世銀・IMFがもたらす「構造調整」という名の「破壊的経済モデル」~新自由主義的圧力で進んでゆく間接的植民地化――郭洋春・立教大学経済学部教授に岩上安身が聞く 2015.1.30

記事公開日:2015.2.5取材地: テキスト動画独自
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※2月5日テキストを追加しました!

 「豊かな国が貧しい国にお金を貸しているのに、貧しい国からどんどん吸い上げられている」

 昨年2014年末、OECD(経済協力開発機構)が示した報告書で、大半のOECD諸国における富裕層と貧困層の格差が、過去30年間で最大になっていることが明かされた。さらに、同報告書では、格差拡大によって抑制された経済成長の悪影響が、最下位の貧困層のみならず、下位40パーセントの所得層にも及んでいると指摘されている。

 グローバリズムにおける世界的な貧富の差の拡大を論じるベストセラー『21世紀の資本』著者トマ・ピケティ氏が来日し、格差問題に注目が集まるなか、1月30日(金)14時10分より、IWJ事務所にて、岩上安身による郭洋春・立教大学経済学部教授インタビューを行った。

 郭氏は、従来の経済成長ありきの枠組みとは異なる、民主主義、平和、環境、ジェンダーなどの要素を含んだ新たな開発経済学の構築を研究テーマとしている。1999年に出版されたミシェル・チョスドフスキー著『貧困の世界化―IMFと世界銀行による構造調整の衝撃』の翻訳を手がけ、同書は、出版当初の16年前よりもはるかに新自由主義的言説が大きな力を持つこととなった現在においてもなお、示唆に富む一冊として読者を集めている。

 世界銀行、IMF(国際通貨基金)という国際的融資機関によって途上国に施されてきた構造調整。チョスドフスキーは、これを「残忍かつ破壊的な経済モデル」と呼ぶ。市場開放、規制緩和という新自由主義的政策からなり、その弊害は『貧困の世界化』出版当初よりも明白なものとなっている。各国の国内産業は海外資本に骨抜きにされ、自国通貨の力が相対的に低くなる状態を、「ドル化」と呼ぶチョスドフスキーは、グローバリズムの結果、一元化する価値観に異を唱えている。

 アジア、アフリカ、南米などの個々の国々の実情を分析する郭氏は、絶えずフロンティアを求め続ける資本主義の行く末を案じ、永続的なものではないと語る。覇権国家が移り変わってゆく歴史を振り返りつつ、現在において、関係の悪化が懸念される極東諸国間の関係再構築のための道すじにまで論を展開した。

■イントロ

  • 日時 2015年1月30日(金)14:00~
  • 場所 IWJ事務所

『貧困の世界化』翻訳出版から16年――アジア通貨危機を振り返って

岩上安身(以下、岩上)「いま、日本の子どものうち、6人に1人が貧困化していると言われています。郭さんは、どういった問題意識を持って、チョスドフスキー著『貧困の世界化―IMFと世界銀行による構造調整の衝撃』を邦訳されたのでしょうか」

郭洋春(以下、郭・敬称略)「1997年のアジア通貨危機の際、韓国がIMFから550億ドルを緊急融資され、韓国国内で議論が分かれました。IMFから融資を受けることが正しいことなのか、IMFからお金を借りると、さらに貧困が進むのではないか、という声が論調のなかにありました。

 その論調の出どころを調べてみると、当時韓国語訳されていたチョスドフスキーの『貧困の世界化』でした。当時の通貨危機は、タイ、インドネシア、東南アジアのほとんどの国を巻き込むこととなったため、邦訳に踏み切りました」

世界銀行とIMF――戦後復興と途上国開発のための融資

岩上「今、世界も日本も貧富の差が拡大しているのはなぜなのでしょうか。そもそも、世界銀行とIMFとは何なのか。お話いただきたいと思います」

郭「世界銀行には、日本も戦後、お金を借りていました。90年代まで、東海道新幹線は世界銀行に返済を続けていました。世界銀行は戦後の復興支援から始まったのですが、IMFは、途上国の開発という役割を持っています。

 戦後復興はもう終わってしまったので、今、世界銀行とIMFは、ほとんど同じことをしています。経済危機に陥った、途上国にお金を融資する、ということです」

岩上「世界銀行は、日本の復興、立て直しには必要なこと、ありがたいことだったように思われます。単に焼け跡からの脱出ではなく、世界にその名を轟かす新幹線を走らせることに至るまで、大変なお世話になったとは言えないでしょうか。

