【特別寄稿】横浜市長選は小此木八郎氏、山中竹春氏、林文子氏の三つ巴の戦いに! カジノ誘致予定地では「米中戦争」が勃発!「隠れカジノ推進派」候補でほとぼりが覚めたら米系カジノを誘致か!? 2021.8.18

記事公開日:2021.8.18 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(取材、文・フリージャーナリスト横田一)

 菅義偉首相(神奈川二区=横浜市西区・南区・港南区)のお膝元である「横浜市長選(8月22日投開票)」が8月8日に告示され、菅首相が全面支援をする小此木八郎・前国家公安委員長と立民推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授(共産・社民支援)と林文子市長が三つ巴の戦いになりつつある。

▲左から山中竹春氏、林文子氏、小此木八郎氏(横田一氏提供)

 8月10日の朝日新聞が「小此木氏わずかに先行、山中氏ら猛追 横浜市長選情勢調査」と報じた通り、自公推薦に近い盤石の選挙態勢に見えた小此木氏が予想外に苦戦、野党統一候補の山中氏と4選を目指す林文子市長が猛追しているというのだ。菅首相の小此木氏への全面支援が追い風になるどころか、逆に票を減らす要因になっている可能性すらある。

カジノ誘致推進を進めた張本人の菅首相がIR取りやめを表明した小此木氏を「全面的かつ全力」で推薦する矛盾! ほとぼりが冷めたらカジノ誘致に切換えの布石か!? 横浜市長選は「カジノ 対 反カジノ」から「菅首相 対 藤木会長」へ!

 立民推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授が挨拶した7月25日の決起集会で、畑野君枝・衆院議員(共産)は、変節した菅首相の全力投球ぶりを次のように説明した。

▲畑野君枝・衆院議員(横田一氏提供)

 「これまでカジノ推進で林市長を支えてきた自民党と公明党は、市民の『カジノ誘致反対』『勝手に誘致を決めるな』という大きな声を前に行き詰まり、こっそりと『カジノ誘致撤回』という、候補の支援に回るという驚くべき状況が起こっています。

 何よりもカジノ誘致推進を進めた張本人の菅首相が、『横浜へのIR取り止め』という小此木さんに対して『私は小此木さんのぶれない信念と横浜の未来への責任ある決断を支持します』という推薦状を各団体に送っているのです」

 カジノ誘致取り止めを掲げて選挙に臨んでいる小此木氏を、カジノ誘致を推進してきた菅総理が推薦するとは面妖である。誰でも「これには裏があるな」と疑う。

 4日後の7月29日発行のタウン誌でも、菅首相は小此木氏と対談し、「全面的かつ全力で応援する」と明言もしたが、小此木氏が菅首相に救いの手を差し出した形になった経過を振り返ると、全面支援は至極当然の恩返しであることが分かる。

 菅総理のお膝元である横浜市の市長選で敗北を喫すれば、「菅首相では選挙が戦えない」と見なされて菅降ろしを引き起こす恐れがあるが、小此木氏出馬までは敗色濃厚だった。

「菅首相直系のカジノ推進候補 対 野党系反カジノ候補」という与野党激突の構図となれば、世論調査では常にカジノ反対が多いため、野党が有利とみられていたのだ。

 しかも「ハマのドン」こと藤木幸夫会長も、カジノ推進の旗振り役である菅首相を安倍政権時代から批判する一方、反カジノ候補を支援することを宣言していた。カジノ誘致が最大の争点の横浜市長選は、「菅首相 対 藤木会長」という側面もあわせ持っていたのだ。

林市長のIR誘致表明で「ハマのドン」藤木会長が「顔に泥を塗らせた」と「影の市長」菅氏を批判! 「命を張ってでも反対する」と徹底抗戦を宣言!

