衆議院を解散した11月21日、安倍総理は記者会見で、「今回の解散は、アベノミクス解散」だと宣言した。物価上昇率を2%引き上げる異次元の金融緩和、「国土強靭化計画」を中心とする積極的な財政出動、そして規制緩和による成長戦略という「三本の矢」からなるアベノミクスの是非こそが、今回の選挙の争点だというのである。
安倍総理は、このアベノミクスは順調に推移していると強調する。しかし、GDPは2四半期連続でマイナスとなり、12月1日には、米国の大手格付け会社「ムーディーズ」が、日本の国債を「Aa3」から「A1」に格下げすると発表した。
8%への消費税増税で景気は冷え込み、日本経済の先行きは不透明さを増すばかりである。はたして、安倍総理が言うように、アベノミクスは成功しているのか。
日刊ゲンダイで長年にわたり、経済コラム「日本経済一歩先の真相」を連載し、浜矩子氏との共著『2015年日本経済 景気大失速の年になる!』(東洋経済新報社、2014年10月)など多数の著作を持つエコノミストの高橋乗宣氏は、アベノミクスに対して、極めて厳しい診断をくだす。
高橋氏は、多くのデータを参照し、「日本経済は、成長のためのエンジンがなくなった状態にある」と語る。アベノミクスによる「成長戦略」を行っているはずの日本で、成長の見通しが立たないとは、一体どういうことなのか。アベノミクスの真相について、岩上安身が話を聞いた。
- 日時 2014年12月3日(水) 14:00~
- 場所 崇徳学園(広島市)
日本国内では、拡張型の設備投資がほとんど行われていない
岩上安身(以下、岩上)「本日は、エコノミストの高橋乗宣先生にお話をうかがいます。私は、高橋先生が長年にわたり日刊ゲンダイに連載されているコラムを愛読しております。先生は『悲観の乗宣』とも呼ばれますが、その悲観的な予測がことごとく当たっています。
浜矩子さんとの共著を連続で出されていますが、三菱総研の後輩だとうかがっております」
高橋乗宣氏(以下、高橋・敬称略)「浜氏が三菱総研に入って、それからずっと、2人で経済予測を続けています。浜氏は、私の弟子であると思っています」
岩上「GDPが2四半期連続でマイナスになりました。これは、大震災を超えるインパクトであるということですが」
高橋「日本経済は、生産力がないというわけではないのですが、成長のためのエンジンがなくなっています。今回のデータを見ても、消費がわずかな伸びにとどまっています。
設備投資が、マイナス0.2に落ち込んでいます。また、住宅投資を見ても、マイナス6.7です。駆け込み需要ができるのは、年輩の人だけです。若い人には、駆け込むだけの資金力がありません。これが、現在の日本の体力だということです。
設備投資については、新規の拡張型の投資は、国内でほとんど行われていません。中国や東南アジアに生産拠点を設け、そこの設備投資はしているのだけれども、国内での新規の設備投資はほとんどないのです。つまり、消費も設備投資も、成長のエンジンになれないということです」
日本国内の中小企業は、法人税を払いたくても払えない
岩上「アベノミクスのシナリオとは、金融緩和で円安誘導し、輸出大企業が大儲けをして、トリクルダウンで賃金を増やす、というもののはずでした。しかし、ご指摘の通り、輸出が伸びていないということは、アベノミクスは間違いだった、ということでしょうか」
高橋「その通りです。今や、企業は金が余っていて、資金余剰の状態です。法人税を支払う企業というのは、全体の3割。法人税をOECD諸国並みの25%まで下げよう、と経団連の会長は言っていますが、ほとんどの中小企業は、法人税を払えない状態なんですね。税率を下げる前に、払えるように儲けさせてほしい、ということです。
企業は、資金がないから投資をしていないわけではありません。企業の内部留保は蓄積されています。日銀の当座勘定がどんどん膨らんでいるような状態です。今、7兆9千億円。2012年の2倍以上になっています。
異次元の金融緩和でジャブジャブにして、それをどこが使っているかというと、国際的なヘッジファンドに流れているわけです。日銀が国債を買いまくっています。つまり、政府は、日銀の資金で財政をやりくりしているわけです。
異次元の金融緩和で助かっている企業は、極端な話、ゼロだと言っていいでしょう。これは、極論すれば、戦時国債と同じです。市場性がない、相場とは言えないようなかたちになっているわけですね。これが、異次元の金融緩和というものの本質です」
地方の零細企業は、円安で大打撃を受けている
岩上「株価が上がっているから結構だ、と言う人がいますが」
高橋「余剰資金のかなりの部分がヘッジファンドに流れ、円安だから外国から資金が入りやすい。それで株を買っているわけです。相場師の運動場になっているのですね」
岩上「これは、バブルですよね」
