2013年5月11日(土)14時、神戸市東灘区の東灘区民センターにおいて、「憲法が危ない!3連続学習講座」が開かれた。
この講座は、護憲を掲げる市民団体「九条の会.ひがしなだ」が3回連続シリーズで開いているもので、第2回目となる今回は、羽柴修氏(9条の心ネットワーク事務局長)が「自民党改憲草案と秘密保全法」というテーマで講演を行った。羽柴氏は、兵庫スモン薬害訴訟や尼崎道路公害訴訟など数多くの裁判において、原告弁護団の事務局長や責任者を務めている弁護士である。
羽柴氏は、自民党政権、とりわけ安倍晋三首相の軍国主義的な姿勢について懸念を示し、集団的自衛権の行使などを禁ずる、内閣法制局による5項目の政府公式見解を紹介した。これに関連し、公海上で攻撃された米艦の防護や、米国を狙った弾道ミサイルの迎撃、PKO参加中に攻撃された他国軍の救援、戦闘地域での他国軍への後方支援という4項目(安倍4類型)を、「独立国家であれば持っている当然の権利。現行憲法9条の下でも行使できる」と安倍首相が従来から主張していることを紹介した。
- 内容
羽柴修氏(弁護士、9条の心ネットワーク代表)「自民党改憲草案と秘密保全法」
- 日時 2013年5月11日(土)14:00~
- 場所 東灘区民センター(兵庫県神戸市)
- 主催 九条の会.ひがしなだ
また、安倍首相の歴史認識について、「村山談話を否定するような発言をしている。「侵略」を取ってしまい「わが国が迷惑を掛けた」ことだけを踏襲している。こういうことをするから、アメリカでさえ『安倍首相は極右の首相』だと言い始めている」と述べたほか、安倍首相が従来から、「戦後レジームからの脱却」と明言していることについて、「脱却すると言うなら、その極めつけである日米安保体制を打破することだ」と述べた。
集団的自衛権に関連する懸念材料として、国家安全保障基本法案についても言及した。この法案において、「わが国と、わが国と密接な関係のある他国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態のときには武力行使できる」と規定されていることを紹介した。これについて、羽柴氏は、「憲法9条が禁じている集団的自衛権行使ができるように規定する、明らかに違憲の法律だ。政府見解にも違反している。だから、議員立法という形で上程し、内閣法制局のチェックを素通りさせる魂胆があるのだろう」と述べた。また、この法案に秘密保全に関する条項が設けられていることに注意を促した。
続いて、羽柴氏は、「国民主権・基本的人権の尊重・平和主義は、憲法改定手続きでも変えられない、極めて重要な原理原則である。これに手をつけようというのが、自民党の憲法改正草案である」と述べた上で、現行憲法と自民党改憲草案とを対比しながら、現行憲法の素晴らしさと改憲草案の危険性を訴えた。
まず、現行憲法の前文に用いられている「平和を希求」という言葉について、「日本はアジアで何千万人も殺し、わが国でも数百万人が亡くなり、原爆も2個投下された。治安維持法の拷問で亡くなった人もいる。その経験が込められている」と述べた。また、現行憲法前文に、「悲惨な戦争を繰り返さない」との反省に基づき、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうに決意し」と書かれているのに対し、自民党の改憲草案では、「先の大戦による荒廃」としか書かれていないことについて、「この戦争を起こしたのは誰なのか。完全に欠落している」と批判したほか、「天皇は国家元首」と規定し、「国旗と君が代を尊重しなければならない」と規定していることについて、「天皇を偉い人だと崇め立て、国民は天皇に服属し、天皇中心の国づくりを強制するもの」と述べた。
現行憲法9条については、「『絶対に国際紛争を武力で解決しない』という先進的な平和主義を、世界で唯一表明した国。日本は、攻めてはいけない国、攻められてはいけない国である」とした。一方で、自民党改憲草案9条において、国防軍を規定し、その役割として、「公の秩序を維持する、または国民の生命もしくは自由を守るための活動」と記述していることについて、羽柴氏は「騒乱や内乱が起きたときに、国民に鉄砲を向けるということになる」とした。また、軍事裁判所の設置を規定していることについて、「戦地派兵を拒否する隊員を軍事裁判所で裁くもの。さらに、いずれは戦地派兵を拒否する隊員が増えてくるので、徴兵制が視野に入っている」とした。
