「国家機能を持ち始めたイスラム国との戦いは長期化する」米空軍戦争大学助教授が指摘 ~国際地政学研究所ワークショップ 2014.12.19

記事公開日:2015.1.5取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

特集 中東

 「戦争は、始め方よりも終わらせ方のほうが難しい」──。2014年5月、オバマ米大統領は米軍中心の国際治安支援部隊(ISAF)が、同年12月末をもってアフガニスタンでの任務を終えることを発表した折に、このような言葉を口にした。

 2014年12月19日、国際地政学研究所の第12回目のワークショップが東京都内で開かれた。「アメリカの軍事戦略―イラク・アフガン・シリア・ムスリム(国)―」とのタイトルのもと、アメリカ空軍戦争大学国際安全保障学部助教授の片桐範之氏と、国際政治学者で桜美林大学教授の加藤朗氏が、国家対非国家主体(アルカイダやイスラム国といった反政府勢力)の戦争について考察を行った。

 片桐氏は過去の歴史から、反政府勢力側に国家機能の具備と軍隊機能の近代化の動きが起こらない限り、国家側がその戦争に負ける可能性はほとんどないと強調する。

 アフガン戦争では、米国は2016年末までに軍隊を完全撤退させる方針だが、イラクのように撤退後にも安寧が訪れず、米軍が再介入する事態になったとしても、「徐々に米軍の優位性が高まる」というのが片桐氏の見方だ。イスラム国との戦いについても「長期化はするが、米軍との力の差は歴然」と述べた。

 これに対し加藤氏は、米軍は軍事的な戦いで反政府勢力に勝つことができても、それで中東に鬱積する米国への不満が消えるわけではない、との立場。国家対反政府勢力の戦争では、その終結が当該国に平和をもたらしにくいとし、戦争終結が平和に直結しにくいジレンマは、米国発のグローバリゼーションの猛威が続く限り払拭されない、と力を込めた。

記事目次

■ハイライト

  • 登壇者 柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)/片岡範之氏(アメリカ空軍大学〔AWC〕助教授)/加藤朗氏(桜美林大学教授)
  • 日時 2014年12月19日(金)14:00〜16:30
  • 場所 アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)
  • 主催 国際地政学研究所

アフガンで米軍が勝っているとは言い難い

 冒頭、あいさつに立った国際地政学研究所理事長の柳澤協二氏は、「日本が直面している安全保障の問題では、議論が『自衛隊が米軍を支援する必要性の有無』に傾斜しすぎている」と発言。90年代以降の米国と中国の関係は、冷戦時代の米国と旧ソ連のそれとは異なるとした上で、その要因にグローバル化社会の大きな変化を挙げた。

 柳澤氏は「冷戦時代に人生の多くを過ごした年配世代は、米国が一極支配していたころの視座から抜け出せず、その後の多極化した世界構造を理解することが容易ではない」と指摘する。

 さらに、「戦争そのもののあり方も、昔とは様変わりしており『出口の見えない混乱』の様相を呈している例が目を引く」と続け、「アフガン戦争は、米国にとって開国以来もっとも長い戦争だが、誰が見ても米軍が優勢な戦況ではない」と語った。

国家と反政府勢力の戦いに「法則」あり

 講義は片桐氏からスタートした。「『国家対非国家主体の戦争』というテーマで、過去200年間の実例を検証した」と切り出した片桐氏は、「1816年から1945年中盤までは、弱者(非国家主体、以下同)が強者(国家、以下同)に勝ったケースは少数」と指摘。

 「弱者が勝ったのは、全体のうち20%に届けば御の字と言える程度。ゲリラやテロといった戦いで、戦争は長期化しやすいが、最終的には弱者が負ける例が大半だ」と言い継いだ。

 しかし、そのあとの時代から様子が変わるという。弱者が勝つ事例が大幅に増えたのだ。片桐氏は、それらの事例に認められる傾向として、1. 反乱軍が小さなゲリラ集団として戦いを始めたのち、軍隊の機能を獲得し、最終的には正規軍組織として国と戦えるようになる、2. その際、国家としての機能を併せ持ち、敵国を倒すことで政治的独立を果たすようになる、の2点を示した。

 そして、代表的事例として第1次インドシナ戦争(1946~1954年、フランスとの戦いでベトナムが勝利)を挙げ、「戦いの最中に弱者(ベトナム)側が『進化』を遂げている」と指摘した上で、アフガン戦争については次のように述べた。

 「たとえ米軍が、戦いの継続を余儀なくされた場合でも、アルカイダが優位に立つことはないと思う。なぜなら、彼らは国家としての機能を有していない。いや、そもそも『国家』を樹立しようという考え方を持っておらず、正規軍的な能力でも劣っているからだ」

軍事力は水準未満でも国家機能を持ち始めたイスラム国

 イスラム国との戦いに話題がおよぶと、片桐氏は「アフガン戦争より長引く可能性がある」との見方を示した。その理由を、「イスラム国は、国家機能を少しずつ持ち始めているからだ。占領地内に警察を置いたり、税金を徴収したり、郵便を導入したり、裁判所を作ったりしている」とし、しかしながら、イスラム国の軍事力自体は非常に弱いことも強調した。

 「数台の戦車保有や、占領した飛行場へのヘリコプターや地対空ミサイルの配備といった、正規軍を真似る近代化の動きは見られるが、海外からの軍隊の力には遠くおよばない。戦いは長期化するだろうが、米軍は時間をかけながら優位な戦いを展開していくに違いない」

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