高橋「まー、バブルと言ってもいいかもしれませんが・・・。空回りの相場ですよね。円安も株価を持ち上げるわけですが、株価だけが上がって、実体がともなっていません。まあ、株バブルと言ってもいいかもしれません。
円安になって一番苦労しているのが、地方の零細企業です。ニワトリだって豚だって、飼料は輸入です。そうすると、卵も肉も値上がりします。そこに消費税増税が加わって、需要が伸びず、法人税を払うどころではないのです。
法人税率を下げるかわりに、外形標準課税をかける、という話があります。これは、工場の敷地面積とか、雇用者の数とか、企業の外形にかけるものです。企業としては、敷地を売り払うとか、労働者の首を切るとか、そうしたことをせざるを得なくなります。これは、大変なことです。
量的緩和も、法人税減税も、どちらも的外れなんですね。今の日本経済がどういうかたちなのかということをきちっと理解できていなくて、かつての、高度経済成長期の輸出立国としての日本をモデルにしているに過ぎないんですね」
「輸出立国」としての日本を取り戻すことは、もはやできない
岩上「しかし一方で経団連は、アベノミクスを持ち上げ、自民党に多額の献金を行うようになっています」
高橋「元気な日本を取り戻す、ということで、一般論の範囲でやっているのだと思います。政権と財界の癒着というよりは、適当にあしらっているのが実態です。
貿易収支は赤字が並んでいますが、経常収支は、赤字の時もあれば黒字の時もある。なぜ、こういうことになるかというと、貿易赤字を所得収支でカバーしているわけです。所得収支とは、日本企業が海外で儲けたものを親会社に還元しているというもの。
最先端の分野、例えば電子関係などは国内で設備投資をしていますが、大規模な投資はほとんど海外で、国内では老朽化したものの更新ばかりで、新規の設備投資はほとんどありません」
国債の暴落も考えうる
岩上「日銀が国債の購入をやめると、トリプル安になる、と御本の中で指摘されています。さらに、12月1日、ムーディーズが日本国債の格下げを発表しました」
高橋「ムーディーズでいうと、最低のところまで落ちる可能性があります。国債の暴落ということも考えうる」
岩上「異次元緩和をしたぶんだけ、国債に傷がつくということですね。安倍政権はずっと、デフレ脱却を唱え、インフレ誘導を行ってきました。インフレだったらなんでも結構ということで、国債が暴落することがあったら、財政が破綻してハイパーインフレになるのでは」
高橋「住宅ローンなどには、大きな影響があります。これが上がると、他の消費を抑えざるをえなくなり、消費に急ブレーキがかかることになります。ですから、一番怖いのは、国債価格が暴落することです。個人で株をやられている方は、警戒したほうがいいと思いますよ」
岩上「一般の株は値上がりと値下がりがあるわけですが、国債は、安定的であると、個人も機関投資家も思っていたと思うのですが。日銀が国債を引き受けたことで、そうではなくなると」
高橋「日銀の一挙手一投足で、国債の価格を上下できるということです。
日銀が国債を買っている量を減らし、市場に流すことです。もちろんバッと出すと暴落するので、徐々に出していくべきです。異次元緩和の第2弾の答えが、ムーディーズ格下げとして表れているわけです」
岩上「アベノミクスの指南役である浜田宏一さんは、うまくいかなくなったらもう一発やればいい、と言っています」
高橋「そうなると、先ほど申し上げたように、市場性のない戦時国債と同じになります」
軽減税率は平等性に問題がある
岩上「戦時国債とは、どういうものなのでしょうか」
高橋「戦争が終わった途端に、通貨価値が暴落するわけですね。戦前に100円と言っていたものが、戦後になって、1円とか50銭とかに暴落して、新円切り替えというものをやるわけです。
安倍総理としては、消費税を上げるということを公約にして、ブレーキをかけたつもりなんでしょう。では、上げることによって、国債がゼロになるかというと、税収は社会保障に回すわけですから、財政の赤字規模はこのままでは変わりません。
公明党が政策に掲げている軽減税率は、平等性に問題があります。例えば、タマゴに関しては、タマゴを消費する場合とタマゴを原料に生産する場合と、同じだけ税率が軽減されるわけです。しかし、タマゴで作ったケーキの税率は軽減されないので、平等性を欠くわけです」
岩上「そうなると、軽減税率というのは、現実的にできない、ということでしょうか」
高橋「まあしかし、その政党が与党ですから、適当にお茶を濁すような感じで、やるのかもしれないですね」
移民受け入れは、現代版の奴隷制につながる
再稼働一部は止むなし、原発輸出についてはあいまいな返答、この意見には幻滅させられた。
原発が日本の地域住民の人心を蝕む元凶であることの認識の欠如。経済指標のみの経済観。
日本の将来像についての明確な見識にもとづいた経世済民観ではない。