「親族すべてが腫瘍や甲状腺がんに。健康な者は1人もいない」 〜ベラルーシとドイツの市民が福島を訪問 2014.4.16

記事公開日:2014.4.16取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「汚染地域で生まれた子どものうち、健康な子は20%しかいない。残りの子どもたちの中には、免疫が低下する『チェルノブイリ・エイズ』も多い。甲状腺がん、遺伝子異常、腫瘍が多く発症している」──。

 2014年4月13日から20日まで、ベラルーシとドイツから、チェルノブイリの子どもたちへの支援や環境問題などに取り組んでいる市民団体のメンバー12名が来日し、広島、東京、福島を訪問。東日本大震災と原発事故後の現状を視察し、経験の共有と交流を行った。

 4月16日は、福島県郡山市の郡山市労働福祉会館にて講演会を行い、チェルノブイリ事故の体験談や保養制度、健康管理への取り組み、ドイツの市民団体によるベラルーシの子どもたちへの支援活動などについて語った。

 独裁政権が続くベラルーシでは、ルカシェンコ大統領が『チェルノブイリは終わった』と宣言したことから、海外からの公的な支援が受けられなくなったという。原発事故に関するデータは公式と非公式の2種類が存在し、ガイガーカウンターは購入できず、市民は放射線量の測定ができないことなど、ベラルーシの現状も併せて伝えられた。

■全編動画(18:34~ 2時間11分)

  1. チェルノブイリ原発事故の経験
    • リュドミラ・マルシュケヴィチ 当時の状況と経験、糖尿病の子どもたち支援について
    • マリア・ブラトコフスカヤ 当時の状況と経験、問題をかかえた子供たちの支援について
    • 事故後に育った若者たち 保養などの実態
    • ドイツに住む20代のベラルーシ人より 自らや家族の体験と、支援団体「チェルノブイリの子どもたち」について
    • ドイツより、草の根の市民運動
    • アンゲラ・ゲスラーほか 1986年より活動する「核の脅威のない世界のための市民団体」
    • 20代のドイツ人より 市民団体や若者の活動について
    • ユッタ・ガウクラー 市民発のソーラーコンプレックス社とエネルギーシフト
  • 日時 2014年4月16日(水)18:30~
  • 場所 郡山市労働福祉会館(福島県郡山市)
  • 主催 国際環境NGO FoE Japan (告知

 来日したのは、ベラルーシの団体「チェルノブイリの子どもたち」のメンバー6名と、ドイツ南部のロットヴァイル市で環境・エネルギー問題に取り組んでいる「核の脅威のない世界のための市民団体」のメンバー6名の計12名。この2つの団体は連携し、「チェルノブイリを風化させないこと。チェルノブイリ原発事故の被害者との連帯と支援。原子力エネルギーをなくすエネルギーシフトを目指すこと」などを掲げて活動している。この日は、ドイツのロットヴァイル市長からの親書や、ベラルーシのシンボルの鳥(シュバシコウ)のグッズなどを、福島原発告訴団団長の武藤類子氏に手渡した。

免疫力が低下「チェルノブイリ・エイズ」

 最初の登壇者は「チェルノブイリの子どもたち」のマリア・ブラトコフスカヤ氏。「チェルノブイリ原発事故の発災当時、自分は妊娠8ヶ月で死産した。理由は誰も教えてくれなかった。入院先にいた17名の妊婦も、同じように早産や死産だった。のちに、それが放射能のせいと知り、この支援活動をはじめた」と話した。

 「1989年、ミンスクで発足した『チェルノブイリの子どもたち』財団は、障がい者、避難者、高齢者、子どもたちの保養や疎開、社会的弱者、小児糖尿病患者などへの支援をしている。しかし、国からの援助はまったくない」と述べて、活動内容を紹介した。

 「汚染地域で生まれた子どものうち、健康な子は20%しかいない。残りの子どもたちの中には、免疫力が低下する『チェルノブイリ・エイズ』が多い。甲状腺がん、遺伝子異常、腫瘍も多く発症している」と語るブラトコフスカヤ氏は、保養プログラムを受けた子どもたちには、明らかに良い効果が現れることを報告した。

 そして、3ヶ月前、白血病で他界した団体創設者Gruschewoij Gennadij教授の遺言を、次のように紹介した。「もし、チェルノブイリの負の連鎖を無視したら、ベラルーシの未来はないと、私は自身の宿命によって説得したい…」。

 最後に、ブラトコフスカヤ氏は「チェルノブイリと福島は、人災として末永く禍根を残すことだろう」と訴えて、スピーチを終えた。

放置される小児糖尿病の子ども

 次に、リュドミラ・マルシュケヴィチ氏が、当時の状況と糖尿病の子どもたちへの支援について話した。「すでに、私の故郷は消滅してしまった。しかし、今では農業が再開されて、そこでとれた農作物が出回っている。チェルノブイリ被害は現在進行形だ」。

