シリア・イラク情勢とウクライナ危機を結ぶ線 中東の要衝・シリアをめぐり展開されるエネルギー地政学 ~岩上安身による元シリア大使・国枝昌樹氏インタビュー 2014.11.6

記事公開日:2014.11.7地域: テキスト 動画 独自
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(IWJ・平山茂樹)

特集 中東

 イラクとシリア北部で勢力を拡大しているイスラム武装集団「イスラム国」。9月下旬には、米国を主導とする有志連合がシリア領内での「イスラム国」に対する空爆を開始し、CNNやBBCなど欧米のメディアは、シリアとトルコの国境に位置するアインアルアラブ(クルド名コバニ)での攻防戦を連日のように報じている。

 なぜ、「イスラム国」はこれほどまでに台頭したのか。その背景を知るには、アサド政権と自由シリア軍をはじめとする反体制派による内戦が続き、昨年8月には首都ダマスカス郊外でサリン事件が発生したシリア情勢を理解する必要がある。

 元シリア大使で、『シリア~アサド政権の40年史』(平凡社新書)『報道されない中東の真実~動乱のシリア・アラブ世界の地殻変動』(朝日新聞出版)などの著書がある国枝昌樹氏が10月11日に続いて岩上安身のインタビューに応じ、日本や欧米のメディアでは報じられない中東情勢の実相について語った。

 今回のインタビューでは、話題は中東情勢にとどまらず、ウクライナ危機から、エネルギー地政学の分野にまで拡大。ロシアから欧州に張りめぐらされたパイプライン網に、中東の”金満国家”であるカタールがわって入ろうとしているのでは、との分析などが紹介された。

■イントロ

  • 日時 11月6日(木)17:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京・港区)

シリアでの民衆蜂起、裏には一部の人間の思惑が

岩上安身(以下、岩上)「本日は元シリア大使の国枝昌樹氏さんにお話をうかがいます。前回に続いての登場です。

 新刊『報道されない中東の真実』は本当に読み応えがあります。現在のシリア情勢は、イスラム国に限らず、ロシアやNATOも視野に収める必要があるのではないでしょうか。

 今回は、シリアでの民衆蜂起からお話をうかがいたいと思います」

国枝昌樹氏(以下、国枝・敬称略)「2010年12月にチュニジアでアラブの春が始まり、それがエジプト、リビアへと飛び火していきます。そういう動きがありながら、シリアは当初は静かだったんですね。

 2011年2月に、シリアでインターネットが解禁されました。そうすると、すぐに『2011年シリア革命』というサイトが立ち上がり、デモへの呼びかけがなされました。そして3月18日に、ダラア市でデモが起こることになるんですね。

 しかし、ダラア市のデモは自然発生的なものとは言えないのではないでしょうか。翌3月19日には、葬儀に大統領の特使が参列しています。平和的なデモに混じって、武器を持った人物が治安当局を攻撃しました。裏に一定の思惑があったのではないでしょうか」

アサド政権による化学兵器撤去は「非常にスピーディー」だった

国枝「2012年からが第3幕です。この年は、アサド政権側が軍事的に反対政府派から押されていた時期です。というのも、もともとシリア軍というのは、対イスラエルのためのもので、内戦でのゲリラ戦に対応できるものではなかったんですね。

 2012年6月にアサド大統領が演説して『外国勢力』との総力戦を宣言します。これが、シリア政府の根本的な転換点でした。6月30日には『移行政権はシリア人が決める』というジュネーブ合意が結ばれます。これは、ロシアの後ろ盾によるものです」

岩上「米国は『アサド外し』ということをずっと言っていますから、アサド大統領の演説というのは、米国によるシリアへの介入を裏付けるものですよね」

国枝「オバマ大統領は、アサド大統領に辞任するよう迫り続けています。日本も、右へならえ、ですね。

 11月11日、シリア国民連合が結成されます。米国が色々と工作して、新しいものを作ろうとしたのですが、実情は、カタールとサウジアラビアの勢力争いなんですね。カタールとサウジアラビアはお互いリッチ同士ですが、利害は一致していません。

