【大義なき解散総選挙】「歴史認識」が争点にならないことを問題視する新外交イニシアティブがシンポ、安倍首相再選で「日本が『世界の孤児』になる」!? 2014.12.3

記事公開日:2014.12.10取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

 衆議院議員総選挙が公示された翌日の2014年12月3日、新外交イニシアティブ(ND)が、東京都内の法政大学市ヶ谷キャンパスでシンポジウムを開催した。タイトルは「安倍政権の歴史認識を問う ―『戦後レジームからの脱却』と日本外交―」。

 これは、12月14日投開票の今回の衆院選で「歴史認識」が争点になっていないことを問題視したもの。スピーカーのND理事で法政大学教授の山口二郎氏は、第2次安倍晋三政権のスタートを受けて、日本社会が右傾化したことは明瞭だとし、安倍首相が再選された場合、日本の外交に楽観シナリオを描きにくいと表明した。

 同じくスピーカーの京都産業大学教授で元オランダ大使の東郷和彦氏は、安倍首相の「靖国神社参拝」を手厳しく批判。今なお、安倍氏とその側近たちが、靖国参拝が外交上、いかに悪材料となるかをわかっていないのなら、それは日本にとって「致命傷」と言える問題だ、と訴えた。

■ハイライト

  • 登壇 東郷和彦氏(京都産業大学教授、元オランダ大使)、マイク・モチヅキ氏(ND理事、ジョージ・ワシントン大学教授)、山口二郎氏(ND理事、法政大学教授)
  • コーディネーター 猿田佐世氏(ND事務局長、弁護士)

今の日本には「マッカーシズム」が重なる

 「今回の衆院選では『歴史認識』が争点になっていないが、その政党やその政治家の考え方を見極める上でもっとも有効なやり方のひとつは、『どんな歴史認識』を持っているかを観察することだ」

 冒頭、あいさつに立ったND事務局長の猿田佐世氏は、こう強調した。「今日の集会は、ND理事でジョージ・ワシントン大学教授であるマイク・モチヅキ氏の、『今の日本に顕著な(特定の)歴史認識の広がりには、米国から見ていても危うさを感じる』というひと言がきっかけとなり、急遽開催が決まった」と言い継ぎ、最初の登壇者の山口氏を紹介した。

 マイクを握った山口氏は、まず、その時々の政権・首相の歴史認識が、その時々の政治姿勢に大きく反映されると言い、「安倍氏が総理大臣に返り咲いて2年が経過し、この間に日本の社会の雰囲気はかなり変わった。在特会(在日特権を許さない市民の会)や右派系メディアの隆起は、第2次安倍政権のスタートと無縁ではないと思う」と述べた。

 そして、今夏の、朝日新聞の従軍慰安婦報道をめぐる誤報問題に触れ、「あの一件後、慰安婦問題そのものを否定する右派メディアの言説が一気に優勢になった」と指摘。朝日の誤報問題をもっとも好感したのは、間違いなく安倍首相であるとの見解を暗に示し、「今の日本にはマッカーシズムが重なる」と口調を強めた。マッカーシズムとは、第2次大戦後の米国に起こった、共産・社会主義者とその一派を政府が逮捕・追放した行為である。

多様な言論活動が難しくなった

 朝日新聞の誤報問題について、「木を見せて、森全体を見せないようなもの」とも語った山口氏は、「吉田証言は確かに虚偽であったが、だからといって、慰安婦問題が存在しなかったとは言えないし、当時の日本軍が慰安婦に関与しなかったとも言えない」と力を込め、次のように述べた。

 「朝日新聞の社員だった時分に慰安婦報道に携わった記者らが、(退職後に)大学で教壇に立つことに対し、陰湿な攻撃が続いており、これを受けた大学側には、その先生(元朝日記者)に辞職をうながすという、筋違いの動きが目立っている。つまり、(リベラル系の)メディアと知識人が攻撃の対象になりやすいのが、今の日本なのだ。日中戦争以降の、日本が全体主義社会へと坂道を転がり落ちていった際のプロセスが思い浮かんでくる」

 第2次安倍政権始動後、日本社会は殺伐としたものになっていったと指摘する山口氏は、「言論の多様性が弱まり、異論への寛容さが薄らいだ印象がある」として、今まさに、近代文明が築いてきた原理が破壊されつつあると警鐘を鳴らした。

 そして、「そこには安倍政権による作為のそれと、不作為のそれがある」と話すと、前者については、「(リベラル系の)言論機関に対し、ある種の闘争をしかけていると見なさなければ、理解できない現象がかなり起きている」とし、後者については、「すでに社会問題化している在特会の活動や、元朝日の記者らが教鞭をとる大学への嫌がらせに、十分な対策を講じてこなかった点が挙げられる」と続けた。

 また、「安倍内閣の女性閣僚が、在特会と密接な関係があると指摘されたにもかかわらず、安倍首相は彼女を守る姿勢を打ち出した」とも話した。

なぜ、わざわざ「靖国参拝」を行う!

 山口氏は、保守・右派系の政治家には、国内向けと国外向けで発言を変える傾向が鮮明としつつも、「安倍首相には、海外に対しても歴史修正主義を主張し始める兆候が認められる」と強調。「これは、今後の日本にとって、外交上での紛争の要因になるに違いない」と指摘した。

 仮に与党が、衆院選で大勝した暁にはどうなるか──。これについて山口氏は、後半の討論で言及すると予告し、東郷氏にマイクを譲った。

 東郷氏は「この2年間の安倍政権の外交には、良かった面と悪かった面の2つがある」と切り出し、「月に1回という、高い外交頻度は評価できるが、中国、韓国、米国、ロシアとの関係が悪くなった点は、どうにもいただけない」と表情を曇らせた。「これらの国々と日本の間には、もともと複雑な問題が横たわっていたが、安倍政権の2年間で、歴史認識の部分での軋轢がより複雑になったことは否めない」。

 2012年9月以降の中国による日本の領海への侵入は、敗戦からそれまでの間には、一度たりとも起きなかった事態だとした東郷氏は、中国のこうした部分を正すには、軍事力(抑止力)のアピールと対話が有効な手段だと力説する。

 「その際に大切なのは、不必要なテーマで相手を刺激しないということ。安倍首相が靖国神社を参拝すること自体の成否は別として、それを実行すれば、中国を刺激することは確実。安倍首相の靖国神社への参拝で、日中の対話は明らかに遅れた」

 東郷氏はこう述べ、この11月に北京の人民大会堂で安倍首相と習近平主席が約30分間、首脳対談を行ったことを、「あれは、悪化した日中関係を以前の水準に戻しただけ」と辛口評価。「安倍政権とその側近らが今、自分たちの靖国神社参拝が持つ外交上の問題性に気がついたかどうかが、非常に気になる」と口調を強めた。

米政府は「安倍政権」をどう見ているか

 さらに東郷氏は、「安倍首相の靖国神社参拝に、もっとも憤慨の念を抱いたのは中国ではなく米国だ」とも主張する。

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