすことができない。そうしたことも含めて、法整備を進めていく」とも述べている。

 安倍総理は同番組内で、米国主導の「イスラム国」空爆の有志連合についても、「国連の決議がある場合も、ない場合も、後方支援であれば憲法上は可能だ」とふみこんだ発言も行っている。

 総理のこうした一連のメッセージは、確実にイスラム国側に届いたと思われる。まだ後藤氏が生きている、この微妙な時期に犯人側を刺激するようなメッセージを出す必要があったのだろうか。

「人命第一」を掲げながら米国の対テロ戦線に足並みを揃える安倍総理の二重性

 1月29日の衆議院予算委員会で、自衛隊による在外の邦人救出について「領域国の受け入れ同意があれば、自衛隊の持てる能力を生かし、救出に対して対応できるようにすることは国の責任だ」などと訴えている。

 これに関して、菅官房長官は2月1日の記者会見で、「邦人救出のための自衛隊派遣について誤解のないように申し上げるが、安保法制と今回の事案への対応は別問題だ」と述べ、米国主導の有志連合への資金や人的な協力について、「それは全くない」と否定した。

 一見すると、安倍総理と菅官房長官の間で足並みがあわないように見える。しかしこれは、国内向けと国外向けにアナウンスを使い分けているのではないか。

 一方で菅官房長官が、集団的自衛権で国論が二分している国内向けに発言をし、この人質殺害事件と安保法制は別のことなのだと、今後の議論になるべく差し障りがないように姿勢低く構える。

 その一方で安倍総理は、「日本はテロとの戦いに足並みを揃えよ」と強く求めてきている米国・英国に対して、受けのいい発言を繰り返している。

 それは米英への忠誠を誓う宣言であると同時に、イスラム国に対する宣戦布告を意味し、世界に16億人いるといわれる多くの穏健なイスラム教徒の間にも複雑な感情を呼び起こすだろう。

 いくら菅官房長官が火消しに奔走しても、安倍総理の一連の発言からは、「人質の人命第一」といいながら、その実、米軍に足並みを揃えることを優先する二重性が隠しようがない。

 前述の「罪を償わせる」という言葉は、総理が声明発表直前に自ら書き加えたものだという。菅官房長官は翌日2日の会見で、この言葉について、「国際社会と連携し、さまざまな手段で徹底して追及していくこと」と解説した。

「全力を挙げて対応」という安倍総理の嘘

 「政府として、全力を挙げて対応してまいりました。誠に無念、痛恨の極みであります」

 この安倍総理の声明文の一節には、首を傾げさるをえない。

 湯川遥菜氏がイスラム国に拘束された動画が公開されたのは、2014年の8月15日だった。安倍総理は、もちろん湯川氏の拘束を知りながら、9月23日に「イスラム国が弱体化し、壊滅につながることを期待する」と述べている。

 さらに、後藤氏は同年10月下旬に行方不明となり、政府は11月1日付でヨルダンに現地対策本部を設置。そして11月初旬には、後藤氏の妻に、イスラム国から身代金要求があった。週刊ポストの取材によれば、11月中旬の時点ですでに外務省はイスラム国側と身代金交渉を行っていたという。

古賀茂明氏「安倍総理は邦人2人の拘束を知っていた」

 元経産官僚の古賀茂明氏は、2月2日に私のインタビューに応え、「外務官僚は必ず上司に報告する。上司は必ず官邸に報告する。当然、秘書官に耳に入る。秘書官は必ず総理に伝える。後藤さん拘束の情報は、逐一総理に報告があがっていたはずだ」と証言した。

※古賀茂明氏へのインタビューは明日2月3日20時から再配信予定!
Ch1はこちらから→ http://iwj.co.jp/channels/main/channel.php?CN=1

 安倍総理は、2人の日本人がイスラム国に拘束されていると知りながら、イスラム国への空爆に賛同するメッセージを発し、大儀なき解散総選挙に日本中を巻き込み、年が明けてすぐにイスラム国と敵対する中東各国を歴訪し、対イスラム国支援を打ち出したのだ。

 「人質の命が最優先」とは、到底思えない行動であり、「全力を挙げて対応」という言葉は真っ赤な嘘である。

「選挙に影響」!? 外務省が後藤さんの妻に口止めしていた!