 公開された映画「パンケーキを毒見する」(IWJ提供の映像も登場)の「主役」である菅首相は、小此木八郎氏の父親の彦三郎・元建設大臣の秘書を皮切りに横浜市議を経て国会議員へと登り詰める中、「影の(横浜)市長」と呼ばれるようにもなっていた。林文子市長(2009年8月~現在)に大きな影響を与えてきた実力者が菅首相というわけだ。

▲前回2017年の横浜市長選では、菅氏は林市長を支援した(横田一氏提供)

 2019年8月に林市長がカジノ誘致表明をした直後、藤木会長は緊急会見を開いて「顔に泥を塗られた。泥を塗ったのは林さんだけど、塗らせた人がいる」と背後に菅首相(当時は官房長官)の存在を示唆。

 「菅さんは安倍首相(当時)の腰巾着。安倍首相はトランプ大統領の腰巾着」と人物評定をしながら、「カジノ業者が大口献金者のトランプ大統領の意向でカジノ法案が安倍政権下で成立、横浜などへのカジノ誘致が進む」というアベ米国下僕政治を分かりやすく解説。

 その上で、藤木氏は「俺は命を張ってでも反対する」と啖呵を切り、菅首相らカジノ推進勢力との徹底抗戦を宣言した。

 こうして藤木氏は「反カジノの象徴的人物」(江田憲司代表代行)として注目されるようになったのだ。

 その後も、カジノ誘致阻止に向けた活動を展開。藤木氏が会長の「横浜港ハーバーリゾート協会」を設立してカジノ抜きの開発計画を発表した。

 今年5月22日には反カジノ市長誕生を目指す「横浜未来構想会議」が発足、議長に就いた藤木氏は基調講演。秋田生まれで横浜が第二の故郷の菅首相を「旅人」と表し、「旅人に(横浜の未来の)絵を描かれたら困るだろう」と批判。カジノ推進の黒幕的存在である「影の市長」への対抗心を露わにしたのだ。

 発足集会には反カジノ候補擁立を目指す野党国会議員や地方議員や住民投票の署名活動に取組んだ市民も多数参加。そのため、この頃から横浜市長選は「『影の市長』が操るカジノ推進候補 対 藤木会長・市民団体支援の野党系反カジノ候補」という一騎打ちに近い構図になると見られていたのだ。

「ゲームチェンジャー」小此木氏の出現で菅首相と藤木会長の関係改善!?

 「反カジノの象徴的人物」の藤木氏と市民団体と野党が支援する候補を相手に、菅首相直系のカジノ推進候補が戦えば、与党の劣勢は確実。

 そこで自民党神奈川県連会長でもあった小此木氏は、「盟友」である菅首相の危機的状況を救うため、ゲームチェンジャー役を買って出たのではないか、という見方が浮上してくる。「カジノ誘致取り止め」を掲げて不人気政策を撤回、市長選最大の争点潰し(隠し)によって局面打開をはかろうとした狙いがあるのではないか、と疑われる。

 しかも、カジノ誘致をめぐって対立してきた「菅首相と藤木会長」の関係改善にもプラスに働くのは言うまでもない。小此木氏の出馬会見で私が、「両者の関係改善も狙いではないか」と質問したのはこのためだ。

山中候補の選対名誉議長の藤木会長が「カジノは小さな問題」「当選するのは(小此木)八郎でしょう」と発言! 真意は!?

 藤木会長の発言に変化が見られたのは、8月3日の外国人特派員協会での記者会見。ここで菅首相の評価について問われた藤木会長は、世襲議員だらけの政界を問題視する一方、世襲議員ではない菅首相を「異色」「草履取りが総理大臣になった」と持ち上げて批判を封印した。

 また「カジノは小さな問題」とも述べて、「(横浜市長選で)当選するのは(小此木)八郎でしょう」という予測まで口にした。

 それまで藤木会長は、山中氏を支援することを公言していた。7月17日に山中氏の事務所開きに駆け付けた際には「山中さんにしっかりお願いする」と支援表明をしただけでなく、山中氏の選対会議の名誉議長にも就任していたのだ。それなのに、なぜ8月3日の会見で相手候補勝利を予測する発言をしたのか。

▲山中竹春氏の第一声に駆け付けた藤木幸夫会長(横田一氏提供)

 8月8日に山中氏の第一声の街宣場所に駆け付けた藤木会長に声をかけ、素朴な疑問をぶつけてみた。

横田一「『小此木さんが勝つだろう』と会見で仰っていましたが?」

藤木幸夫会長「そう言って、そう言っておかないと仕方がないでしょう」

横田「油断させるのか?」

藤木会長「そうそう。選挙のたびに俺は相手を褒めるのが俺のやり方だったのよ。40年間、やって来たのだよ」

横田「(相手候補の陣営を)油断をさせて逆転するということか?」

藤木会長「後でちゃんと言いますから」

秋田出身の菅首相は「旅人」、山中氏は「地元の人」! 藤木会長は「山中さんは当選するのは間違いない」と断言!