 2013年6月、クサイル市を政府軍とヒズボラ共同で奪還します。この間、自由シリア軍など反体制派がドンドン押していたのですが、政府側はイランの協力を得て、押し返していきます。それが、クサイルの奪還につながるんですね。

 そして8月21日、ダマスカス近郊でサリン攻撃事件が発生します。そして、2014年6月23日までに、シリア政府は化学兵器の搬出を官僚しました。しかし、9ヶ月で国内から化学兵器を無くすというのは、非常にスピーディーです。

 西側のメディアは、アサド政権は査察を妨害して、スムーズに化学兵器を廃棄するはずがない、と報じていました。しかし、化学兵器の国際管理というのは、アサド政権にとって、化学兵器の廃棄のための絶好のタイミングでした」

岩上「サリン事件をアサドがやったんだと早々に断定し、米国は武力介入をしようとしました。これは、非常に政治的な判断が働いたと考えざるをえません」

国枝「側近は、みな『武力介入をやれ』と言いました。しかしオバマ大統領は議会にはかりました。軍事行動というのは、非常にお金がかかるんですね。オバマ大統領は、軍事行動よりも外交を重視しています。それを、一部が、『オバマは弱腰だ』と批判しているのだと思います」

イランの存在をめぐり交錯するサウジアラビアとカタールの思惑

岩上「そもそものシリア内戦の原因についてですが、外国からの介入があるということでした。かなりゴチャゴチャしているので、今一度、整理していただけないでしょうか」

国枝「二項対立で整理するのには、無理があります。

 米国とロシアの対立、シーア派とスンニ派の対立、イスラエルとパレスチナの対立、世俗派とイスラミストの対立、これらがオーバーラップしているんですね。シリア情勢を考えるのには、虫の目で見るのと、鳥瞰的な視点、その両者が求められます。

 米国を中心とする西側諸国は反体制派を支援し、ロシアはアサド政権側を支援しています。米国は、もはやロシアを無視してはシリア問題を解決できなくなりました。ロシアからすれば、政治的地位を拡大するためのシリア、ということになります」

岩上「シリア・イラク危機とウクライナ危機を結ぶ線、というものを考えてみたいと思います。ウクライナ危機というのは、ロシアをドンドン追い詰めるというものでした。クリミアが突然西側に押さえられると、ロシアにとっては不凍港を押さえられるということですね」

国枝「8月21日のサリン事件の直前、イスラエル軍が巡航ミサイルでラタキアに保管されていた地対艦ミサイルを空爆しました。米国は、艦隊をキプロスに展開していました。また、サウジアラビアがヌスラ戦線と関係を持って事件を起こさせたという説もあります」

岩上「なぜ、そこまでして、サウジアラビアやカタールはアサド政権を倒したいのでしょうか」

国枝「大国であるイランの存在を考える必要があります。イランには核があります。イランを敵として、イスラエルとサウジアラビアは国益を共有しています。

 20世紀は、パレスチナ問題にアラブの大義がありました。しかし今や、サウジアラビアやカタールにとっては、イランのほうが問題として大きい。パレスチナ問題は、両国にとって遠雷でしかありません

 イランとシリアは、非常に密接です。したがって、サウジアラビアやバーレーン、カタールは、シリアを敵視するのです。しかし、自分の力でダマスカスを落とすことは出来ないから、米国に介入してもらおう、と。サウジは、そういう考えだったんですね。

 しかし、オバマ大統領が直前に回れ右をしてしまった。するとサウジのバンダル王子が、『米国はもう頼りにならない。これからはフランスだ』とフランスの大使に言うんです」

岩上「サウジアラビアは、イランをどうしたいのでしょうか。非核化では足りないのでしょうか。これだけの大国を破壊し尽くすことはできないですよね」

国枝「シリアをまずはやっつけて、テヘランの外交的な力を弱め、経済的に干上がらせようというのです」

シリア・イラク危機とウクライナ危機を結ぶ線

岩上「ヨーロッパとロシアは、天然ガスのパイプライン網で結ばれています。イランからシリアを通るパイプラインがあるとのことですが」

国枝「現在、イランからトルコにパイプラインが通っています。それを南下させて、アレッポに持ってこようとしています。

 もうひとつ、イランからイラクを通ってシリアへパイプラインを持ってくる、という話もあったようです。しかし、そこに引いてもすぐに爆発されてしまって、そんなことは出来ないんですね。考え方としてはあっても、それは絵に描いた餅なんですね。