 しかも、日本の場合、復興、返済後、多国籍企業に支配されたということはなく、自国の資本を成長させることができました。日本は借りていた側でもあり、いま、貸している側でもある。債務側と債権側の中間にあるように思われます」

緊縮財政と市場開放――構造調整という名の新自由主義

岩上「この本で触れられているテーマの一つ、構造調整は、経済活動の崩壊による社会の不安定化や、内戦の原因ともなると言われています。これについて、お聞かせいただきたいと思います」

郭「IMFがある国家に融資する条件として、その国の経済政策に対し、注文をつけるということがあります。その国の経済政策が悪かったため、IMFが処方箋を書いてあげるから、それを実行するなら融資する、というものです」

岩上「貧富の差が拡大するなか、新自由主義が悪いと私たちも日頃から言っていますが、竹中平蔵氏のような新自由主義的な考え方が悪いんだ、という議論に落ち着いてしまいがちです。

 しかし、構造調整をしているのはIMFと世界銀行だ、と『世界の貧困化』の表紙に書かれています。IMFと世界銀行は、言うまでもなく支配的な世界経済の中核にある機関ですね」

郭「確かに、戦後の世界経済を立て直すための融資機関として生まれたのが世界銀行、IMFです。

 韓国の場合、IMFが資金融資を行い、規制緩和をやればやるほど経済回復し、V字回復をした、と言われていますが、実際には二極化が進んでしまいました。市場開放を進めた結果、サムスン電機でさえ、外国人株主が高いパーセンテージを占める、という結果になりました」

岩上「経済を立て直し、融資を返済し終わったあと、国家が、外部の資本家の手に移り、乗っ取られてしまっている状態なのですね。これは形を変えた、すごく洗練された植民地支配と同じようなものといえるのではないでしょうか」

郭「構造調整といえば、響きは良いですが、正しい資本主義社会、市場経済をつくる、というIMF、世界銀行の構造調整の中身は、緊縮財政と、市場開放。これは、『構造改革なくして成長なし』と言った小泉内閣と全く同じ論調です」

岩上「日本が自ら行った構造改革と、外部から言われて行う構造調整。別もののようで、中身は全く同じなのですね」

郭「経済がうまくいかない国は、市場原理がうまくいっていないことが問題だから、まず市場開放して規制を取り払い、外国資本が入りたいと思えるように、古い制度をなくせばいいと、新自由主義者は言います」

岩上「IMF設立を決定したブレトンウッズ体制を、疑いの眼差しをもって見たことはなかったのですが、各国の自立的な秩序を破壊し、外資を受け入れていく、尖兵のような役割を果たしているのでしょう」

アメリカの意向が反映された世界銀行――拠出金によって決まる議決権

郭「世界銀行は、世界的な融資機関、いろんな国の拠出金でまかなっています。どこかの国に貸し付ける時は議論をしますが、拠出している金額によって、各国の議決権の力の差が生まれます。

 拠出金のうち、『世界の貧困化』出版当時、1位のアメリカが17%から18%、2位の日本は9%。日米だけで4分の1の議決権を持っており、中立の立場と言われている世界銀行には、議決権を多く持ったアメリカの意向がかなり反映されています。ニュートラルな融資政策が行われていない、という批判がずっと続いています。

 また、世界銀行の総裁はずっとアメリカ人でしたが、今は、韓国系のアメリカ人が総裁を務めています。そして、IMFのトップはヨーロッパ人が務めています」

岩上「世界銀行は日米、IMFはヨーロッパ。これは日米同盟とNATOみたいですね。世界銀行において、日本は米国に自立的な態度をとれるのでしょうか」

郭「国連総会での投票行動を見ると、日本はアメリカの不利益になるような投票行動をしたことが一度もない。アメリカが可決したい案件には、賛成に回るか、棄権をします。

 アメリカは世界を発展させないと、自国の商品を輸出する先がないため、自分も救えないということから、戦後直後、世界銀行とIMFを作ったということになります。

 戦後70年間、被害を受けた国々への経済開発が進んでいましたが、大半は欧米の多国籍銀行が融資していました。貸付先の国がだめになったら、貸し倒れ、不良債権化してしまうので、それを恐れ、世界銀行やIMFのような国際機関が融資をしました」

岩上「破綻している国を気にしているのではなく、機関の利害を気にして、きちんと返済させるための処置、ということですね」

郭「例として、1982年、中南米の累積債務問題で、国家破綻したメキシコにお金を一番貸していたのは、アメリカなのです。放っておけば、アメリカの金融危機が起こるため、それを恐れたアメリカは、メキシコやブラジル、アルゼンチンに出向き、さまざまな政策をしました。そしてまた、お金を貸しました。結局、自分の国の金融機関を救っているということになります」