 この後、マイクを握った藤木氏からは小此木氏勝利の予測と正反対の発言が飛び出した。「山中さんは当選するのは間違いない」と断言した上で、山中氏への支援を次のように呼びかけたのだ。

 「『山中しかいない』とみんな言ってやって下さい」「私も選挙中は一生懸命話して歩きます。皆さん、『藤木が頭を下げていたな』と(思い出して)俺も頑張ろうということで私を助けて下さい。私の夢を実現させて、私と一緒に万歳をさせて下さい」

 藤木氏の締めの言葉も印象的だった。秋田出身の菅首相を「旅人」と突き放したのとは対照的に、山中氏を「地元の人」と表したのだ。

 「この人は『旅人』ではありません。本当に原住民です。地元の人です。頑張って行きましょう」。

 藤木会長の会見発言を額面通りに受け取ると、小此木氏出馬によって切り崩されて菅首相とも関係改善をしたようにも見えるが、どうやら別の狙いが込められていたらしい。

 菅首相が全面支援、自民市議も36名中30名の8割以上が支援に回る小此木氏は、自公推薦に近い強力な選挙態勢にある。そこに藤木氏から「小此木氏が勝つだろう」という勝利予測が飛び出せば、小此木陣営の緩みを誘発しても不思議ではなく、その間隙を縫って山中氏支援を訴えるというものだ。

カジノ誘致予定地の山下埠頭では「米中戦争」が勃発!「誘致反対」でほとぼりが覚めたら米系カジノを誘致!? 小此木氏を「隠れカジノ推進派」と疑う人は4割!

 小此木氏出馬によって危機的状況が一気に好転するかとも思えたがが、実際は三つ巴の戦いで決定的なプラス効果はなかったようだ。

 小此木氏は第一声で、「隠れカジノ推進派」と疑う人が「4割」もいると訴えていた。

 「『IR本当に止めるの』。4割の方々は疑いの眼差しで見ているのです。『どうせ菅さんと結託をして当選をしたら、ほとぼりが冷めたらもう一回やり直すのだろう。前の人がそうだったではないか』。これが恐らく有権者の皆様の正直な思いだと」。

 ちなみに藤木氏は山中氏への応援演説で、カジノ誘致予定地の山下埠頭で米中戦争が起きていることも次のように紹介した。

 「トランプの使いが俺のところに来たのだから。ご飯を食べながら話をしました。『何とかしてくれ』と。米中戦争をやっているのだよ、(カジノ誘致予定地の)山下埠頭で。アメリカは『もう絶対に中国には貸さないでよ。藤木さん、頼むよ。アメリカは引っ込むけれども、俺のところは引っ込むけれども、中国には渡さないでくれ』と」。

 この米国側の働き掛けと符合する話を立民の江田憲司代表代行はしていた。6月29日の山中氏の出馬会見に同席、小此木氏を「隠れカジノ推進派」と疑っていたのだ。

▲山中氏の出馬会見に同席した立憲民主党・江田憲司代表代行(横田一氏提供)

 「本当はアメリカ系カジノ業者を誘致したかった。中国系(カジノ業者)ばかりが申請している。(小此木氏が)仮に当選をして1年位経って、ほとぼりが冷めたら『環境条件が整った。いろいろなヒアリングも説明会もした。環境条件が整った』と言って誘致を表明するという疑念が消えない。『もう騙されないぞ!』ということだ」

 小此木氏が反カジノ候補と認められるのか、それとも「隠れカジノ派」と見られるのか。藤木会長の意味深な発言をどうとらえるのか。この二つが、結果を左右する要因になりそうだ。

 菅首相の命運を左右する横浜市長選から目が離せない。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です