原発再稼働「空母時代に戦艦大和を作るようなもの」 ~金子勝氏、景気循環「変容」の議論も 2014.3.8

記事公開日:2014.3.8取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2014年3月8日、京都市下京区の池坊短期大学こころホールで、金子勝氏(慶応大学教授)の講演会「日本経済のゆくえ~原発やTPPにもふれながら~」が行われた。

 前半は経済に関するスピーチで、金子氏が指摘したのは、1980年代以降、日本の景気循環の中身が、高度成長期のそれとは様変わりしている点。80年代バブル期以降、日本でも「金融資本主義」が景気循環に多大に影響しているとの見方で、設備投資の強弱や在庫の増減を視点にした古い景気観では、日本経済のこの30年間の流れを、正しく把握することはできないと力説した。

 「安倍晋三氏に首相が交代したという事実と、彼が打ち出した経済政策のアベノミクスの(脱デフレという)スローガンだけで、株価が大きく上昇した」――。金子氏は、金融資本主義の象徴ともいえる海外投機筋は、もっともらしい「株価上昇物語」が成立する国を標的にする、と指摘した。アベノミクスには、世界から余剰マネーを集めるだけの「話題性」があると踏んだ彼らは、大量の資金を日本に注入し、無理に株価を吊り上げてバブル景気生成の流れを作った、というのである。

 問題は、海外投機筋が、いつ手持ちの日本株を手放すかだ。これについて金子氏は、彼らの「売り逃げ」が本格化すれば、東京市場の株価は暴落し、今の好景気ムードは吹き飛んでしまうと強調。海外メディアが、アベノミクスの『第3の矢』を冷ややかに見ていることなどについて言及した。

 講演の後半では、「エネルギー政策」をテーマに熱弁。原発は時代遅れの技術であることを何度も訴えつつ、「反原発」を叫ぶだけでは不十分、とも強調。再生エネルギーの、コンピューターを活用した地域分散型ネットワークの実現まで視野に入れた市民アクションこそが、「時代の要請」と力を込めた。

 「1970年代までは、モノやサービスを作っている人たちが、日本経済の真ん中にいた。その分、庶民は景気の良し悪しを実感しやすかった」と振り返った金子氏は、1971年8月の、金と米ドルの交換を停止したニクソン・ショックを背景に、米ドルの供給に関する縛りがなくなっため、金融緩和でダブついた米ドルが株式や不動産に向かうようになり、「金融資本主義」の時代が幕を開けた、と説明した。

 そして、1980年代中盤、米国は当時の日本に対し、「内需拡大」を迫ることで金融資本主義(金融緩和)を移植。その結果、日本に生成されたのが、世に言う「80年代バブル」であると続けた金子氏は、こう述べた。

 「それ以降、日本の景気循環は、実体経済ではなく、株や不動産の価格に左右される『バブル型』の様相を呈した。それは日本でも、有価証券を持っている富裕層しか、好景気を実感できない時代が続いたことを物語っている。だから今回も、資産運用とは無縁の大多数の日本人は、アベノミクスによる好景気を実感できないでいる」。

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モノづくりよりも資産運用

 金子氏は、富裕層に好景気を実感させ(=彼らに贅沢品を買わせ)、その波及効果で庶民をも豊かにするという発想の、新自由主義政策には期待できないと訴える。「景気が良くなると、一番最後には労働市場が活気づく。だが近年では、改善の中身が非正規雇用の拡大になりやすく、その傾向は今後も変わらないと思う」。

 また金子氏は、金融資本主義の精神は、メーカーなどの経営者にも刷り込まれており、それが日本の産業界の国際競争力を弱めた、とも指摘した。

 「(2001年3月期に導入された)会計基準の米国化を受け、従前の簿価主義が『時価主義』に変更された。つまり、本業はぱっとしなくても、資産運用で株や不動産を買って儲かれば、それだけで業績は跳ね上がる」。

 金子氏は株高と、輸入収益を押し上げる円安を同時に実現させた安倍政権を、経済界が応援するのは当然のこととし、「(短期の視座で合理性を重視する)今の日本のメーカー経営者は、かつての本田宗一郎(ホンダ)や盛田昭夫(ソニー)のようには『モノづくり』を重視してない」との見方も示した。「低廉な労働力を求めて加速した日本メーカーの海外シフトも、技術流出の点で、アダとなった面は否めない」。

