「フクイチでは放射能を恐れぬ作業員が勇敢とされていた」 被曝限度引き上げに懸念~岩上安身によるインタビュー 第143回 ゲスト 東電社員・蓮池透氏 2011.7.12

記事公開日:2011.7.12取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

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 2011年3月に起きた福島第一原発事故により、現場作業者の被曝線量の上限が100ミリシーベルトから250ミリシーベルトへと、一時的に引き上げられた。

 その後、上限は100ミリシーベルトに戻されたが、事故発生から3年余りが経過した2014年7月30日、原子力規制委員会は「原発事故など緊急時対応の作業者の被曝上限を、再度引き上げる可能性を探る検証を行う」と発表した。

 規制委員会の田中俊一委員長は、「福島第一原発事故の実態を踏まえた上で、現実的な対処のあり方を検討したらどうか」と述べ、国際原子力機関(IAEA)が示している、「緊急時は500ミリシーベルト未満」とする指針を参考にするとした。

 3.11のフクシマショックから3ヵ月が経過した2011年7月12日、岩上安身は、北朝鮮による拉致被害者の蓮池薫氏(2002年帰国)の兄、蓮池透氏を東京都内でインタビューした。蓮池氏は元東京電力社員であり、大学新卒での入社後、最初に配属された先が福島第一原発だったという経歴の持ち主だ。

 自身も3年間で100ミリシーベルト被曝した、と明かした蓮池氏は、大勢の下請け作業員によって支えられてきた日本の原発の実態や、下請け作業員の安全管理に万全とは言い難い面があったことを明かした。被曝上限の、一時的な250ミリシーベルトへの引き上げについて蓮池氏は、「低・中線量被曝の健康被害の十分な検証が進んでいない以上、それぐらいは大丈夫とタカをくくるべきではない」と訴えた。

フクイチで「被曝の影響は少なからず存在していた」

 蓮池氏は、1977年に東京理科大学を卒業して東京電力に入社。以後、2009年まで同社で正社員として勤務してきた。

 最初の赴任先が福島第一原発で、そこで約3年半、計測制御装置のメンテナンス業務などに従事していた。

 岩上安身が「高線量の被曝リスクが降りかかってくる現場で働いたこともあったのか」と問いかけると、蓮池氏は「東電の社員は、原則として自分では作業をしない。いわゆる下請け会社の人たちが現場に出て、東電社員は彼らの監督・管理を行う」と答え、次のように述べた。

 「ただ、最終チェックの段階で、東電社員も原子炉内部に入るため、そこで被曝することはあった。あの当時は原発内部が、今ほどクリーンではなかったため、(ことに作業員の場合は)被曝のリスクが今よりも高かったはず。原発労働による被曝で死んだ作業員がいるとは思いたくないが、がんに罹病した作業員の労災申請が認められているケースもあり、被曝の影響は少なからず存在していたと判断せざるを得ない」。

 いわゆる「下請け」は、第5次下請けぐらいまで何重もの層によってなされており、内実は極めて複雑だった、と振り返る蓮池氏。「作業に入る前に、東電の社員も含めて全員がパンツ1枚になって着替えるのが慣行で、そうすると、背中に入れ墨がある人と一緒になる機会がけっこうあった」。

被曝を恐れないことが美化されていた

 当時から、福島第一原発全体で、多くの請負業者から送り込まれた大勢の作業員が汗をかいていた、と蓮池氏。「あの頃すでに、ホールボディカウンターによる内部被曝検診や、放射線管理手帳による外部被曝チェックという形で、作業員の被曝管理が実施されていたが、抜け落ちがなかったとは言い切れない」と語り、さらには、「作業員の間には被曝を恐れないことを賞賛する雰囲気すら漂っていた」と続けた。

 蓮池氏によれば、身に着けた、高線量を知らせるアラーム機器の音がうるさいからと、それを線量が低い場所に置いて、「俺が全部やってやる」という勢いで、わざわざ危険な現場に自ら突入して行くことが、作業員の間では、ある種の武勇伝として語られていたという。

 それを聞いた岩上安身は、「危険を恐れない男をマッチョ(勇敢)と見なす風潮は、普遍的にある。IWJのスタッフが福島の現地で得た情報では、3.11から約1ヵ月後の、雨にかなりの放射能が含まれているとみられていた時期に、小中学生の間には、水たまりに突っ込んで度胸試しをする動きがあったらしい。私は、非常に胸が痛んだ」と話した。

 蓮池氏自身も、新入社員として福島第一原発に配属されると、東電の先輩から放射線量の高い場所に連れて行かれて、アラーム機器のビープ音の恐怖を体感させられたという。「さすがに今は、そんなことはやっていないだろうけど、まったく無駄な被曝だった」と、当時を振り返った。

自身も3年間で積算100ミリシーベルトを被曝

 岩上安身が、今回の原発事故を受けて政府が、現場で対処に当たる作業員の被曝線量の上限を250ミリシーベルトに引き上げたことについて、コメントを求めた。

 蓮池氏は「ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に従っているのだろう。事故時の250ミリシーベルトという値は、法令違反にはならないが、被曝はしない方がいいに決まっている」とした上で、自身も3年間の積算で100ミリシーベルトの被曝をしていると告白しつつ、次のように訴えた。

 「250ミリシーベルトという値は、すぐに死につながるほど高くはないが、そういう中間レベルで被曝した人たちの、健康被害の検証が進んでいないのは事実。よって、タカをくくらない方がいい。国や東電は、中間レベルの被曝者の健康動向に関する追跡調査を行うべきだ」。

「東電の社員が信じていた原発安全性は机上の空論だった」

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