2024年5月7日午後1時より、東京都千代田区の日本外国特派員協会(FCCJ)にて、記者会見「公立学校を支配しているのは誰ですか?」が開催され、元大阪市立木川南小学校校長の久保敬氏が、維新の大阪市政による教育現場への管理・統制強化を厳しく批判した。
会見には、大阪公立大学准教授の辻野けんま氏が、米国・ヒューストンから、Zoomで参加した。
コロナ禍の2021年4月19日、当時の松井一郎大阪市長が、定例記者会見で突然、「大阪市立の小中学校は、全面オンライン授業を行う」と発表した。
この発表がニュースで報じられた時点で、学校側はまったく何も知らされていなかった。久保氏は、心配した保護者からの電話で初めて、その事実を知ることになったという。
久保氏は、「全国に先駆けてオンライン授業を『やります、できます』という、松井市長の政治的なパフォーマンスに教育が使われている」と感じ、「憤りが湧きおこった」と、当時を振かえった。
松井市長の言う通りにオンライン授業を実施すれば、学校だけでなく、子供や保護者にも大きな負担がかかり、混乱することは目に見えていた。そして、久保氏の予想どおり、学校現場は大混乱となった。
「教育現場への想像力を失い、政治化されてしまった教育行政には、本当に失望するばかりでした」。こう述べた久保氏は、次のように続けた。
「おかしいと思いながらも、自分一人が何か言ったところで、変わるわけでもない。仕方がないと思考停止し、やり過ごしていた自分がいました。
気がつけば、管理・統制強化の教育施策が、どんどんトップダウンで降りてきて、学校現場は硬直し、息苦しい場所になっていきました。(中略)
『このまま何も行動せずに定年退職をしたら一生後悔し続ける』と思いました。これは直接、市長に言うしかないと思い、2021年5月17日に、松井市長あてに提言書を郵送したのです」。
- 大阪市立木川南小学校・久保校長の「提言」全文(朝日新聞デジタル、2021年5月20日)
久保氏は、この提言書を咎められ、明確な理由も示されないまま、「文書訓告処分」を受けた。
この処分に対し、弁護士団体や市民団体などから、多くの文書訓告取消の要望が、教育委員会に届けられた。
久保氏自身も、周囲からの声援を受け、教育委員会へ文書訓告取り消しの要望書を提出したが、教育委員会からは何の返答もなかったとのこと。
一方、この久保氏の提言書は、ミネソタ大学名誉教授のクレイグ・キゾック氏の目に留まり、キゾック氏が大阪公立大学の辻野氏に、「米国の状況とも通底する」との感想を寄せた。これがきっかけとなり、久保氏とクレイグ氏のジョイントセミナーが開催された。
その後も、ドイツ、マレーシア、キューバ、ブルガリア、インドネシアの教育研究者たちと久保氏との間で、これまでに計6回のジョイントセミナーが開催された。
久保氏は、海外の研究者たちから「文書訓告をこのまま放置することは、後々の教育に悪い影響を及ぼすに違いない。正当性のない理由での文書訓告を許せば、さらに何も意見が言えなくなり、ますます抑圧的な学校になる」と言われ、2023年2月21日に、大阪弁護士会に「文書訓告取り消し」を求めて人権侵害救済申し立てを行なった。
記者会見で久保氏は、次のように語った。
「自分個人の名誉を回復したいというような思いではありません。(中略)
競争を強いられている現在、全国の小中高生の自殺者は、2022年が514人、2023年が513人となっており、自殺者全体の数は、この10数年で約30パーセンと減少しているのに対して、10代の小学生を含む子供の自殺率は上がっています。
また、10代の死因の第1位が事故ではなく、自殺というのも日本だけのことです。
これほどまでに子供たちが生きづらい社会とは、何なのでしょうか。
子どもの権利条約批准から30年、子供の最善の利益を考えたい。その一念です」。
詳しくは、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。