2013年5月30日(木)10時から、岡山市北区のきらめきプラザで「『チェルノブイリへのかけはし』野呂美加さんお話会 ~子どもたちの未来を守るために~」が行われた。
野呂美加氏は、チェルノブイリ原発事故で被災した子どもたちを、日本で保養させる活動に長年取り組んできた。3.11のあとは、福島の子どもたちへの支援も行なっている。野呂氏は、チェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故の、被災者への国の対応などを比較し、さまざまなデータを示しながら、甲状腺がんの問題など、原発事故がもたらした健康被害について話をした。
- 講演 野呂美加氏(NPO法人チェルノブイリへのかけはし代表)
- 日時 2013年5月30日(木)10:00~
- 場所 きらめきプラザ(岡山県岡山市)
- 詳細 よりはぐプロジェクト
- 主催 子ども未来・愛ネットワーク、ネットワーク寺子屋、よりはぐプロジェクト
はじめに、野呂氏は「国連科学委員会が『被曝線量が低いから、身体への影響はない。福島はチェルノブイリではない』という見解を出してきた。しかし、その根拠は何も示されていない」と話し、「ヨウ素の初期被曝を特定することができないにもかかわらず、『被曝線量は低いから』というのは疑問である。その『被曝線量』が、人の初期被曝を指すのか、場所の空間線量を指すのかも不明だ」と指摘した。
そして、「チェルノブイリ原発事故に関しては、『初期被曝の実態が明らかになっていないため、さまざまな病気が発症したとしても、放射能との因果関係は認めない』とする、IAEAの見解がある。それなのに、国連科学委員会が、被曝線量と健康を結びつけて『影響はない』というのはおかしい」と、重ねて疑問を呈した。
また、「今年3月にベラルーシへ視察に行った時、現地の人から『日本の原発事故の汚染は、チェルノブイリの1/10で済んでよかったね』と言われた。こういった日本国内のプロパガンダが、ベラルーシにまで届いているのか、と愕然とした」と述べた。
続けて、年間100ミリシーベルト(以下mSv)以下の被曝ならば、健康への影響はないとする言説を疑問視し、「御用学者たちは、勝手に100mSvの法則を持ち出しているが、この数値が安全であるという根拠はない。これは科学でも何でもなく、ある種の宗教に近い」と断じた。
次に、1991年から1996年にかけて、12万人の児童を対象に、ウクライナ、ベラルーシで実施された、チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトについて解説した。野呂氏は、このプロジェクトに関わった、放射線影響研究所の当時の所長、重松逸造氏の「チェルノブイリの甲状腺がんの増加は、風土病であるに過ぎない」という発言を紹介し、「当時、日本人医師によって、血液検査や尿検査、ホールボディカウンターやエコーでの検査が実施された。世界的には(彼らは)放射能に関するプロフェッショナルに見える。しかし、実態は、被曝の証拠を隠すプロフェッショナルである」と述べ、御用学者の問題点を指摘した。
また、年間積算被曝量5mSvが強制移住の基準値であるチェルノブイリの例を挙げ、「日本は年間20mSvの地域であっても、平気で人々を住まわせている。私は、科学者や政治家が『これくらいなら被曝させてもよいだろう』という判断を下し、人々がそこで生活させられている現状を、許すことができない」と憤った。
さらに、「日本は資本主義国家で、旧ソ連のチェルノブイリとは政治体制が異なることから、被災者への補償など、事故後の対応が注目された。しかし、日本政府は何もしないことを選んだように思える。そして、利権の構造は(水俣病を引き起こした企業の)チッソの時から変わらない。日本の政治は、金に対する愛情はあれど、国民に対する愛情はない。これは個々人が考えないといけない問題である」と語った。
チェルノブイリでの血液学的異常と放射能汚染との関係性や、検診で発見された甲状腺異常のデータ、汚染地図と疾病発症数の連動関係などを解説した野呂氏は、「あれだけの事故を起こしたにもかかわらず、被災者の健康への対応は、山下俊一氏という医師ひとりの指揮の下、法的根拠もないまま無責任に進められている。厚労省が対応にあたらないのもおかしい。事故から27年経って、チェルノブイリは、さらに放射線被曝に対する規制強化を進めている。なぜ、日本はやらないのか。日本の医学界は腐敗している」と批判した。
野呂氏は、ベラルーシでの甲状腺がん発症の推移を示しながら、「治療が遅れれば遅れるほど、深刻な事態になる」と指摘。「国内で甲状腺がん患者が急増した場合、国はどのように責任をとるのか。われわれが、今、やらなければいけないことは、治療拒否をしている専門医に対してクレームの声を上げることである。そして、利権を代表しない第3者委員会を設置し、疎開や保養、スクリーニングの体制を整えないといけない。一人ひとりが、犠牲になる人を見過ごさないこと、危機感を捨てないことが大事である」と語った。