「福島では、チェルノブイリの間違いを踏襲している」 〜27年目のチェルノブイリから―野呂美加が3.11後にヒロシマに伝えたいこと― 2013.10.3

記事公開日:2013.10.3取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・曽我/奥松)

 2013年10月3日、広島市の広島平和記念資料館で、お話会「『27年目のチェルノブイリから』-野呂美加が3.11後にヒロシマに伝えたいこと-」が行われた。

 NPO法人「チェルノブイリへのかけはし」代表の野呂美加氏は、チェルノブイリ原発事故のあと、周辺に住む子どもたちの保養プロジェクトを続けている。長年、放射能汚染や被曝の問題に携わってきた知見をもとに、福島の現状と日本の将来について、ベラルーシとの比較に基づいて解説した。

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  • 日時 2013年10月3日(木)
  • 場所 広島平和記念資料館(広島県広島市)

汚染地域の人口は半減。身長が伸びない子どもたち

 野呂氏は、現在のチェルノブイリについて、「1ヵ所も復興しているところがない。汚染地域の人口は、200万人だったところが100万人に減っている。事故後15年くらいで、異常出産はピークを迎えた。ベラルーシでは人口が増えない」と述べた。その理由について、「今、汚染地域では10人に2人しか妊娠できない」と、不妊が原因であるとし、「汚染地域では事故後2〜3年で、はっきりと死亡率と出生率の逆転が起こり、それが国全体で逆転するのは、ソ連崩壊も影響した6年後のことだ」と補足した。 

 野呂氏は「甲状腺が悪いために成長ホルモンが出なくて、背が伸びない子どもはベラルーシにはいっぱいいる」と説明した。「最初はチェルノブイリの人たちも、『汚染されたものを食べても影響がない』と言われていた。それが、原発事故から5年経った時、爆発的に小児甲状腺がんなどの異常が出てきた。100人中98人が何らかの異常があったが、その多くは病名が付かない発病予備軍。異常は甲状腺のトラブルと関連したものが多く、身長が伸びない、膝が痛いなどの症状だった」と語った。

除染作業をした男性たちが亡くなっていくベラルーシ

 続けて、「ベラルーシでは除染を禁止している。かつては除染をしていたが、除染作業に携わった人たちが亡くなっていったため、禁止された。ベラルーシでは母子家庭が多いのだが、除染作業をしたお父さんが亡くなっているからだ。親戚男性の全員が亡くなった、という人もいる」と語り、「福島のような放射線量の高い所を除染すると、チェルノブイリよりも早く健康被害が出るかもしれない。とにかく、放射能に触れさせない、撹拌させないことが大切だ」と話した。

 野呂氏は「福島や関東でも、チェルノブイリと同じことが起きる危険性がある」と指摘し、除染をして住民を帰還させようとしている政府の方針について、「今、福島でやっていることは、チェルノブイリの間違いを踏襲している」と厳しく批判した。「チェルノブイリでは、秘密、秘密でやってきて被害が大きくなり、死亡率と出生率の逆転などが隠し切れなくなり、ようやく基準を厳しくして検査を行い、教育をするようになった」。

 また、小児甲状腺がんの発症者数をチェルノブイリと福島で比較すると、「チェルノブイリでは10万人あたり発症者11人。現在の福島では10万人あたり20数人で、チェルノブイリを超えている」とした。「ベラルーシでは全年齢で甲状腺がんの発症が上昇し、ベラルーシ国民全員が甲状腺がんのリスクを負ったと言っていいほどになった」と述べ、今後、福島での健康被害が深刻になる可能性を示唆した。

血液検査もされず、内部被曝が切り捨てられる

 野呂氏は「1991年から1996年にかけて、日本から、広島と長崎の医師が旧ソ連に行き、35億円をかけて12万人の子どもたちにあらゆる検査を行った。しかし、福島の子どもたちには、血液検査もしてくれない。血液検査をするのは(甲状腺検査で)2次検査に回った子たちだけ」と、自国の子どもを守るための十分な努力がされていないことを指摘した。

 「医師が福島や関東で血液検査を行った場合、厚生省から『病名の付いていない子の血液検査をするんじゃない』と電話がかかってくる。しかし、国連からは『年間総被曝量1ミリシーベルトを超える地域にいるのに血液検査をしないことは、人権侵害だ』と言われている」と述べた。

 「国は、子どもの甲状腺異常と放射線の因果関係はないと言っているが、100万人に1人の稀な病気であるにもかかわらず、甲状腺の手術を受けた福島の子は、すでに10数人、20数人といる。福島の77%の子どもが、体重1キロ当たり55ベクレル以下なので、福島県立医大の山下俊一氏は『低過ぎて話にならない』などと言っているが、低くてもトラブルは起こる。低線量内部被曝が切り捨てられている」と、医師や国の認識のズレを問題視した。そして、「国は最後には『事故直後の被曝量がわからないから、初期被曝と健康被害の関係性を認めません』と言うだろう」と批判した。

山下俊一氏らの矛盾に満ちた行動

 また、福島の医師たちの「チェルノブイリでは4年後に甲状腺がんが急増したので、今起きているのは放射能の影響ではない」という説明に対して、野呂氏は「ベラルーシの先生が『事故当時、ベラルーシはエコーの機械がほとんどなく、ガンの症状はわかりにくい』と言っている。しかも、当時、山下俊一氏は自分の論文に『4年後に発見した時、小さな結節があった。その時にはリンパや肺に転移していた』と書いている」と、4年以内でも放射能の影響で甲状腺がんが発症する可能性があることを説明した。

 さらに野呂氏は、ベラルーシの人から「ベラルーシの甲状腺ホルモン剤は副作用が強くて苦しい。ドイツ製は高いけれども、副作用が少ない。日本人は貧しくないからドイツ製が買えて、しかも、武田薬品がドイツのホルモン剤の会社を買収したから、これから日本で甲状腺がんが増えても安心だ」と言われたことを明かした。「それで調べたところ、甲状腺ホルモン剤のメーカーが、福島県立医大の山下先生や鈴木先生とパンフレットを作っている。その裏には(武田薬品と提携している)あすか製薬と書かれていた」と述べ、「山下氏らは、甲状腺がんの予防に力を入れていないにもかかわらず、薬の販売には関与している」と指摘した。

国がやらないのなら、私たちがやるしかない

 野呂氏は「日本は今、危機的状況にある。放射能はものを酸化させるので、福島第一原発の汚染水のタンクは寿命がほとんどないと言ってもよい。4号炉から核燃料を出すのも危険が大きく、失敗すれば、もう人は近付けない。だから、プライドを捨てて、それぞれの全財産を投げうってでも解決しなければならない」と訴えた。

 子どもの支援についても、「国がやらないのなら、私たちがやるしかない。ここ広島から発信してほしい」と訴えた。「食べ物の放射性物質を測る市民測定所を作り、ネットに検査の情報を上げよう。子どもたちの給食に測定してない食材は出さないようにしよう。農業者や漁業者には、放射性物質の入ったものを拡散しないように話をしよう」と呼びかけた。

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