海外メディアは「第3の矢」を評価していない

 そして、「この国では、正義を語る首相より、株価を語る首相の方が支持率が上がる」と続けた金子氏は、「もはや日本の政治は、米国の『金融資本主義』のロジックに完全に飲み込まれている」とし、会計基準の米国化も、その象徴と指摘。「アベノミクスは、外国人投資家に受ける、株価を上げるための政策で、安倍氏には、株価上昇を通じて自分の支持率を高位安定させようとの狙いがある」と語った。

 なお、今年に入り、上昇の勢いに陰りが見え始めた日本の株価については、「ここに来て、アベノミクスの評判が落ち始めている。(金融緩和と財政出動の次にくる、景気回復の本格化でもっとも重要な)『第3の矢(成長戦略)』には、今のところ(産業地図の刷新につながる)パワーが感じられないということで、米欧メディアはアベノミクスを批判する記事を出している」と述べ、米国の金融緩和縮小も、日本の株価にとってはマイナス材料とも指摘した。

 その後、金子氏は「原発再稼働」に話題を移すと、開口一番、「(原発推進派が繰り返す)『原発を維持しないと、日本経済は上手くいかなくなる』という主張は、まったくのデタラメ」と言い切った。

コンビニの成功に範を取れ

 その上で、「原発を維持すれば、日本の産業構造の転換がますます遅れる」とし、原発産業は、大規模化をテコにコストを削減する、集中メインフレーム型の古い産業構造の代表格の1つである、と強調した。

 金子氏は、日本は産業構造の転換に遅れていることを重ねて訴え、「人口減に見舞われることになる日本の場合、規模を拡大して安く大量に売るやり方は、特にそぐわない」などと解説した。

 21世紀はコンピューター分野の技術革新を生かした「地域分散型ネットワーク」の時代であり、それに即した産業が主役に躍り出る、と力を込めた金子氏は、業績が好調な「コンビニエンスストア」の名を示した。

 「コンビニは、販売時点情報管理(POS)システムでネットワーク化されているため、どの地域のどの店舗で、何がどれだけ売れているかが、データとして集積される。つまり、在庫を多く抱える必要がなく、バーゲンセールで売れ残りを処分する負担とは、ほぼ無縁だ。また、顧客ニーズも瞬時に把握できるため、商品陳列を機動的に変えることもできる」。

 金子氏は、各住宅の屋根に太陽光パネルを設置し、それをコンピューターでネットワーク管理すれば「仮想発電所」が実現するとし、こんなことを述べた。「言ってみれば、(すでに行き詰まり感がある)巨大スーパーが原子力発電で、コンビニが再生エネルギーだ」。

脱原発の議論は「産業創出」を視野に入れて

 「再生エネに関しては、『天候に左右される』などと問題点を指摘する向きがあるが、ネットワーク化で、その弱点は埋められる。『自分たちで、この地域の電力を賄っていく』という気概が、住民の間に生まれれば、各地域の自立が実現するだろう」。金子氏は、今や原発推進論はまったくの時代遅れであるとし、「航空母艦が全盛の時代に、沈められることが明白な戦艦大和を作れ、と叫んでいるようなものだ」と揶揄した。

 さらにまた、金子氏は「原発は不良債権化している」とも。「原発は、止めていれば赤字を生むだけ。『廃炉』を行うにも、会社が潰れるほどのお金が必要になる。だから、電力会社は原発を動かしたいのだ」。

 金子氏は「東京電力は、すでに死んでいる」とした上で、「20兆円もの借金を、年間1000億~2000億円の収益で、どうやって返していくのか。そんな東電を助けるためにお金を使うのなら、そのお金を被災地に振り向けろ」と語気を強めた。

 そして、「今の日本は、国民には自己責任原則を強要しようとしているのに、東電をはじめとする、当該する原発推進者には、フクシマショックの責任を取らせようとはしない。われわれは、こういったおかしな体質を突き破らねばならない」と続け、次のように話した。

 「脱原発の運動は、『原発をなくせばいい』で思考を止めてしまうのではなく、再生エネを活用した、豊かな新産業を日本に生み出していこうとする気概が大切だ。脱原発の運動で、若い世代のための、再生エネを軸にした新しい社会システムを作り、豊かな雇用を創出していかねばならない」。

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