「大事なのは、多様性を否定しないこと」 〜金子勝氏、飯田哲也氏が地域分散型社会の可能性を語る 2014.3.23

記事公開日:2014.3.23取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山/奥松)

 「地域の人々が、主体的に物事を決めていけるシステムの構築が、最終課題である」──。

 2014年3月23日、山口市の「パルトピアやまぐち」でトークイベント「山口発!これからの地域社会を創造する。~エネルギー、農業、食、酒、そして人という『地域資本』を活かして~」が開かれた。飯田哲也氏、金子勝氏とともに、農林水産政策研究所の前所長、武本俊彦氏、酒造会社社長で杜氏の澄川宜史氏、自然農園を営む福本卓雄氏を加えて、新たな形の地域自立社会について論じた。

■Ustream録画(再配信映像)
・1/4(15:00頃~ 15分間)前半

・2/4(12分間)前半〔続き〕

・3/4(1時間27分)前半〔続き〕/後半

・4/4(19分間)後半〔続き〕

  • 第1部トークセッション 前半
    登壇者 金子勝氏(慶應義塾大学教授)/武本俊彦氏(農林水産省農林水産政策研究所前所長)
    コーディネーター 飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所 [ISEP] 所長)
  • 第1部トークセッション 後半
    登壇者 澄川宜史氏(澄川酒造場 社長・杜氏)/福本卓雄氏(福本自然農園)
    コメンテーター 金子勝氏/武本俊彦氏/コーディネーター 飯田哲也氏
  • (第2部、第3部は録画に含まれません)

地域の創意工夫を発揮できる仕組みへ転換を

 はじめに金子氏は、農村部の崩壊をどのように防ぎ、地域社会を創造していくのか、という課題を提起し、そのキーワードとして「再生可能エネルギーを取り入れた地域分散型の社会」「6次産業」を挙げた。その上で、「非正規雇用者が増え、出生率も下がり、日本の社会は緩やかに衰退していっているが、エネルギーにしろ、産業にしろ、外部から得ていたものを地域で創り、外部に売り、持続可能な仕組みを構築することによって、これまでの流れが変わるのではないか」と語った。

 農業政策、食糧政策の中で「6次産業」を提唱した武本氏は、「戦後の日本では、米の生産調整を行う農業政策(減反)のような、統制経済的なことが行われてきた。これからは、分権的に、地域ごとに、そこにある資源をどのように利用していくかを考えるべき。地域の創意工夫を発揮できるような仕組みへ、方向転換が必要である」と述べた。

アメリカの金融資本主義に呑み込まれた日本

 金子氏は「実体経済中心だった社会が、1980年代以降、世界的に行われている金融緩和により、余った金が株や不動産などに流れ、それらが、景気を引っ張る構造に変化した。アメリカの金融資本主義のロジックに、日本は完全に呑み込まれている」とし、現状、企業の時価主義や、株価と連動してしまった内閣支持率などの問題点を解説した。

 その上で、「経済政策がうまくいかないからといって、ナショナリズムで乗り切ろうとする現在の安倍政権の動きは、非常にまずい」と力を込め、「これから、人々がどのようにして雇用を得ながら、希望を持って生きていけるかという問題は、経済的意味を超えて、日本社会を健全に保つことに結びついている。地に足のついた民主主義のベースを築くことが、その課題に応えられるのではないか」と指摘した。

「規制緩和で、すべてうまくいく」という嘘

 武本氏は「この国の土地全体を、どのようにマネジメントしていくかを考えなければならない。単純に、今、進められている縦割りによる規制緩和で、すべてがうまくいくというのは嘘だと思う。地域の人が主体的に参加して、物事を決めていくシステムの構築が最終課題であると思う」と語った。

 飯田氏は「問題の背景にあるのは、経済官僚の考え方だ。彼らは上から目線で、
国家主義的、かつ市場原理的だ。原発を含めて、自分たちのテリトリーはしっかり確保しながら、他の省庁の規制緩和に乗り出す。小泉政権には財務省が、今の安倍政権には経産省が密着して、えげつないやり方をしている。その対抗策を、地域社会で考えていこう」と語った。

大規模、大量生産社会から分散型社会へ

 トークセッションの後半では、澄川氏と福本氏が加わり、地域自立社会について意見を交わした。定年退職後に耕作放棄地を借り受けて、無農薬で米を作り始めたという福本氏は、「慣行的な農業のマニュアルに頼らず、自分で考えて米を作っている。飯田さんの依頼で、澄川さんに納める酒米を作るようになった」と話し、飯田氏プロデュースのもと、山口で地酒を作っている澄川氏は、「生まれ育った環境の良さをお酒づくりに込めたい」と語った。それを受けて武本氏は、「創意工夫によって付加価値を高め、ブランド化することも可能である。大事なのは、多様性を否定しないこと」と述べた。

 金子氏は「ひたすら大規模化して、大量生産して、コストを下げていくやり方は、人口が増え続け、経済が成長している時代だけに通用するものである。農業もエネルギーも、環境や安全の観点からすると、分散型に転換していった方が良い。コストは高くつくが、ネットワークを構築していけば、効率的で安定的なものにすることが可能である。いろいろなビジネスモデルが、地域から出てくれば、日本の政治も多少変わるのではないか」と語った。

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