 原発事故による健康被害の中に小児糖尿病が挙げられるが、マルシュケヴィチ氏は「ベラルーシでは、糖尿病の子どもは一般の子どもと同じ学校へは行けない。政府は、小児糖尿病の子どもを差別している」と話し、国から適切なケアを受けられない小児糖尿病患者の実態を報告した。

 その上で、自分たちの活動内容について、「年2回の小児糖尿病の子どもとその親への教育、血糖値の計測方法の指導、血糖値管理の方法、医師による医療サポート、医療機器の補助と支給などを行っている」と紹介。「必要な知識を身につければ、糖尿病があっても生活は向上し、積極的に生きていけると指導している」と語った。

「チェルノブイリ」という言葉は禁句

 マルシュケヴィチ氏は、今回の来日中に福島の女性から聞いた話に触れて、「他の町に出かけている間に、原発事故で自宅が警戒区域になって戻ることができず、荒れていく自分の家をマスコミ報道で見るだけ、と聞いてショックを受けた。故郷を失くし、帰る場所がない悲しさは、私も身をもって体験した。これから生きていく困難さも、よくわかる」と語った。

 質疑応答では、ルカシェンコ大統領(1994年7月就任)の独裁政権下にある、ベラルーシの現状が伝えられた。大統領は「チェルノブイリは終わった。もう、放射能はない」と発言し、「チェルノブイリ」という言葉の使用を禁止。そのため、「チェルノブイリの子どもたち」という団体名を、ベラルーシ国内向けに「子どもたちの喜びのために」と変更したという。

 ブラトコフスカヤ氏は「ガイガーカウンターは自由に買えないため、私たちは放射線量の測定ができない。政府は、甲状腺がん以外の放射線由来の疾病はない、と公表している。食糧の安全政策もない。東京で、原発について日本政府に抗議する人々を見たが、ベラルーシでは、政府へ抗議デモをすると逮捕される」と語った。

公式の死者9000人。非公式では98万5000人

 今回来日したメンバーの中には、チェルノブイリ事故後に生まれた20代のベラルーシの若者4名が含まれている。「福島行き」に関しては、彼らの両親の心配などもあり、3名が自己判断で東京に残っているという。ひとりだけ福島に来たのは、サーシャという23歳の青年である。

 彼はまず、2006年発表の放射能汚染地図のスライドを見せ、チェルノブイリから17キロしか離れていない故郷の町、ビハウを指し示して、「チェルノブイリ事故の時、ベラルーシには全降下量の70%の放射性物質が降り注ぎ、20万人が避難した」と話した。

 「ベラルーシでは、いつも公式発表と非公式の2種類の数字がある。公式発表では、チェルノブイリ原発事故の死者は9000人。多くは事故処理従事者(リクビダートル)だ。しかし、非公式では98万5000人(発言は90万人。数字は資料より)が死んでいる」。

「チェルノブイリ」は消せない

 彼は「自分の人生から『チェルノブイリ』を消すことはできない。10年前まではいろいろな支援があった。年2回、外国から支援物資が届き、年に1度、赤十字による健康診断もあった。子どもたちが海外保養プログラムに参加することもできた」と言う。

 「しかし、ベラルーシのルカシェンコ大統領が『チェルノブイリは終わった』と宣言、情勢は変わってしまった。現在、公的ルートで人道支援などは受けられなくなった」と述べ、「自分は、日本の支援で建てられた『ナデージダ(希望21)』という名の保養施設で健康を回復できた」と感謝の念を表した。

 そして、「原発事故後に清掃作業をした自分の父は、今、リューマチと心臓疾患を患っているが、被曝との因果関係を証明できない。親族すべてが腫瘍、甲状腺がんなどを患い、健康な者はひとりもいない。皆、事故後、数年経ってからの発病だ」と語った。

事故から28年、ベラルーシで多発する乳がん

 質疑応答になり、ブラトコフスカヤ氏が「現在、ベラルーシの女性の間では乳がんが増え、1日に5人が乳がんと診断され、1人が死亡している」と、今年3月のベラルーシの新聞記事を見せた。

 その後、福島の現状について、武藤類子氏が「原子炉から、いまだに放射性物質が放出され続けているにもかかわらず、政府と自治体は避難者を帰還させようとする。放射線量の安全基準も、年間1ミリシーベルトから、20ミリシーベルトに引き上げた」と話した。

 また、これまで75人に見つかった小児甲状腺がん(疑いも含む)、増加する仮設住宅での自殺者などについて、「チェルノブイリが辿った道と似ている」と懸念を示した。

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