 さらに、2月3日発売の『女性自身』が重大な証言を載せている。なんと、後藤さん拘束の情報を掴んだ外務省が、イスラム国からの脅迫メールが届いた後藤さんの妻にとシリアの現地ガイドに、「厳重に口止め」をしていたというのだ。

 ジャーナリストの常岡浩介氏は、同記事内でこう証言している。

 「(奥さんのもとに脅迫メールが届いた)12月2日という日は、衆議院総選挙の告示日でした。12月14日が投票日ですから、その12日前という状況です。じつはこのとき、外務省が後藤さんの奥さんとシリア人の現地ガイドに、厳重に“口止め”をしていたのです」

 この口止めについて、現地ガイドが常岡氏に対しはっきり証言したという。

 

※同記事について、常岡浩介氏が2月4日夜、自身のgoogle+に「ぼくのものということになっているこの発言は存在しませんでした。純粋な編集部の捏造で、デマです」とするブログを投稿した。接触した後藤氏の奥さんから口止めに関する証言は得ていないという。ただ、現地ガイドからは口止めについては聞いたものの、誰から口止めされたかは聞かされなかったという。ただ、現地ガイドはイスラム国とのやり取りはなかったため、消去法で「日本政府による口止めとしか考えられないわけです」と綴っている。投稿全文はこちらから。

イスラム国側との交渉をする気は「全くなかった」と菅官房長官

 では、少なくとも1月20日に湯川氏と後藤氏の殺害予告が公開されてから、やっと「全力で対応」したのかといえば、そうではない。

 最初にイスラム国が提示した身代金200億円について、菅官房長官は2月2日の会見で、身代金を用意していたかについて問われ、「それは全くない。100%ない」と明確に否定。さらに、イスラム国と交渉する気は「全くなかった」と述べた。

 驚きなのは、イスラム国側との交渉についても、政府はそもそもやる気すらなかった、と証言したことである。まるで初めから、邦人2人の命は切り捨てていた、と告白したようなものだ。

 人質を本気で救出しようという気もなく、交渉も行わず、他方で、「テロには屈さない」とイスラム国を刺激し続けた結果が、人質2人の「死」である。それは官邸も、わかっていたはずのことだ。想定通りの結果に対して、どこが「誠に無念、痛恨の極み」なのか。

哀悼の表現が見当たらない総理声明 ~米国ですら声明で敬意と哀悼の意

 安倍総理は声明の同じ一節で、「御親族の御心痛を思えば、言葉もありません」とだけ述べている。殺された後藤氏に向けての直接の哀悼の表現は見あたらない。本当に人を悼むお悔やみの「言葉がない」のである。

 しかし、1月28日、イスラム国が湯川氏殺害後に突きつけた24時間以内の人質交換要求のタイムリミットが迫るなか、後藤氏の母・石堂順子氏が安倍総理、菅官房長官との面会を求めたが、官邸側は「日程調整がつかない」との理由で拒否している。文字通り、「御親族」に言葉をかけることもなかった。

 石堂氏は、後藤氏殺害の報を受けて、涙ながらに以下のコメントを発表した。

 「健二は旅だってしまいました。あまりにも無念な死を前に、言葉が見つかりません。今はただ、悲しみ悲しみで涙するのみです。しかし、その悲しみが『憎悪の連鎖』となってはならないと信じます。『戦争のない社会をつくりたい』『戦争と貧困から子どもたちのいのちを救いたい』との健二の遺志を私たちが引き継いでいくことを切に願っています。」

