2023年2月11日、午後2時より、神奈川県相模原市のソレイユさがみにて、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」の主催により、「津久井やまゆり園『優生テロ』事件~戦争と福祉と優生思想~ 佐藤幹夫氏出版記念講演+トークセッション」が開催された。
冒頭、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」世話人の杉浦幹(もとき)氏より、あいさつがあった。
杉浦氏「今日は、『考え続ける会』にもずっと参加してきて下さった、佐藤幹夫さんが、昨年12月ですね、新しく本を出版されて、そのタイトルがご覧のとおり、『津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後』」ということで、副題が「戦争と福祉と優生思想」という、ちょっとグッとくるような、ぜひ佐藤さんからじっくりとお話をしていただく機会を作りたいなと思っていたので、(中略)早速、始めていきたいと思います」。
佐藤幹夫氏はフリージャーナリストであり、1979年から2001年まで、特別支援学校での勤務経験を持ち、「自閉症裁判―レッサーパンダ帽男の「罪と罰」(洋泉社2005年)」、「知的障害と裁き――ドキュメント 千葉東金事件(岩波書店2013年)、そして、ルポ 闘う情状弁護へ(論創社2020年)」などの著作があり、これまで、障害をもった方々が重大な事件の加害者となるケースについて取材を行なってきた。
佐藤氏は次のように言う。
佐藤氏「障害を持つ方が、司法に触れないような生き方をするにはどうすればいいか、あるいは、事件が起きたときに、どういう対応をすればいいのか。また、出所したあと、どういう受け皿を使って、どういう支援をすれば、再犯ということに手を染めないで済むのか。
そういうことを、一応、私なりに追いかけてきたテーマが、これで終わったなと、そろそろこういった事件をテーマにした仕事からは足を洗おうかなと思っていたところ、この『やまゆり園』の事件が起きた、という感じです」。
2016年7月26日未明、神奈川県相模原市緑区の「津久井やまゆり園(入所者149名)」という、重度の障害を持つ方々が入所している施設に、植松聖(さとし)死刑因が侵入し、施設職員を含む45人を殺傷した。2020年1月8日が初公判で、3月16日に一審の判決が出て、死刑を宣告された。再審請求が行われたが、すぐに却下された。
佐藤氏は、「取材拒否」、または「匿名性」といった言葉をキーワードとして、「やまゆり園事件」について語った。
佐藤氏「例えば、なぜ被害者・遺族の方が匿名になったのか? そこにはどういう問題が一体あるのか、なぜなのか、ということをちょっと突っ込んで考えていく必要があるんじゃないかということ。
それから、やまゆり園でも、なかなか自分たちのやっている支援について振り返る、振り返って、そこで掘り下げて何かメッセージを発信してくるということをしてもらえない。
そうしたら、それに対して施設が持っている問題というものを、やはりしっかりと、もっと掘り下げて考えていく必要があるのではないか。弁護団の匿名もそうですね。弁護士さんたちが匿名でずっと押し通すことによって、一体何がそこに生じてしまったのか。
そこに生じた問題を今まで、いろいろな本は本当にたくさん書かれているんだけれども、いったいあの裁判がどういう裁判で、何がそこで話し合われてどういうものだったかということがしっかりと今までみんなに提示できていたのかというですね。
その辺のことも、ちょっともう一回改めて考えてみる必要がある。それから植松死刑囚。私はだんだんこう考えるようになっていったのは、彼がしゃべっていたことは、本当にたくさん、いろいろな優生思想のことだとか、大麻のことだとか、障碍者のことだとかがいっぱい書かれて、語られているんだけれども、むしろ大事なのは彼が語ることを拒んだこと、語られなかったこと。
そちらの方に何かこの事件を考える非常に重要なヒントが隠されているんじゃないか、というふうに、今までの、その取材拒否ということをひっくり返して考えるという、そういうちょっと視点を持ちました」。
佐藤氏は、「取材拒否」や「匿名」といったものを成立させる背景について、以下のように考察する。
佐藤氏「まず一つは今、個人情報の保護ということが非常に厳しくなっていますし、そのことに対してとてもいろいろな形で配慮を求められる。この点があります。それから、あと取材される方も書かれる方も、今までは、書く方は結構、その辺は国民の、市民の知る権利をバックにと言ったらいいんでしょうか。
あまり、書かれる側の立場とか感情とか、どちらかというと、あまり考慮しなくても比較的書けたと思うんだけれども、近年、やはりだいぶ書かれる側にもいろいろな考え方があって、そのことが強く前に出てくるようになった。そして、それを無視して書いてしまうと、今度は裁判で訴えられるという事態にもなりかねない。
今、スラップ訴訟という言葉を聞きますよね。ある企業とか団体が、自分たちに向けられる批判を封じ込めるために訴訟を起こすという、そうすると、そのことに関して、訴えられた方は裁判が終わるまでは発言できなくなるので、二世の女の方がそうですね。
統一教会から訴えられちゃったことによって、もう今は発言もできなくなってくる。だから、そういう非常に書かれる側と訴える側と訴えられる側の関係が、今までのような形ではいかないという、そういう問題が、その取材拒否ということを考えた時に出てくる。
それからですね、今、『ポスト・トゥルース(※)の時代とかにおいて、何が現実で真実かということが簡単には決められなくなっている。特に、インターネット等々の中で、いろいろな陰謀論だとか、フェイクニュースだとか、戦争に関する情報が事実だと思っていたら、実はプロパガンダだったとか、もう本当にそういうことで何が事実か何が現実か決められない」。
佐藤氏の新著「津久井やまゆり園『優生テロ』事件、その深層とその後」は、全体が三部構成となっているが、その第三部で、佐藤氏は、植松死刑囚が犯行に至ったプロセスについて、「8つの仮説」を立てて、分析し、追いかけており、その仮説については、このたびの講演の中でも触れられている。その詳細についてはぜひ全編動画をご視聴いただきたい。