 ヨーロッパに張り巡らせたパイプライン網に、カタールが乗り込んでいこうとしているんですね。その際、シリアを通らざるを得ない。しかし、アサド政権はそれを許さないだろう。従って、カタールは米国を使ってシリアに親カタール政権を打ち立てよう、と。

 しかし、そのパイプラインは、カタールからサウジアラビアを通らないといけないんですね。カタールとサウジアラビアは関係が微妙です。サウジアラビアからすれば、カタールは歯牙にもかけない小国です。笑止千万、ということですね」

岩上「ユーラシア大陸内部にパイプラインが張りめぐらされると、融和したランドパワーが実現することになります。これは、第一次世界大戦前に構想された、ベルリン-バグダッド鉄道を想起させます。しかしこれは、シーパワーである大英帝国に潰される、と。

 かつての大英帝国の位置に今あるのは、米国ですよね。欧州とロシア、さらには中国がパイプラインを通じて結びつくと、ユーラシア大陸内部で繁栄し、外部の力を必要としなくなるのではないか。そして、米国にとってそれは、非常に困ることなのではないか。

 ウクライナ危機を見ていると、米国は欧露間を分断させようとしています。シリア危機からウクライナ危機にかけて、米国はプーチンを悪魔化してロシアを追い詰めようとしているように見えるのですが、いかがでしょうか」

国枝「ソ連崩壊後、ウクライナやベラルーシの独立により、ロシアにとっての明白な緩衝地帯がなくなってしまいました。しかしウクライナには、重要な産業やロケット工場があります。ロシアにとってウクライナは、なくてはならない存在でした。

 しかしウクライナが、EU、さらにはNATOに入る、という話になりました。そうなると、これはロシアにとって、安全保障条の大変な危機です。これは、ロシアとしては受け入れられないものです。しかし欧州と米国は、そんなことはおかまいなしです。

 ドイツのシュレーダー元首相は、あまりにも東西冷戦の状況を忘れているのではないか、と警鐘を鳴らしています。一方、トルコが中央アジアに力を及ぼそうとしています。その点で、トルコとロシアは微妙な関係にあります。

 ロシアは今、被害者意識を強くしていると思います。そのような状態で、イケイケドンドンとロシアを攻め立てるのは、得策ではありません。緊張が高まるばかりでしょう」

岩上「NATOが東方拡大をして、BMD(弾道ミサイル防衛)を配備するのではないか、と言われています。そうなると、核兵器による相互確証破壊戦略が成り立たなくなります。米国は、対ロシアへの先制攻撃ドクトリンをやろうとしているのではないでしょうか」

国枝「イスラエルは、ハマスのミサイルをアイアンドームでほとんど撃ち落としました。技術的に、ウォルフォウィッツの先制攻撃ドクトリンは、可能だという自信があるのでしょう。しかしそうなっていくと、議論がどんどん拡大してしまうんですね」

「コバニの丘」をめぐってイスラム国を利用しているエルドアン政権

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2件のコメント “シリア・イラク情勢とウクライナ危機を結ぶ線 中東の要衝・シリアをめぐり展開されるエネルギー地政学 ~岩上安身による元シリア大使・国枝昌樹氏インタビュー

  1. 岩上安身による元シリア大使・国枝昌樹氏インタビュー第二弾 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/203941 … @iwakamiyasumi
    中東情勢、オバマ大統領の評価、エネルギー地政学、日本の孤立化など、日本や欧米のメディアでは報じられない中東情勢の実相を知れる貴重なインタビューです
    https://twitter.com/55kurosuke/status/530677270055120896

  2.  いつも非常に重要な番組をどうもありがとうございます。なんかとても深刻なことを伝えてくれているように感じます。それなのに私のほうにこの分野における基本的知識がないので、なかなかついていけません。情報鎖国の今の日本で、こういう世界情勢を理解するためには、かなりの情報をかき集める必要があるように思います。数日中にまとまった時間をつくってじっくりと鑑賞します。IWJの皆様も過労にならないようにお願いします。まずはお礼まで。

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