自民党改憲草案12条において、基本的人権に関して「自由や権利には、責任および義務が伴うことを自覚し」と規定していることについて、「最初から、国民に義務を負わせることを前提とし、国民は『権利だ、権利だ、と言うな』ということだ」とした。また、「常に公益および公の秩序に反してはならない」と規定していることについて、「基本的人権の制約を、他者との権利衝突の際のみに限定している現行憲法とは大きく異なる」と述べた。
自民党改憲草案21条において、集会・結社・言論の自由について「公益および社会秩序を害することを目的とした活動は認められない」と規定していることについて、「例えば日本共産党は『公の秩序に反する』として認められなくなる可能性がある」とした。自民党改憲草案24条において、「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重」「家族は互いに助け合わなければならない」と明記していることについて、「家族が何親等だとかどうのこうのいわず、お金があれば助け合いなさいということ。要は、生活保護に頼っていたらアカンよ、と憲法で言っていることになる」としたほか、「天皇を元首として戴く国家として、『家制度の頂点に天皇がいる』という思想に結びつく」とした。
自民党改憲草案64条において、政党に関する事項を法律で定めると規定していることについて、「昔、自民党が目指した『一定割合以上の得票』『所属国会議員35人以上』『有権者10万人以上の念書』といった規制の動きが再び起きる可能性がある」とした。
現行憲法96条において、憲法改正要件を国会議員の「3分の2」と定めていることに関連し、自民党改憲草案100条では、憲法改正手続要件を過半数に緩和することが規定されていることについて、「現行憲法だけが手続きを厳しくしているわけではない。ドイツやフランスなど多くの諸外国では『3分の2』『4分の3』『5分の3』と規定している」とした。
また、「憲法改正と国民投票をセットで実施した国はあっても、憲法改正の手続き緩和のためだけに国民投票をした国は世界に一つもない。96条改正は、憲法を法律と同じようにいつでも変えられるようにするのが狙いだ」とした。
現行憲法97条において、「基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託された」と規定されていることについて、「現行憲法97条は、国民が勝ち取ってきた、天賦人権説に基づく基本的人権を、自分たちで守り抜いていかなければならないことを規定した、現行憲法で最も重要な条文の一つである」と強調した。その上で、自民党の改憲草案では、この条文が丸ごと削除されていることに懸念を示した。
自民党改憲草案98条において、緊急事態宣言を規定していることについて、外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、大規模な自然災害などにおける「戒厳令である」とした。また、「社会秩序のためには基本的人権を縛り、震災復興のためには『我慢しろ』というものだ」とした。また、自民党改憲草案99条において、98条に規定された緊急事態宣言の発令時に、『何人も、国その他の公の機関の指示に従わなければならない』と規定していることについて、「公益や公の秩序というのは、こういう時に効力を発揮する」とした。
羽柴氏は、「自民党の改憲草案はひどい内容だが、このひどい内容だからこそ、なおさら、今の安倍首相の暴走や国会議員の暴走を止めることができると私は思っている」と力強く述べ、聴講者を鼓舞した。
講演の最後に、秘密保全法について言及し「国民の手足を縛る最たるもの。罪刑法定主義を無視しており、何が秘密なのか、何をしたら処罰されるのかさえわからなくなる。秘密が漏れたかどうかは関係なく『教えて』と言っただけでも処罰の恐れがある」と危険性を指摘した。また、罰則規定について、現行の国家公務員法の1年以下、自衛隊法の5年以下の懲役に比べ、秘密保全法では10年以下の懲役と、刑罰が重い点にも懸念を示した。
継続は力なり、と言いますが、粘り強く、力強い運動の重要性を、あらためて実感しています。
唖然とするようなことが多い情勢だけに、一致するテーマでの共同が広がるよう、念じてや
みません。
今こそ、踏ん張りどきですね。