融資のパラドックス――途上国から先進国にお金が流れこむ

郭「個人への融資と、世界銀行が国に金を貸す融資の条件はまったく同じ。しかし、この機関が一番恐ろしいのは、繰り延べ返済が許されないこと。理由は、利子がとれなくなるから、です。やっていることは、民間の金融機関と変わらないということです」

岩上「民間の場合、競合する貸し手があるから、借り替えができますが、世界経済において、国が国際機関から借りる場合、貸し手優位ですよね。担保がないのに、融資条件をいろいろつけることによって、貸付先の国が返済できない、となったらどうなりますか」

郭「より厳しい融資条件を立てていく、ということになりますね。構造調整と、市場開放をしなさい、と言って。過去の事例を見ると、借りた国が苦しくとも、貸した金融機関は回収できています。最初に貸した多国籍銀行にはきっちり返済がなされ、潤っています。

 普通に考えると、豊かな国から貧しい国にお金が流れると思いますが、途上国から先進国にお金が流れこむというデータがあります。豊かな国が貧しい国にお金を貸しているのに、貧しい国からどんどん吸い上げられている」

市場開放がもたらす悪循環――国内産業の崩壊

岩上「その土地に生まれる利益を全部我が物とする仕組みがあるんですね。どういったものでしょうか」

郭「韓国では実際に、『いつでも労働者の首を切れるようにしなさい。そうすれば労働市場の流動性が高まり、市場の活性化が進む』という政策が行われました。

 その企業はどんどん儲かるが、労働者は賃金が減り、労働条件は悪化します。絞れるところからきっちり絞る、ということです。これをIMFが融資条件として提示しました。労働者の実質賃金は90年代からどんどん下がっています」

岩上「世界中、まんべんなく、同じことやっているということなんですね。世界各国で低賃金化を押し進めている、と。かつての植民地支配の奴隷制のようです。ほかに行き場がない人々が、低賃金の労働で働かされているのは奴隷労働と変わらないのではないでしょうか」

郭「市場が開放され、外国の資本が入り、巨大な外資スーパーが来ると、地元のスーパー、商店街がつぶれ、失業者があふれます。そういう人たちが低賃金で外資スーパーに雇われるという構造になっています」

岩上「1980年代初めから、IMFと世界銀行が債務の再交渉の条件として、途上国に賦課した『マクロ経済的安定化措置』とはなんでしょうか」

郭「基本的には、財政政策と金融政策です。緊縮財政をするということは、公共事業を縮小し、福祉、教育などをコストカットするということ」

岩上「まさに今、日本が直面していることですね」

上昇する金利――国内に蓄積される負担

郭「また、大企業が潰れてしまうと『入り』も少なくなりますので、大企業には減税をしましょう、ということもしています。もう一つ、金融政策は、外国からお金が入るようにしましょう、と。そのために、金利を高く、10%くらいにまで設定しています。

 2010年の欧州財政危機の時、ギリシア、スペインの国債の価値が下がってくると、国債の金利が上がってきました。そうでなければお金が入ってこないということで、『3パーセント金利じゃだめだ、10パーセントだ』と。国際金融機関が金利を上げると、国内の企業はより高い金利で融資をされることとなり、経営破綻し、結果、大量の失業者が生まれるという悪循環になります。

 1997年のアジア通貨危機では、マクロ経済政策をやればやるほど苦しくなりました。IMFは国を救うのではなく、苦しめるではないか、として、IMF不要論がでました。しかし、IMFに代わる機関などない、として、これも声が小さくなりました」

岩上「『金利をとってなにが悪い? また貸してやるよ。これを繰り返せばいいじゃない』と言って続けても、いずれは、貸付先が消えてしまうのではないでしょうか。結果、世界全体の需要が縮小し、いよいよ金融危機や恐慌が起こるのではないでしょうか」

「世界銀行は、現場を見ずに、実情とかけ離れた処方箋を書いている」

郭「それでも、社会主義が崩壊し、新たな貸付先が生まれています。アフリカや中南米など、充分な市場開放をしていない国にも、『すべて開放しましょう』と言う。中国、ロシアも、まだ規制が残っている国にも、規制を取り払いましょうと。TPPはそのうちの一つです」

岩上「これは資本の自己増殖のフロンティアなんですね。以前、水野和夫・日本大学国際関係学部教授にインタビューしたところ、もうフロンティアはない、とおっしゃっていたが、まだ、絞れるということですね」