 「後藤氏は報道を通じ、勇気を持ってシリアの人々の窮状を外部の世界に伝えようとした。われわれの心は後藤氏の家族や彼を愛する人々と共にある」

 これは、日本政府から発せられた声明ではない。今回、日本政府に対し徹底して身代金支払いをしないよう圧力をかけ続けた米国政府の発表した声明である。

 米国ですら、後藤氏に対しジャーナリストであることに敬意を払い、その功績を讃え、家族に哀悼の意を示している。それに対し、安倍総理は、石堂氏の面会要請を拒否し、人質返還の交渉も行わなかった挙句、危険を冒して報道するジャーナリストへの敬意も示さず、哀悼の意を示さないばかりか、イスラム国に対して、「許さない」「罪を償わせる」などと怒りを露わにし、報復感情を煽るばかりなのだ。

 「報復」を掲げる安倍総理の耳には、石堂氏の「悲しみが『憎悪の連鎖』となってはならない」という言葉は、届いてはいても、心には響いていないのであろう。

日本に強硬姿勢を強いる反面、過去にはテロに屈している米国のご都合主義

 米国政府が後藤氏殺害の動画公開を受けて発表した声明は、次のように続く。

 安倍総理のイスラム国への強行姿勢や、今回の人質事件のきっかけとなった中東への対イスラム国人道支援について、「日本の揺るぎない貢献を称賛する」と評価。「米国は同盟国やパートナー諸国との広範な連合と団結し、ISILを弱体化させ、最終的に壊滅させるために引き続き断固たる措置を取り続ける」と結んでいる。

 米国は今回の人質事件で、「テロリストの脅迫に応じる事は賛成できない」として、身代金支払いや人質交換を一貫して許さなかった。

 しかし、これは明らかな内政干渉であり、しかもダブルスタンダードである。

 米国は2009年にアフガニスタンで拘束されたバーグダル陸軍軍曹を救い出すため、2014年にキューバのグアンタナモ基地で拘束していたタリバンのメンバー5人を釈放している。

 この米国のご都合主義的な姿勢は、内外からも批判を浴びている。シュルツ大領副報道官は1月27日、「タリバンは武装した反政府勢力であり、イスラム国はテロ組織だ。米国はテロ組織には譲歩しない」と詭弁を弄して弁明をした。「武装した反政府勢力」と「テロ組織」と何がどう違うのか?

 ちなみにタリバンは、公安調査庁の「国際テロリズム要覧」において、「国際テロ組織」と認定されている。少なくとも日本政府の定義では、タリバンは「テロ組織」である。

 米国政府のこのご都合主義的で厚かましい内政干渉に対して、保守層が大好きな言葉を使えば「毅然として」一線を画し、自国民の救出第一という方針を貫けなかった安倍政権の姿勢は問われてしかるべきだろう。

「人質を救えなかった」結果に「正しい」と賛辞を送るキャメロン英首相

 「テロには屈しない」と大言しつつ、米国からの圧力には屈する安倍総理に対し、英国のキャメロン首相は惜しみない称賛を送った。米国のジュニアパートナーの「先輩」からのねぎらいである。

 後藤氏殺害映像の公開を受けて声明を発表した英国のキャメロン首相は、「日本政府がテロに屈しないのは正しい」と評価。中東に平和や繁栄をもたらすため、日本が積極的役割を担い続けるとの安倍総理の姿勢を歓迎した。

 踏み絵を踏むように迫り、見事に踏んで安倍総理を讃えるとともに、混沌の中東紛争にようこそ、と言わんばかりの歓迎ぶりである。

 日本と英国とのあいだでは、人質事件発覚の翌日1月21日にすでに、外務・防衛の閣僚会合「2+2」を開催。日本からは岸田外相、中谷防衛相が出席し、今後のテロ対策で両国が連携していくことで一致している。「連携」とは、つまり米英、そしてイスラエルのいうことに耳を傾けて、その指示に忠実に従う、ということにほかならない。

9.11後の米国の焼き直しか、日本の歩む先の姿か ~「テロとの戦争」の道を歩み始めたフランス

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