郭「資本が停止することはなく、先は細くなっているが、そこでまだ絞れるなら絞ろうということですね」

岩上「優良な貸付先、プライムな貸付先だけを探していたら、高利貸しは成り立たない。だから、サブプライムローンが生み出されたのですね」

郭「(返済が)危うい人にも貸し出せる方法を、ありとあらゆることまで、資本は次々に考案していったのです。錬金術のように。今のところ、それがまだ続いています。

 国家破産というより、世界経済自体がクラッシュする、世界経済全体の沈没が起こらないとは誰も言い切れません。

 『自分たちは関係ない、それは次の世代の問題』と考えているのでしょう。次の世代の利益を考えていないでしょうね。今、一日で取引されるカネの量は、フランスの一年間のGDPに匹敵する、と言われています。異常なスピードの取引、異常な額のカネがクラッシュすると、大変なことになります。

 世界銀行を厳しく批判するジョゼフ・E・スティグリッツは、1997年から2000年まで、世界銀行のチーフエコノミストになりました。世界銀行の職員は、融資をする国に行って、ホテルの一室で練ったプランをその国の政府に渡す。現場を見ずに、実情とかけ離れた処方箋を書いている、ということを、スティグリッツは、はっきり告発しています。

 しかしながら世界銀行は、その処方箋が国の実情にあてはまらないのは、市場が充分に機能していないからだ、と言って、あくまで市場開放を進めようとします」

アジア、アフリカ、南米への弊害

郭「途上国の市民からすると、なぜ実情に合わないプランを受け入れるんだ、と思うが、そうでもしないとお金が借りられないのです。貸し手は(世界銀行とIMFの)二つしかないから、どんな条件でも飲むしかないのです。

 インドネシアでは、アジア通貨危機の際、スハルト大統領が辞任することとなりました。IMF特別融資の影響は、政権さえも変えてしまいます。変えないと駄目な状況に追い込む。オキュパイ運動になって、今もなお、現れています。先進国も含めて。

 サハラ砂漠以南のアフリカで、アメリカの安い穀物が入ってくると、その国の農業が壊滅してしまいます。飢餓が続くなか、現地の人々は、輸入穀物に頼らなければ生きていけない、というのがチョスドフスキーの考えです。

 ルワンダでも、農業の近代化の名のもとに、トラクターを入れると、失業者が生まれ、ひいては部族対立、内戦、紛争に至ります。引き金を引いたのは、構造調整である、とチョスドフスキーは書いています」

岩上「これはTPPそのもの。米を守ってきた日本は、小麦作りを諦めさせられたという過去があります」

郭「パン食が進み、肉食、乳製品が入ってくると、アメリカの商品がさらに売れます。これは今日、昨日の状況ではなく、ずっと続いてきたことです。

 IMFと世界銀行で働いてきたインド人官僚が、インド中央政府の要職を掌握し、インドを間接統治するようになりました。バングラデシュでは、国際借款団が、世界銀行管理下に援助コンソーシアムを構成し、構造調整プログラムを要求しています。

 ベトナムの街中でドルが流通しているという状況は、外国資本の支配が強まっているということを示しています。自分の国の通貨が、いつ、どうなるかわからないというリスクを抱えることになっています」

岩上「チョスドフスキーは『ドル化』という言葉を使っています。ドル経済に飲み込まれることで、賃金はその国のレベルなのに、食料品などの物価は、先進国を基準にした国際レベルになるということが指摘されています」

郭「ボリビアでは、構造調整の影響で解雇され、与えられる解雇手当が、コカを栽培する土地に投資され、麻薬密売経済が生まれました。アンダーグラウンドの世界が広がることにもつながるということです」

海外の投資家へ流出する国内資本――間接的な植民地化へ

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“世銀・IMFがもたらす「構造調整」という名の「破壊的経済モデル」~新自由主義的圧力で進んでゆく間接的植民地化――郭洋春・立教大学経済学部教授に岩上安身が聞く” への 1 件のフィードバック

  1. すえ より:

    国際的融資機関の構造調整政策を調べていたので、参考になりました!ありがとうございます。
    ただ、2点混同されているようなので確認願います。

    (1)世界銀行は戦後の復興支援から始まったのですが、IMFは、途上国の開発という役割を持っています。
    →IMFは戦後の復興支援から始まったのですが、世界銀行は、途上国の開発という役割を持っています。

    (2)『世界の貧困化』の表紙に書かれています。
    →貧困の世界化

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